ロータスクラブが運営するクルマとあなたを繋ぐ街「ロータスタウン」

みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

EVキーマンに聞く/EVレース王者 地頭所光選手 ②「10分間の初カート体験。これが人生のターニングポイントになった」

2022年5月11日更新

地頭所光選手_2

ラジコンカーの趣味をきっかけに、リアルなレースも観戦するようになった地頭所少年。

観戦だけでは飽き足らず、遂にサーキットを走ることに。

果たして、当時から才能の片鱗は見えていたのか?

第2回目は、初のカート走行、そして初レースのお話。

スピンして快感

——ラジコンカーの趣味をきっかけにしてリアルなレースにも興味を持ったとのことですが、実際にサーキットを走るようになるのは、ずっと後なんですよね?

地頭所 いえ、小学校6年生の9月に、カートでサーキットデビューを果たしています。

——興味を持ってからすぐにサーキットデビューした、と。

地頭所 はい。当時は東大入学者を多く輩出している中高一貫校の受験を控えていて、あまり時間が取れない状況でした。それでも、『オートスポーツ』という雑誌で小さい子が出場しているレーシングカート大会の記事を目にして、自分もサーキットを走りたいという欲求が高まり、いても立ってもいられず、家から30㎞ほどのところにある新東京サーキットに走りに行ったんです。

——まさか一人で行ったわけじゃないですよね?

地頭所 父にクルマで連れて行ってもらいました。サーキットの位置やレンタルカートの借り方などはぜんぶ自分で調べましたけどね。

——お父さまは反対しなかったんですか? 受験勉強をしなくてはいけない時期なのに、カートに乗っている暇があるのかって。

地頭所 特に反対はされませんでした。たぶん、受験勉強の合間の気晴らしぐらいに捉えていたんだと思います。

——初カートの印象はどうでした?

地頭所 その日は雨で、4ストロークの重いカートを借りて乗ったんですけど、走り出してすぐの3コーナー目でいきなりスピンしちゃいました。ズルッと滑ってクルクルって感じで……。でも、それにめちゃくちゃ興奮し、快感を覚えたんですよ。

——スピンが快感だった?

地頭所 2008年当時の僕は、かなりマニアックなやつだったんです。その年のGT500クラスで、好きなRAYBRIG NSXがスピンばかりしていたのを観ていて、自分もああいうのを体験したいと思っていました。幸いにもそれを実現できたわけで、そんなハッピーなことはないわけですよ。喜びの感情が爆発しましたね(笑)。

——ああ、確かにマニアックかも(笑)。

地頭所 あの走行は、スピンしたことも含め、本当に最高の10分間だった。リアルなマシンを思うままに操作できて、ミスったらスピンするというのがものすごく新鮮で素敵なものに感じられたんです。今振り返れば、あれは人生のターニングポイントとなった10分間といっても過言ではないですね。

——人生のターニングポイントの10分間ですか。

地頭所 はい。連れて行ってくれた父は、息子があのわずかな時間を経験したことで、その後ずっとモータースポーツに携わることになるとは微塵も思っていなかったでしょうね(笑)。

資金源はお年玉

—レーサーへの夢を持ちつつ、その後は受験勉強に集中して志望の中学に入学したんですよね?

地頭所 いや、実は目指していた中学には入れなかったんですよ。

——……そうでしたか。

地頭所 初カート走行のあと、しっかり勉強に取り組んだんですけど、残念ながら不合格でした。なので、普通の公立中学に入って、改めて同じ志望校に高校から入学することを目指しました。レーサーになりたいという夢を持つ一方で、東大に入りたいという想いも強くありましたから。東大生も、レーサーと同じくらい格好いいなって思っていたんです。

——では、中学生のときのカート走行は、勉強の合間を縫って続けることに?

地頭所 そうです。学校のほかに週3回塾に通っていたし、陸上部に入って短距離の選手もやっていたので、なかなかカートのための時間が取れませんでした。中学生になって初めて乗ったのは1年生の7月のこと。そのときは速い2ストロークのカートに乗り、速さに感動したんですが、以降は、2ヵ月に1回ぐらいのペースでしか乗れませんでした。まあ、初心者走行枠で1時間走るのに、サーキット走行料とカートのレンタル代で7,000円ほどかかるので、お年玉貯金を取り崩していた中学生の僕には、それが金銭的にも限界だったんですけどね。

——一般的にレーサーになる人は、幼いころから資金面では両親のサポートなどを受け、カート走行を繰り返しながら腕を磨いてステージアップしていくと聞きますが、そういう環境にはなかったわけですね。

地頭所 そうですね、カートは自分が好きでやっていたことなので……。家からは塾の授業料などもたくさん出してもらっていたので、そこは切り分けていましたね。

初レースで褒められて

——中学生なりに苦労してカート走行を続けていた。それだけに、たまに走ると相当楽しかったんじゃないですか?

地頭所 それはもう相当楽しかったです。レースになると、なおさらでしたね。

——すでにレースにも出ていたんですか?

地頭所 中学1年の9月に初レースを経験しました。レンタルカートでお世話になっていた『レーシングスクエアGEN』というショップが主催する120分耐久レースがあり、主にレース好きの大人たちが趣味的に走っていたんですけど、どうもメンバーが足りなかったみたいで、「地頭所君たちも走ってみない?」と声を掛けられました。そこで、陸上部の友人と一緒に参戦してみたんです。

——うまく走れましたか?

