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EVキーマンに聞く/EVレース王者 地頭所光選手⑥「2022シーズンは強敵だらけ。5連覇はそう簡単じゃない」

2022年5月11日更新

地頭所光選手_6

4連覇できたもうひとつの要因は

EVレースが東大の授業になったこと。

人員と資金の投入が好影響をもたらし、

他を圧する走りにつながった。

このまま今シーズンも楽々制覇するのか?

この問いに対して王者は、

昨年の敗戦レースを振り返りながら

「5連覇は苦労するかも」と返答した。

なぜか笑みを浮かべながら……。

テスト走行で実力アップ

——全日本EVグランプリシリーズ(All JAPAN EV-GP SERIES)4連覇の要因のひとつとして、速いテスラ車の存在があったことはよくわかりました。でも、ほかにも要因はありますよね?

地頭所 もちろん、あります。2019年と20年の2年間、東京大学の授業とジョイントして、「チームタイサン東大」として活動できたことは、間違いなく勝利を引き寄せた要因のひとつだと思います。

——2年間、EVレースが東大の授業になり、それが好影響を及ぼした?

地頭所 そうです。東大自動車部のOB・元顧問で、全日本ラリーのコ・ドライバーもされていた草加浩平教授がチーム・タイサンと提携し、工学部で「EVレースを通してEVの性能を知り、将来の自動車を考えよう」という内容の課外授業を開始しました。それによって、毎レースに学生がスタッフの一員として派遣されるようになり、チームは人的にも戦略的にもかなりの充実が図られるようになった。しかも、予算面でもある程度融通が利くようになり、レース車両を運ぶ積載車が導入されるなど、選手の負担を軽減する環境ができあがった。本格的なレーシングチームのような態勢が整ったんです。

——選手としては、戦いやすく勝ちやすい環境になったんですね。

地頭所 はい。草加先生が熱心に活動推進してくださったため、サーキットでテスト走行ができるようになったことも相当大きかったです。筑波サーキットや富士スピードウェイを走り込み、レーサーとしての腕を基礎から徹底的に磨き直せましたし、スーパー耐久ST-3クラスのマシン並に、250~260キロが軽く出るモデル3に乗り換えてからは、ハイスピードレンジの走行技術・技量も鍛えることができました。これがなければ、連覇はなし得なかっただろうと思っています。

EVレース特有のテクとメンタル

——今、4連覇の要因として、ドライビングの腕を磨いたことが大きかったとの話が出ました。どういったことがポイントなのか、改めて教えてもらえますか?

地頭所 テクニック面で言うと、コーナリングでは旋回重視の走り方をしています。大排気量のガソリン車だと、基本的にアウト・イン・アウトでいかにアクセルオンのタイミングを早くするかということに注力すると思うんですが、僕のモデル3での走行法は、なるべく突っ込んで、回生を使わずにフットブレーキで減速して、なおかつボトムスピードを下げないで保ったままコーナーを抜けていく……それを心掛けています。ガソリン車と同じように走ってしまうと、ボトムスピードを下げた分だけ加速しなくてはいけないので、そこでバッテリーを無駄に消費してしまうことになるんです。だから、立ち上がりもジワッという感じで、アクセルをパーンとは踏まないんです。

——その走り方はいつ頃、身に付けたんですか?

地頭所 2018年のテスラモデルS時代……加速も良くないし、ていねいな走り方をしなければいけないクルマだったので、その1年で体得した走りですね。

——では、メンタル面で気にしていることはどんなことですか?

地頭所 予選よりも決勝レースで、メンタル面の影響が出ると思います。1位を走っているか、2位を走っているかで、メンタルの負荷が全然違うんです。2位以下って「自分でペースを決めなくていい」というところがある……。例えば、1位を追う2位であれば、空気抵抗の少ない位置取りで同じように走って、トップが潰れれば勝てるわけです。メンタル的には有利なスタンスですよね。

——1位の方がメンタル面できついのですか?

地頭所 そう思います。1位だと、「後から来ている」という焦燥感があって、勝手にタイムが速くなっていってしまうことがあります。自分は1周のタイムを決めているのに、「あれっ」と気付くとタイムが上がってしまっているんです。そうなると後半でバッテリーが尽きてしまう、というEV特有の事情が生じます。そこで、意地でも自分の走りをキープするっていうメンタルが必要なのかなと思います。ただ、そうは言っても1周のタイムに忠実なだけでは抜かれてしまうので、後続マシンをいい感じでブロックしつつ、焦りも抑えつつ、その上で1周のタイムをキープする……そんな感じでしょうか。

2021全日本EVグランプリシリーズ第1戦_テスラモデル3

——その他、レースを計算したり、作戦を組み立てたりする、言わば知能面での特徴はどうですか?

地頭所 そこは、ピット側にいる東大の学生たちが、そこのところを発揮してくれていたと思います。残りの周回とバッテリー残などを計算して、無線でアドバイスしてくれるので。それを受けて僕は感覚的にアクセルを調節していました。これまで目立って言われていませんでしたが、彼らの英知は2020年からの勝利を支えてくれた大きな要素ですね。

——今年も、その方々はピットにいるんですか?

地頭所 それが……去年まで2人いて、1人が他車の状況とタイムを記録してくれ、もう1人が電池残量を確認して計算してくれる……その連携がうまくいっていたんです。でも、今年は1人が就職してしまったので、どうしようか考えているところです。

——そういう課題はあるものの、やはりピットとの連携は重要なんですね?

