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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2022年12月8日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
ターボ付き軽自動車を新車で買ったR君(会社員23歳)。
販売店での納車式の後、日没後ではあったが、真っすぐ自宅には向かわず、海辺の道路まで走りに行った。待ちに待って手に入れた新車の乗り心地や、最新機能のあれこれを試してみたかったのだ。
月明かりでキラキラする海を横目に見ながらの新車の走りは最高だった。あまりに興奮しすぎて、軽い目まいを覚えるほどだった。
しかし、それは目まいではなかった。そのとき、クルマが上下左右に強く揺れる、かなり大きな地震が発生していたのである。
地震に気づいたR君は焦ったが、とっさに教習所で習った知識を思い出し、クルマをゆっくり路肩に停めてエンジンを切った。ラジオをつけると、震度6強の地震が起き、津波警報も出たとのニュースが流れていた。
「わっ、避難しなきゃ!」
確か教習所では、避難する際はキーを車内に置き、ドアをロックせずに避難場所に行くべしと教えられていた。その後に多く通るであろう消防車や救急車などの救急車両の妨げとなったときに、誰でもすぐに移動できるようにしておかなければならないからだ。さもなくば、クルマの損傷を考慮せず重機などで強制的に排除されてしまうこともある……。
R君は、購入したばかりの新車を無防備な状態で置いていくことに大きな抵抗を覚えたが、とにかく人命が第一。後ろ髪を強く引かれつつ、クルマを置いて高台の避難所へ向かったのであった。
避難所には一晩いた。その間、若干強めの余震が1回あったものの、大きな津波はこなかった。深夜には津波警報も解除され、朝になると避難所にいた人の多くは自宅に戻っていった。R君も急いで愛車を停めた場所へと早足で戻った。
と、そこに愛車はなかった。違う場所に停めたかなと、近辺をうろついたが、どこにも見当たらなかった。
「ああ、盗まれちゃったな……」
R君は、すぐに最寄りの交番に駆け込み、盗難被害を訴えた。地震騒ぎから落ち着きを取り戻していた警官はしっかり対応してくれた。警官の説明によると、正式に盗難届を出すには、ナンバープレートの番号や車体番号を書き入れ、かつ印鑑を押す必要があるという。ナンバーはどうにか覚えており、印鑑も拇印で代用はできたが、車体番号はまったく記憶になかった。なにしろ、車検証は盗まれたであろうクルマのグローブボックスの中にあるのだから……。
「もしかして、販売店に車検証の写しがあるかも」と思い、電話してみたが、まだ営業開始の時間になっていなかった。結局、R君は自宅に戻り、自転車に乗ってディーラーに行き、車検証の写しのコピーをもらい、改めて警察署で正式に盗難届を出すことになった。一刻も早く盗難車を見つけてほしいところなのに、初動をずいぶん遅らせてしまった感があった。こんなことになるなら、納車されたときに車検証の写真を撮っておくべきだった……。
なお、R君はディーラーで、盗まれた愛車が戻ってこないときの自動車保険の補償のことを質問している。契約時に、地震による被害では車両保険が使えないという話を聞いた覚えがあるが、もし、このままクルマが見つからなかったとしたら、まるまる自分の損失ということになるのだろうか。
その疑問に対してディーラーの保険担当者はこう言った。
「確かに、地震によって塀が崩れてクルマが壊れたような場合には補償されません。でも、盗難については地震のときであっても補償されます。ご安心ください」
「参考までに付け加えさせていただきますと、平常時にドアをロックせず、キーを車内に置いたままの状態でクルマが盗まれた場合は、不注意が問われ、盗難保険の補償の対象外となる可能性がありますが、地震で避難するときの無施錠は必要なことなので責任は問われません」
R君は、それを聞いて心底ホッとした。万が一愛車が見つからなくても、保険で別の新車が買えそうだ。だが、担当者が発した次の言葉を聞いて、R君は思わず「エッ」と小さくつぶやいた。
「ただし、車両保険を使うことで翌年の保険料がアップいたしますが、これについてはご了承ください」
人生の授業料と考えるべきなのだろうが、昨日からのたった2日間に、自分に降りかかったアンラッキーな体験をまだ消化しきれないR君なのであった。
運転中に災害発生!
求められる4つの行動
クルマの運転中に大きな地震が起きたら、どうすべきなのか。
ドライバーには以下の行動が求められます。
①急ブレーキは禁物。ハンドルをしっかり握り、前後のクルマに注意しながら徐々にスピードを落とし、できるだけ安全な方法で道路の左側に寄せて停車する。
②エンジンを切り、揺れが収まるまでは車外に出ず、カーラジオやスマートフォンから情報を入手する。
③避難の必要がある場合は、可能であれば、まずクルマを道路外の場所に移動する。やむを得ず道路上に置いて避難する場合は、道路の左側に寄せて駐車し、エンジンを止めてサイドブレーキをかける。窓を閉め、クルマのキーは付けたまま(あるいはわかる場所に置いたまま)にし、ドアはロックしない。
④車検証などの貴重品を持ち出し、徒歩で避難する(連絡先をダッシュボードの上など見えるところに置いておくとさらによい)。
③で「クルマのキーは付けたまま(あるいはわかる場所に置いたまま)にし、ドアはロックしない」のは、その後にその道を通るかもしれない消防車や救急車などの救急車両の妨げとならないための措置です。
R君は、①~③まではしっかり行いましたが、④の「車検証などの貴重品を持ち出す」ことに思いが至りませんでした。そして、車検証をグローブボックスの中に置いたまま避難してしまいました。その結果、車検証のデータがわからなかったために、盗難届けをすぐに出すことができず、盗難車発見の可能性が低くなりました。
軽自動車の場合は、名義変更が比較的容易にできるので、盗難を行った側はすぐに名義変更を行おうとするでしょう。それを阻止するためにも、名義変更時に必要とされる車検証を持ち出すことは重要といえます(ただし、車検証を持ち出す時間もないほど、事態が切迫している場合は「人命最優先」で行動してください)。
普段から「地震で避難するときは車検証も」と意識し、もしもの際に実践しましょう。万が一忘れたときのことを考えて、車検証のコピーを自宅に保管しておくか、写真を撮ってスマートフォンに保存しておくのもよいでしょう。
運転中に大地震に遭ったら、車検証を持って避難しよう!(前編)
運転中に大地震に遭ったら、車検証を持って避難しよう!(後編)
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