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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2021年3月25日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
地元の大学に実家から通っているCくん(20歳)。趣味のサーフィンに行く足として、ずうっと自分のクルマがほしかった。
家に父親のSUVはあったが、「海に行ったらクルマが塩と砂だらけになるから貸さん」と言われていた。そのため、早朝サーフィンに行くときなどはいつも友だちのクルマに便乗。とても助かってはいたものの、行きたいときに行けない残念さがあった。
そこでCくん、一念発起して普段からやっているアルバイトの頻度を高めて稼ぎを増やすことに。それを半年ほど続けて、ようやくサーフボートを積むのに都合のいい、中古の軽トラを30万円で購入するに至った。ふう。
これで自由気ままなサーフィンライフの始まり、となるはずだった。しかし、世の中はそう甘くない。クルマの維持費がかかることからアルバイトの頻度をそれほど減らせず、思っていたほど頻繁にサーフィンに行くことができなかった。
「あーあ、ガソリン代は仕方ないにしても、保険は自賠責だけにしときゃよかったなあ」
実はクルマを購入する直前までは、保険は自賠責だけにしておくつもりでいた。ところが、保険の代理店もやっている中古車販売店の担当者が「いやいや、中古車でもちゃんと任意の自動車保険に入っておいた方がいいですよ」と強い調子で勧めてきたので、「そういうもんかな」と思い、仕方なく加入。その保険料が若いゆえにかなり高く、けっこうな負担となっていたのだ。
そんな歓び半分、憂さ半分の日が続くある日、Cくんはアルバイト明けの早朝に不眠のまま一人で海へとクルマを走らせた。ヘトヘトだったが、海辺の道路はガラ空きなうえに右手に見える波の高い海に射す朝日が美しく、疲れも吹っ飛ぶ爽快さを感じた。
「よーし、今日は攻めるぞ!」
が、そう叫んだ直後に悲劇が起こってしまう。Cくんの軽トラが走る道の、すぐ先の左手の路地に停止していたクルマが急に道路に飛び出してきたのだ。Cくん、とっさにブレーキングと回避のハンドリングを試みるも間に合わず、両車は交差する際に鼻先を接触させてしまう。キキーッ、ゴン。
幸いにも大事故とはならなかったものの、Cくんのクルマは右側のライトやバンパーあたりが壊れた。相手のクルマも同様に右側のライトとバンパーあたりが壊れた。
よくよく見ると、相手のクルマは超がつくほどの高級車だった。外に出てクルマをチェックしていたゴージャスな服装に身を包む男性ドライバーが、Cくんに昂然とした感じで近づいて来ると、こう言った。
「たぶん、これ、僕のほうが悪い事故だよね。いや、朝日がきれいで見とれててさ、君の小っちゃなクルマが見えなかったんだよ。ごめん、ごめん。君のクルマの壊れたところは僕の対物保険で直すからさ、心配しなくていいよ。うん。いやあ、しかし、今日はほんとうに爽快な朝だよねえ」
その言葉にあいまいな感じで頷いたCくん。警察の現場検証の間にクルマを購入した中古車販売店に連絡し、結局その日はサーフィンをしないままで1日を終えた。相手のなんとなく上から目線の態度への不満も相まって気分は最悪だった。
が、その後、さらに気分が悪くなる出来事が。保険代理店も兼ねている中古車販売店からこんな連絡が入ったのだ。
「Cさん、今回の事故の過失割合ですが、相手側が80%でCさん20%と決まりました。ほとんど相手が悪い事故ではありますが、Cさんにも前方不注意の過失があったということで20%分の責任が問われることになったんです。それで金額面ですが、加害者側はCさんのクルマの修理代10万円の80%分であるの8万円を支払い、Cさんは相手のクルマの修理代200万円の20%分である40万円を支払うことになりました。つまり、相殺してCさんが32万円を相手に支払う格好ですね。でもまあ、保険ですべて賄えるから大丈夫。その点はどうかご安心を。ただ、一応申し上げておきますと、今回保険を使うことでCさんの保険は次回更新時に3等級ダウンとなり、来年からの保険料はそれなりにアップすることになります。そのことについてはご承知おきください」
