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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2022年5月11日更新
全日本EVグランプリシリーズ初参戦で勝利。
以降、4年連続で年間チャンピオンに。
「東大生レーサー」地頭所選手は、
栄光をもたらしたテスラ車に心底ほれた。
できればマイカーにしたいくらいに……。
ぶっつけ本番の初戦
—では、改めて日本電気自動車レース協会(JEVRA)主催の全日本EVグランプリシリーズ(ALL JAPAN EV-GP SERIES)への初参戦についてお聞きします。
地頭所 はい。
——当初、エンジン車のレースではなく、市販EVもしくはコンバートEVによるレースだと聞いて、どう思いました?
地頭所 まず、「EVのレースって日本でやってるの?」と驚きましたね。僕はEVを運転したことがなかったし、知らないクルマで初めて大きなサーキットを走ることになるので、「大丈夫かな」とすごく不安になりました。なので一応、前年にモデルSでEVグランプリを走った国沢光宏さんの映像を開幕前にYouTubeで観て予習をしました。
——もちろん練習もしたんですよね?
地頭所 いえ、練習はしませんでした。レース当日の早朝にチーム・タイサンの千葉代表の自宅に行ったらテスラモデルSが置いてあって、「これで練習がてらサーキットまで走ってからレースに出なさい」と言われたので、そのまま筑波サーキットまで運転した上でレースに出場したんです。出発前に「全開のアクセルを踏み続けるとバッテリーが過熱して加速制御がかかるから気をつけなさい」と簡単なレクチャーを受けましたけど、ほとんどほったらかされた状態でしたね。
——そうでしたか。でも、それでも優勝できた。
地頭所 ええ、幸いにも優勝できました。結局、そのシーズンは全6戦に出場して3勝し、総合部門で年間チャンピオンになることができました。
テスラ車の独壇場
——初参戦の2018年に年間チャンピオンに輝いて以降、勢いは衰えず、昨年の2021年まで4連覇を達成しています。その間、地頭所選手が東京大学の3~4年生、大学院の1~2回生だったので、「東大生レーサー」として注目を浴びました。我々も何度か現地でレースを観て、「なんて速くて強い東大生なんだ」と感心したものです(笑)。
地頭所 あはは……、ありがとうございます。
——ということで、ここからは最も知りたかった話をお聞きします。4連覇した地頭所選手の強さの秘密って何ですか?
地頭所 強さの秘密ですか? うーん、第一の要因としては、やっぱり速いテスラ車に乗り続けられたってことじゃないでしょうか。18年と19年のシーズンに乗っていたモデルSは、下位クラスのクルマと比べて1周のタイムが5~6秒速かった(※全日本EVグランプリシリーズのレースは車種やモーター出力数でクラス分けされた車両が混走する形式で実施)。ときにモーター出力の大きなコンバートEVや性能向上を果たした日産リーフe+に抜かされたりもするんですが、総合的にはほとんど負けなかった。シーズンを通して同じ最上位クラスのテスラモデルSやロードスターの数台との戦いを制しさえすれば優勝できたんです。
——そうなんですね。
地頭所 20年と21年のシーズンでは、もっと速くてバッテリーの熱マネジメントがしやすくなったテスラモデル3に乗り換え、国産EV勢などその他のマシンとの速度差はさらに開きました。しかし、それで勝ちやすくなったかというと、同じモデル3を駆る強豪ライバルが増えてきて、EVレース史上かつてなかった“モデル3ワンメイク”状態での接戦が繰り広げられるようになりました。
——確かに。
地頭所 まあ、21年シーズンの前半にはポルシェタイカン・ターボSが参戦してきて、モデル3も及ばないものすごい直線スピードを披露したわけですけど、タイカンは車重が大きい上に、フロントパネルにバッテリーの過熱表示がされないなどドライバーが熱マネジメントをしにくい部分があって、毎回レース中盤で必ずスピードダウンし、結局はモデル3の一人勝ちになりました。総合的に見ればモデル3の性能は市販EVの中では断トツなので、僕を含むモデル3勢は必然的に優勝する可能性が高かったということなんです。
街乗りでも魅力的なモデル3
——テスラ車って、いろいろ毀誉褒貶はあるみたいですが、地頭所選手からするとやっぱり「すごいクルマ」ということになるんですね。
地頭所 テスラの中でも、特にモデル3はすごいです。レースカーという視点では、とにかく速くて「人馬一体」感が素晴らしい。アクセルのレスポンスがエンジン車よりも明らかによくて、思い通りに瞬時に加速してくれます。この特性はほかのEVでも言えることではあるんですが、モデル3の場合はバッテリー容量とモーター出力が大きいので、次元の異なる速さと「人馬一体」感が出るんです。
——基本は街乗り用なのに、レースに向いている1台だ、と。
地頭所 そうです。実は、モデル3にはサーキット走行用のモードが設定されているんですよ。レースに出るときはフロントのタッチパネルでトラックモードを選択すれば、スタビリティコントロール、トラクションコントロール、回生ブレーキ、冷却システムなどをレース向けにセッティングすることができます。僕が所属するチーム・タイサンでは、足回りを強化したり、バッテリーを冷却する水ポンプを付加したりして、さらにレースに適した改造を施していますけど、ノーマルのままでも十分に戦えるポテンシャルを秘めているんです。あと、パネルにバッテリーの過熱状態がわかりやすく色分けで表示されるのもレースに向いている機能のひとつですよね。
——ちなみに、街乗り車としてのモデル3をどう評価していますか?
