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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2022年9月14日更新
梅雨のさなかであるはずの6月下旬は、真夏のように暑かった。
明らかにおかしな天候である。
2021年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「人間の影響が海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断定したが、異常な暑さは、人間が大量のCO2を排出し続けてきた結果と思えてならない。
そんな中、6月26日(日)、千葉県の袖ケ浦フォレスト・レースウェイでJEVRA(日本電気自動車レース協会)主催の2022全日本EVグランプリシリーズ(All JAPAN EV-GP SERIES)第3戦が開催された。
サーキットもずいぶん暑かった。
ただ、走行中にCO2をまったく出さないEVとFCVの走りは非常に涼やかだった。
「全日本EVグランプリシリーズは、環境保全とエンターテインメントを両立させた意義あるレース」との認識を改めて強く持った。
王者らしいポールポジション
午前9時にスタートした予選は、いつもどおりテスラモデル3勢が他を圧倒した。
このレースは、予選も決勝もモーター出力の数字などでクラス分けされた車両が混走するスタイル。最も大きいモーター出力のEV-1クラス(251kW以上)にエントリーするモデル3が上位を占めるのは当然の帰結であった。
今回の一番手はTEAM TAISAN東大の地頭所光選手が駆るモデル3。以下、スエヒロ自動車商会のアニー選手、TEAM TAISANの松波太郎選手のモデル3が続いた。
実は、アニー選手は予選の前半に1分13秒420のタイムを出し、後半までずっとトップの位置にいた。前回、富士スピードウェイでの初参戦でいきなり予選トップタイムを出した松波選手もそのタイムを上回ることはできない。もしかして、このままいくのかと思えたが、予選終了間際にコースインした地頭所選手がわずか2回のタイムトライアルで1分12秒742というタイムを叩き出し、するりとトップの座を奪っていった。昨シーズンまで4連覇を果たしている王者による余裕のポールポジション獲得。さすがである。
TAKAさん選手欠場の真相
地頭所選手は、しかし、諸手を挙げてポールポジションを喜んでいたわけではない。
第1戦で優勝したとき、0.00秒差で共にチェッカーを受けた好敵手TAKAさん選手が、今回のレースを欠場していたからだ。
「現時点ではTAKAさん選手が僕の最大のライバル。決勝であの人がドライブする緑のモデル3がいないのはとても寂しいです」
TAKAさん選手は、なぜ欠場したのだろうか?
ピット周辺で兄のアニー選手の戦いの模様をカメラに収めていた本人に話を聞いた。TAKAさん選手は、笑顔を交えつつ重い事実を語ってくれた。
——今回、なぜ欠場に?
TAKAさん クルマのバッテリー能力が12.8%もダウンしてしまったからです。充電してもダウン分が入らず、それほどアクセルを踏んでもいないのに早めに過熱して出力制限がかかってしまう……。走れないことはないけど、これではちゃんとしたレースができないんですよ。
——ダウンした原因は?
TAKAさん バッテリーセルのひとつが働かなくなったみたいです。
——モデル3には、そういうトラブルがよく起こるんですか?
TAKAさん 僕は生産国を差別する気はさらさらないので誤解しないでほしいですが、事実だけ言うと、中国でつくられたモデル3のバッテリーにはたまに起きるトラブルのようです。今の僕のモデル3は昨シーズンに購入したばかりの中国製で、積んでいるバッテリーは韓国のLG製。運悪く、僕はその中の駄目な個体をつかんでしまったわけです。
——そうだったんですか。
TAKAさん ちなみに、米国でつくられたモデル3のバッテリーはパナソニック製。僕が知る限り、あちらのほうはそういうトラブルは起きないみたいです。実際、地頭所君やアニーが乗っているモデル3は米国でつくられたもので、ここ2年間ずっとレースに出続けていますけど、バッテリーはビンビンのままですから。
——なるほど……。TAKAさんのモデル3は修理中で、それが終わったらすぐにレースに復帰されるんですよね?
TAKAさん 早く修理して復帰したいけど、うーん、どうなるかなあ……。ちゃんと直すとなるとバッテリーの全取っ替えになるんですよ。本来なら、購入後すぐのトラブルなので、保証で無料交換されるはずなんですが、僕のモデル3の場合は、どうもそうはならないらしい。なので、修理しようかどうか迷っているんですよ。
——新車なのに保証が効かない?
TAKAさん トラックモードにして一度でもサーキットを走ると、通常運転とは異なるので、新車でも保証の対象にならないらしいんです。
——それは困りましたね。
TAKAさん 本当に困ってます。このままだと、モデル3でのレース参戦意欲が薄れちゃいますよ。僕以外の誰かがテスラ車をサーキットで走らせたいと思ったとしても、新車時の保証を諦める覚悟が必要になるので、参戦を尻込みするでしょう。ほとんどトラブルがないであろう米国でつくられたパナソニック製のバッテリーを積んだ個体を選ぼうとしても、今、日本で正規に手に入れられる車体は中国製だけという現状がある。もう、いろいろと厄介なんです(苦笑)。とにかく、この問題、なるべく早く、なるべくいい方向で決着をつけたいです。
そういえば、エンジン車でもレースに出場している車両は保証の対象外になるという話を聞いたことがある。テスラ社も、そうした旧来の規定に則っているのかもしれない。メーカーの姿勢としては、理解できないこともない。
だが、モデル3には標準でサーキット走行専用のトラックモードが設定されている。それなのに、トラックモードにしてサーキットを一度でも走ると保証の対象外とするというのは、なんとも不可解な話だ。TAKAさん選手が憤慨する気持ちもよくわかる。
環境保全とエンターテインメントを両立させたEVレースにおけるモデル3の活躍(例えばTAKAさん選手の活躍)は、テスラのイメージアップアップに相当貢献しているはずだ。であれば、それを考慮し、なんらかの善処があっていいような気もするが、どうなのだろうか。
今後のテスラ社側の判断と、TAKAさん選手の決断に注目したい。
なお、地頭所選手もこの問題を重く受け止めている。決勝前に、取材班にこんなことを語ってくれた。
「今、EVレース界は多様なEVの登場に伴って裾野が広がろうとしているところです。テスラ車をはじめとするさまざまなEVが、もっとたくさん参戦するようになれば、さらに楽しさが増していくことでしょう。なのに、保証問題が、その大きな障壁になる可能性が出てきた。僕は、モデル3でEVレースに参戦するいちレーサーとして、この問題の解決に向けて何ができるかを真剣に考えていきたいと思っています」
2022全日本EVグランプリシリーズ第3戦レポート
①パナソニック製バッテリーを積んだモデル3が予選上位を独占!
②赤か緑か。米国製モデル3同士が熾烈なトップ争いを展開!
③マツダのグループ会社がノーマルのMX-30で初参戦。果たして完走できたのか?
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