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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2022年9月14日更新
2022全日本EVグランプリシリーズ(All JAPAN EV-GP SERIES)第3戦。袖ケ浦フォレスト・レースウェイの1周2.436㎞を23周にわたって戦う決勝は、午後3時にはじまった。
スタート前のグリッドの先頭集団には、地頭所光選手のTAISAN 東大 BIR TESLA 3を筆頭に、アニー選手のスエヒロ モデル 3、松波太郎選手のタイサン BIR エレクトライク TESLA 3が続く形で並んでいた。総合優勝は、よほどのアクシデントがない限り、この3台のテスラモデル3のいずれかになるだろう。
上位3人の決勝への意気込み
上位3台のドライバーに、決勝レースへの意気込みを聞いた。
「2番手にいるアニーさんをしっかり押さえ込む走りを着実にやり、確実に1位を獲りたい」
王者らしくこう語るのはポールポジションの地頭所選手。好敵手TAKAさん選手の欠場に落胆したものの、勝利へのモチベーションはまったく衰えていない。会場には両親と姉夫婦が応援に来ており、その前では絶対に負けられないとの思いもあるようだ。
「決勝では後半まで地頭所君の後ろに付いて行くつもり。トップに立てるかどうかは、流れ次第かな」
こう穏やかに語ったのは2番グリッドのアニー選手。欠場した弟のTAKAさん選手の分を背負っての戦いであり、初優勝のチャンスでもあるのだが、それほど肩に力は入っていない様子だ。
「袖ケ浦は初めて。今回は先行するクルマの走りを見て、勉強しながら戦う感じになるかな」
控えめなコメントをするのは3番グリッドの松波選手。彼はエンジン車で耐久レースをはじめとするさまざまなレースを戦ってきたキャリアの持ち主。初参戦となった第2戦の富士スピードウェイではいきなりポールを獲っている。その勢いを見て、イケイケなのかと想像していたのだが、まったくそうではなかった。謙虚ささえ感じられた。
意気込みを聞き比べると、地頭所選手の優勝は盤石なように思えてきた。
事前コメントは三味線か!?
言葉とは裏腹の熱いバトル
決勝レースは、しかし、それぞれの言葉とは裏腹の展開となった。
最初に仕掛けたのは松波選手。7周目の第1コーナー手前のストレートエンドでアニー選手をズバッと抜き去った。前半でそんなにアクセルを踏み込んでバッテリーがもつのかと心配になるくらいの勢い。先行車の走りを見ての勉強など、まるで念頭になさそうだ。
これで、アニー選手も燃えた。10周目に入ったところでいきなり速度を上げ、その周回中に前を行く松波選手をパスすると、さらにトップの地頭所選手のモデル3を抜き去った。普段の穏やかさからは想像できないほどの激烈な走り。アニー選手も言っていることとやっていることがぜんぜん違う。
結局、実際のレースになると、ドライバーはみんな我を忘れて熱くなる。観る側にとっては、実に盛り上がる展開である。
では、王者・地頭所選手はどうだったのか。
アニー選手に抜かれたことで、やはり相当熱くなっていた。抜かれてすぐに、アニー選手をテールトゥーノーズで追いかけ続けた。いつもは冷静なバッテリーマネジメントをしながらの絶妙なアクセルワークを信条とする王者も、アクセルをガンガン踏み出した。
そこからは、もう抜きつ抜かれつの壮絶な高速バトル。その後、おそらくバッテリーがへたったと思われる松波選手はトップ争いから離脱したが、地頭所選手とアニー選手は、終盤までトップを入れ替わりながらレースを戦っていった。
そして、残り1周となった第1コーナー。アニー選手がギリギリのブレーキングで三度目のトップ奪取に成功。その瞬間、観ている誰もが、遂に地頭所選手が敗れ、アニー選手が初優勝を遂げると確信した──。
しかし、しかしである。その1分十数秒後に最終コーナーを最初に立ち上がってきたのは、赤と黒に彩られた地頭所選手のモデル3だった。このどんでん返しに観衆は唖然騒然。結局、地頭所選手はそのまま悠々とメインストレートを駆け抜け、栄光のチェッカーを受けたのだった。
いったい、最後の1分十数秒の間に何があったのか。
レース後、アニー選手に話を聞いた。
「最終周は、バッテリーが熱くなり過ぎて、思ったように加速ができなかった。しかも、タイヤもタレていたため、複合コーナーあたりでクルマを滑らせるミスを犯した。それで追い抜かれてしまい……」
攻め続けた末の走行性能のダウンとミス。アニー選手にとっては、まさに惜敗というほかない2位に終わったのであった。
勝った地頭所選手にも話を聞いた。
「アニーさんは淡々と走るのかと思っていたら、ぜんぜん違ってたので、かなり焦った。最終周の第1コーナーで抜かれたときには、相当やばいと思った。ぎりぎり勝てたのは、少しばかりバッテリーとタイヤに余裕があったから……いやあ、でも、想像していた以上に楽しいレースだった!」
EVレースは、近年、トラックモードで異次元の高速走行をするテスラ勢が上位を占めている。だが、上位勢のドライバーの実力が拮抗してきており、レースの面白みは増している。
このレース模様を、できればテスラCEOのイーロン・マスク氏にも観てもらいたい。彼はきっと自社製のモデル3を中心に展開する環境保全とエンターテインメントを両立させたこのレースの有り様に深い感動を覚えるはずだ。そして、レースを走ると新車の故障の保証をなくすことの愚に気づき、なんらかの善処を検討するに違いない……。彼は旧弊を打ち破ることで世界の頂点に立った男である。夢想ではあるにしても、なくはない話だろう。
2022全日本EVグランプリシリーズ第3戦レポート
①パナソニック製バッテリーを積んだモデル3が予選上位を独占!
②赤か緑か。米国製モデル3同士が熾烈なトップ争いを展開!
③マツダのグループ会社がノーマルのMX-30で初参戦。果たして完走できたのか?
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