地頭所 当時の僕は雨男だったのか、その日は雨。しかも豪雨でした。初心者の上に雨の影響もあり、午前に行われた余興的なスプリントレースの走りはまったくダメでした。でも、午後の本番の耐久レースではコンディションが一転。周回ごとにタイムが上がっていき、チームの大人たちからも「地頭所君、なかなかやるじゃないか」って褒められるほどの走りができた。そのとき、大きな達成感を得たのが印象に残っています。確か、チームの順位は13台中の6位と低調だったんですけどね。

——では、その後もレースに参戦するようになったわけですね。

地頭所 はい。次に参戦したのは半年後の中学2年の4月のこと。またまた雨だったんですが、そのときはスプリントレースで2位になり、初の表彰台をゲットできました。夢と現実の狭間でちょっとジレンマを感じていた僕は、そこでさらに前向きな気持ちになれた。少ない回数であっても走り続けて腕を磨けば、きっと成績がついてきて、夢に近づけるかもって思ったんです。当時は健気な少年でした(笑)。――つづく

地頭所選手_カート走行

新東京サーキットを疾走する地頭所選手(カーナンバー31 ※写真は高校1年生のときのもの)



EVキーマンに聞く/EVレース王者 地頭所光選手
①「小学生時代、ラジコンカーが僕のレース本能に火をつけた」
②「10分間の初カート体験。これが人生のターニングポイントになった」
③「“カートからレーサー”は無理と感じ、東大受験に専念」
④「“東大の神”と呼ばれた僕(笑)。偶然のEVレース参戦で夢が再燃」
⑤「4連覇できたのは、圧倒的に速いテスラ車を駆っていたから」
⑥「2022シーズンは強敵だらけ。5連覇はそう簡単じゃない」
⑦「トップレーサーになって、EVのワールドカップに挑戦したい」


地頭所光(じとうしょ・ひかる)
1996年千葉県生まれ。小学生のときにラジコンカーの趣味がきっかけでスーパーGTを観るようになり、レーサーになる夢を持つ。中学1年から高校2年にかけてカートレースを経験。2016年に東京大学に入学してからは自動車部に所属してジムカーナやラリーに出場して勝利を重ねた。大学3年時からJEVRA主催の全日本EVグランプリシリーズ(ALL JAPAN EV-GP SERIES)に参戦し、2021年のシリーズまで4連覇を達成。また、2021年にはTGR 86/BRZ Raceのクラブマンエキスパートクラスにも参戦し、開幕から6勝してシリーズチャンピオンに輝いている。2022年シーズンの目標は全日本EVグランプリシリーズの5連覇と、GR 86/BRZ Raceプロクラスでの優勝およびFIA-F4でのシリーズ入賞。

関連キーワード

  • ロータスカードWeb入会
  • ロータスカードWeb入会
  • 店舗検索
  • 店舗検索
  • 楽ノリレンタカー
  • 楽ノリレンタカー

あわせて読みたい

  • ALL JAPAN EV-GP SERIES 2023 第4戦レポート(1)―王者TAISANがモデル3を3台投入し、ガチで逆転チャンピオンを狙いにきた!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    ALL JAPAN EV-GP SERI…

    ついに王者がガチで勝ちにきた。8月11日(金・祝)、袖ケ浦フォレストレースウェイで開催されたALLJAPANEV-GPSERIES2023の第4戦「全…

    2023.08.31更新

  • BookReview(22)『自動車新常態』 – アフターコロナではクルマのCASE化がぐっと加速する!?

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    BookReview(22)『自動車新常…

    真のニューノーマルはアフターコロナでも残る新型コロナウイルスの流行は、われわれの生活や仕事のスタイルを大きく変えた。マスクをする習慣の定着、混む公共交通や…

    2020.11.26更新

  • eKクロスEVの魅力⑤「毎日が気持ちいい軽EV。日本のEVシフトはこの1台から本格化する」…まるも亜希子(カーライフジャーナリスト)

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    eKクロスEVの魅力⑤「毎日が気持ちいい…

    カーライフジャーナリストのまるも亜希子さんに、eKクロスEVの魅力を徹底解説してもらうこのインタビューもラストのパートとなった。パート5では、ユーザーからの視点…

    2022.08.09更新

  • 次世代エコカー勉強会〈19時限目-中編〉2023年4月施行の改正道路交通法で自動運転レベル4へ

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    次世代エコカー勉強会〈19時限目-中編〉…

    特定自動運行が社会にもたらすさまざまなメリット2023年4月施行の改正道路交通法に伴い、自動運転レベル4に相当する、運転者がいない状態での自動運転移動サービ…

    2023.04.25更新

  • 【ルポ】日本EVクラブ『電気自動車EVスーパーセブンで東北被災地を巡る旅』③・・・「東北の人たちがEVに乗れば震災支援の恩返しができる」(柴山明寛)

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    【ルポ】日本EVクラブ『電気自動車EVス…

    災害大国にはEVが不可欠日本は災害大国だ。頻発する地震だけでなく、近年は異常気象の影響で台風や集中豪雨といった災害も増えている。国連大学が、世界171ヵ国…

    2018.06.26更新

  • 2020全日本EVグランプリシリーズ第7戦 レポート④ – EVルネッサンス。JEVRAが最高1,680万円の“賞金レース”開催に動き出した!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    2020全日本EVグランプリシリーズ第7…

    日本一のEV乗りが来季の野望を語った夕闇が迫る中、2020年の日本EVグランプリシリーズ最後の表彰式が行われた。ここで表彰されたのはレースにおける各クラス…

    2020.12.10更新

< 前のページへ戻る