納得がいかなかった。自分にも20%の過失があること、相手の修理費用が高いために自分の賠償額が32万円にもなること、そして、保険利用で来年からの保険料がアップすることなどがあまりに理不尽な決定と感じられて仕方がなかった。 Cくん、「裁判にもちこんでやろうか」とまで思い詰めた。
だが、父親に今回の件を打ち明け相談したところ、じゅんじゅんと諭され、渋々ながらも納得するに至る。
【父の言葉1】「世の中に100%対0%の事故なんて少ない。過失20%は妥当だよ」
【父の言葉2】「被害者なのに相手に多くの修理代を払わなければならなくなったことについては不運ではある。だが、高級車の修理代の実態に即した計算なんだからしょうがない。今後は、こうしたこともあると考えて、常に周囲に注意を払った運転をするよう心がけなさい。できれば危なっかしい高級車にはなるべく近づかないようにしたほうがいいかもな」
【父の言葉3】「保険についてだが……現金で32万円も払えない身なわけだから、保険に入っておいてよかったと前向きに捉えるべきだ。来年から高い保険料がさらにアップするわけだが、それも仕方がないこと。バイト時間を少し増やすなりして頑張って加入し続けなさい」
そう、まったくもってお父さんの言うとおり。それにしてもCくん、多少無理してでも任意保険に入っておいて本当によかった。もしそうじゃなかったらかなり大損してましたから!
ほとんどの事故では
被害者側にも「過失あり」
Cくんの立場からすると、今回の事故のあれこれは、たしかに理不尽なことばかりに思われます。
しかし、被害者側に過失があるとされたことも、被害者側の方がより多くの修理代を支払わなければならなくなったことも、そうなる理由がちゃんとあるのです。
まず、過失割合ですが……Cくんのお父さんの言葉にあるように、そもそも世の中には加害者の過失割合が100%で被害者の過失割合が0%という事故はそう多くはありません。
四輪車同士の事故でいえば、加害者100%で被害者0%の過失割合となるのは、以下のように被害者側に何の落ち度もないときの事故に限られます。
【例1】信号待ちで停車していたら、うしろから走ってきたクルマに追突された(追突した側の過失は100%、信号待ちで停車していた側の過失は0%)
【例2】道路を正しく走っていたら、センターラインを越えたクルマが正面衝突してきた(センターラインを越えて衝突してきた側の過失は100%、正しく走っていた側の過失は0%)
【例3】交差点で青信号なので直進していたら、横の道から赤信号で進入してきたクルマにぶつけられた(赤信号で侵入してきた側の過失は100%、青信号で進んでいた側の過失は0%)
このように被害者側に何の落ち度もない場合を除いて、たとえ被害者側だとしても10%、20%、30%といった具合に幾ばくかの過失がある判定をされることがほとんどです。
交通事故の過失割合を決めるのは、基本的には事故の当事者同士とされていますが、一般的には事故の当事者が契約している保険会社同士が話し合い、過失割合を決定します。保険会社は、警察の作成した実況見分調書やその他の証拠・証言などを基にし、通称「赤い本」と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という本を参考として過失割合を判定します。
前述したように、過失割合を決めるのは事故の当事者同士ですから、保険会社が判定した結果に当事者の一方、あるいは両方が異議を唱えることはできます。そうなって話が折り合わない場合、最終的には裁判で決定……ということもあります。
今回のCくんの事故では、高級車の幹線道路への突然の進入がより重い事故原因ではあります。ただし、Cくんがしっかり前方に注意を払っていて、「あの路地にいるクルマ、危なそうだな」と判断して速度を落とすなどしていれば事故を免れた可能性もあります。つまり、「Cくんの前方への不注意が、事故原因の20%に相当する」と判定されたというわけです。
どうでしょう、今回の過失割合の判定が妥当な理由、おわかりいただけたでしょうか?
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