地頭所 まず、操作が簡単な上に、EVの中でも最上級のスムーズな走りが楽しめるところが魅力です。それから、スタイリングもいい。さらに、なんともいえない近未来感がありますよね。ネットを通して性能をアップさせていくという考え方も画期的……。僕の今のマイカーは日産180SXとマツダロードスターなんですけど、余裕があればモデル3も欲しいですよ。
——街中ではレースのときのようなスピードは出せませんが、それでも欲しい?
地頭所 僕はもともとサーキット以外ではスピードを出さないタイプ。だけど、圧倒的なスピードが出せるっていうポテンシャルは持っていてほしいと思います。トラックモードがあるモデル3はまさにそれを体現する1台だと思うんです。
——なるほど。基本性能はもちろん、プラスαの部分に魅了されているわけですね。
地頭所 プラスαは大事だと思います。日本メーカーのEVは、マーケティングや顧客ニーズに沿った要件を満たしさえすればOKという感じでつくられていますよね。余計なことはあまりしないわけですが、そこがあまり売れていない原因かもしれません。魅力的なクルマって、想像を超えた機能と性能を必ず備えているじゃないですか。使うかどうかは別として、その部分がドライバーをワクワクさせてくれたり、安心させてくれたりする。テスラは常にそれをやってくるんですよ。だからクルマが魅力的になり、結果、世界中で売れることになる……。日本のメーカーには、もっと余計なことをやる努力を望みたいですね(笑)。――つづく
EVキーマンに聞く/EVレース王者 地頭所光選手
①「小学生時代、ラジコンカーが僕のレース本能に火をつけた」
②「10分間の初カート体験。これが人生のターニングポイントになった」
③「“カートからレーサー”は無理と感じ、東大受験に専念」
④「“東大の神”と呼ばれた僕(笑)。偶然のEVレース参戦で夢が再燃」
⑤「4連覇できたのは、圧倒的に速いテスラ車を駆っていたから」
⑥「2022シーズンは強敵だらけ。5連覇はそう簡単じゃない」
⑦「トップレーサーになって、EVのワールドカップに挑戦したい」
地頭所光(じとうしょ・ひかる)
1996年千葉県生まれ。小学生のときにラジコンカーの趣味がきっかけでスーパーGTを観るようになり、レーサーになる夢を持つ。中学1年から高校2年にかけてカートレースを経験。2016年に東京大学に入学してからは自動車部に所属してジムカーナやラリーに出場して勝利を重ねた。大学3年時からJEVRA主催の全日本EVグランプリシリーズ(ALL JAPAN EV-GP SERIES)に参戦し、2021年のシリーズまで4連覇を達成。また、2021年にはTGR 86/BRZ Raceのクラブマンエキスパートクラスにも参戦し、開幕から6勝してシリーズチャンピオンに輝いている。2022年シーズンの目標は全日本EVグランプリシリーズの5連覇と、GR 86/BRZ Raceプロクラスでの優勝およびFIA-F4でのシリーズ入賞。
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