地頭所 僕にとってはかなり重要ですね。走りながらいろんな情報を受け取って、それで走りを組み立てる、というマルチタスクな走りをしていますから。

——それは以前からそうなんですか?

地頭所 いいえ、2018年とかは走りながら無線が入ってくると「集中できないな」という感じでしたが、経験を積んで変わりました。今は雑談するみたいに無線で話しながら、決勝レースのバトルをやっていますから。

負けたレースが嬉しい!?

——4連覇に関する最後の質問です。昨シーズンまで勝ち続けてきた中で、最も感慨深かったレースをひとつ挙げてもらえますか?

地頭所 初参戦初勝利のレースをはじめ、勝ったレースはどれも感慨深いですが、2021シーズンの筑波サーキットでの第6戦、TAKAさん選手(スエヒロ自動車商会所属、2020&2021シーズンにテスラモデル3を駆り総合部門で年間2位)に優勝を持っていかれたレースは非常に感慨深かったですね。負けた悔しさはあったけれど、一方でこれまでにない清々しさというか、大きな喜びのようなものを感じました。

2021年第6戦表彰式

2021シーズン第6戦後の表彰式での1シーン



——負けたレースで喜びを感じたとは、いったいどういうことなんでしょう。

地頭所 TAKAさん選手は、もともと上手くて速い人ですが、僕より遅く参戦してきてEVレース経験が少なかったし、チームとしても僕らのほうが一日の長があったので、真っ向勝負のレースではずっと、僕が先行して引き離す展開で勝ち続けていました。勝利すること自体は嬉しかったわけですが、その反面、競い合いがないところにちょっと物足りなさも感じていました。

——勝ち続けながらも、そんなことを感じていたんですね。

地頭所 ところが、あの日はそうじゃなかった。終始ヒリヒリするレース展開で、僕はTAKAさん選手と真っ向勝負のトップ争いを繰り広げた末に負けてしまったんです。もう完敗でした。こんな言い方をすると尊大に聞こえるかもしれないですけど、待ち望んでいた真の強敵が出現した瞬間でした。だから、完敗はとても悔しかったけれど、熱いレースが好きな一人のレーサーとして喜ばないわけにはいかなかったんです。

——なるほど。ときどきTAKAさん選手にレースの意気込みをお聞きしていますが、いつも笑顔で「楽しく走って、表彰台に乗れればいいかな」みたいな答えではぐらかされています(笑)。でも、実はずっとトップの座を狙って精進し続け、ついにそれを達成したわけですね。

地頭所 TAKAさん選手は、レースを重ねるごとにEVのドライビングが上手くなっています。そして、モデル3の特性をよくつかみ、サーキットの特性やコンディションに合わせたセッティングを緻密に行っています。あのレースは60㎞で他のレースより長かったんです。彼はバッテリーマネジメントにおいて「回生を増やして、バッテリーの残量を確保する」セッティングを選んでいました。それで、前年優勝したときと同様に「バッテリーの温度上昇を抑える」ことを重視したセッティングをしていた僕を盛んにプッシュし続け、結果、電欠にさせて置き去りにしていった。作戦が巧妙というか、本当に高レベルのレース運びをしました。あの笑顔の裏には、そんなクールでハードな本格レーサーとしての顔があるんですよ。だまされちゃいけません(笑)。

——TAKAさん選手以外にも、最近は実力派レーサーが全日本EVグランプリシリーズを走るようになっています。2022シーズンは、地頭所選手もうかうかしていられないですね。

地頭所 まさにそのとおりです。5年連続総合チャンピオンの座を狙っていますけど、強敵が増え、それぞれの実力も拮抗してきたことを考えると、達成は簡単ではありません。たとえ達成できたとしても、苦しんだ末のことになるでしょう。でも、それは望むところです。ドキドキワクワクできるシーズンを、心の底から楽しんで戦いたいと思います。

——今シーズンはこれまでにない面白いバトルを数多く目撃できそうです。存分に楽しませてもらいます。――つづく

EVキーマンに聞く/EVレース王者 地頭所光選手
①「小学生時代、ラジコンカーが僕のレース本能に火をつけた」
②「10分間の初カート体験。これが人生のターニングポイントになった」
③「“カートからレーサー”は無理と感じ、東大受験に専念」
④「“東大の神”と呼ばれた僕(笑)。偶然のEVレース参戦で夢が再燃」
⑤「4連覇できたのは、圧倒的に速いテスラ車を駆っていたから」
⑥「2022シーズンは強敵だらけ。5連覇はそう簡単じゃない」
⑦「トップレーサーになって、EVのワールドカップに挑戦したい」


地頭所光(じとうしょ・ひかる)
1996年千葉県生まれ。小学生のときにラジコンカーの趣味がきっかけでスーパーGTを観るようになり、レーサーになる夢を持つ。中学1年から高校2年にかけてカートレースを経験。2016年に東京大学に入学してからは自動車部に所属してジムカーナやラリーに出場して勝利を重ねた。大学3年時からJEVRA主催の全日本EVグランプリシリーズ(ALL JAPAN EV-GP SERIES)に参戦し、2021年のシリーズまで4連覇を達成。また、2021年にはTGR 86/BRZ Raceのクラブマンエキスパートクラスにも参戦し、開幕から6勝してシリーズチャンピオンに輝いている。2022年シーズンの目標は全日本EVグランプリシリーズの5連覇と、GR 86/BRZ Raceプロクラスでの優勝およびFIA-F4でのシリーズ入賞。

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