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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2021年9月8日更新
衝撃的なタイトルは
事実を端的に表しただけ
『2035年「ガソリン車」消滅』というタイトルは、一見すると危機感を煽っているように思える。
だが、これは煽りでも何でもない。ほぼ既定路線となっている事実を端的に表現しただけだ。
このタイトルに恐れおののいていると、世情に疎い人と評されかねない。
2020年10月、日本政府は2050年までにカーボンニュートラル=脱炭素社会の実現を目指すと宣言した。それに伴い、2021年1月には、「クルマを2035年までに100%電動化する」ことも表明した。
日本では、あと14年で、販売される新車は基本的にHV、EV、PHV、FCVの4タイプの電動車のみとなり、ガソリンエンジンだけで走る新車の販売はなくなることが既に決まっているのである。
現在起きている変革の数々を
裏話を交えてわかりやすく解説
本書は、この動かしがたい事実を前提に、今後、どう対応していくべきかなどが書かれた5章立ての本だ。
まずは、事実確認の章が続く。
第1章では、日本政府が2050年のカーボンニュートラルと2035年の100%電動化という政策を決定した背景・経緯が描かれている。
第2章では、電動化を構成する4タイプの電動車とはどういう仕組みのクルマで、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのかについて書かれている。
第3章では、米国、欧州、中国における電動化の流れと、IT企業の雄“GAFA”のクルマ戦略などが紹介されている。
第4章では、クルマの電動化にとどまらず、IoT化・自動運転化にも触れ、それらが我々の社会にどのような恩恵をもたらすかについて述べられている。
どれも、通り一遍の解説に終わっていない。元新聞記者(元編集委員)である著者が、信頼できるデータに加え、自らが取材して知り得た裏話も交えた解説を行っているため、非常に理解しやすく、かつ興味深い内容にまとまっている。
この1章から4章を読めば、現在起きている自動車業界の変革の実態がよくわかる。この部分を読むだけでも、購入の価値は十分にあるだろう。
2035年ガソリン車消滅は
理想へのマイルストーンである
だが、本書の真骨頂は、今後の対応を示唆している第5章〈真の「グリーンモビリティ社会」への道~ガソリン車消滅は日本にとって新たなチャンス!?〉にある。
今、世の中は大きくEV派(主にピュアEV推進派)と反EV派(主にHV擁護派)に二分され、彼らによる論争が巻き起こっているが、著者はこれを不毛と断じ、独自の見解を表明しているのだ。
例えば、早急にピュアEVを増やすべきと考えるEV派は「クルマのEV化は環境問題を考えたら必須。世界もその方向に動いている。日本のようにHVを尊重し過ぎてEV化を遅らせていると、ガラパゴス化して取り残される」と主張する。
他方、HVを中心とながら電動化を進めるべきと考える反EV派は「EVはLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点で見ると、HVよりもCO2を多く排出することになる。またエンジン製造に関わる多くの人々の雇用を失う恐れもある。よってEVを中心とした電動化には反対したい」と主張する。
著者は、両者の言い分について、現状認識としてはどちらも正しい部分があるとしつつも、近視眼的に過ぎるため、有意義な結論を導く論争のベースになり得ていないと指摘している。
確かに、現時点で再生エネルギーによる発電量が少ない日本においては、HVを存続させながら環境にいい電動化を進めていくしかない現実がある。しかし、今後10年の間に再エネ発電が増えていけば、事情も大きく違ってくる。そもそも2050年にカーボンニュートラルが実現するとなれば、2030年代後半からはHVが競争力を失うのは自明の理という認識も成り立つ。そうであるならば、カーボンニュートラル実現という究極のゴールを意識し、そこに行き着くまでに段階的にどのような電動車構成を進めるべきかといった議論を深めるのがベストだろう、と著者は主張するのである。
著者の具体的な主張については、実際に手に取って確かめてもらいたいのだが、読めばきっと「確かに、ゴールを見据えた議論こそが有効だ」と納得させられるはずだ。そして、実のある議論を経ていけば「ガソリン車が消滅する日」が大いなる希望の日になり得ることにも気づかされるに違いない。
本書の最後で、著者は次のような印象的な言葉を残している。
〈「2050カーボンニュートラル」と自動車の電動化問題は、2020年末に降ってわくように現れた。だが前向きにとらえれば、自動車産業がこれまで抱えてきた二つの原罪(環境問題と交通事故)を100年ぶりに克服できるチャンスが到来したとみることができる。(略)「ガソリン車が消滅する日」は「理想の姿」へのマイルストーンである。グリーン経済へと日本が進化するチャンスととらえたい〉
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