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クルマのトラブル「もしも」マニュアル

Vol.37 えっ、親子間の事故だと保険が出ないの?(前編)

2019年1月15日更新

もしも_家族同士事故_前編web

【今回のやっちゃったストーリー】

短大の卒業を目前に控えたHさん(20歳)は、自宅から約20キロ離れたところにある会社に就職することが決まっていた。ちょっと距離はあるが、卒業祝いにお父さんが買ってくれた赤い軽自動車で通勤するつもりだ。
だが、Hさんは免許取りたて。本人はもちろんお父さんも事故を起こさず通勤できるかどうかがひどく心配だった。しかも、会社までの道路は通勤時間帯にいつも激しく渋滞するため、定刻どおりに出勤するには臨機応変に抜け道を使ったりする必要がある。それがちゃんとできるかどうかという不安もあった。
ということで、ある日曜日の朝、お父さんがこういった。
「通勤運転の練習をしようか。父さんが先行して走るからあとを付いてきなさい。途中でカーナビも案内しないとっておきの抜け道も教えてあげるよ」
せっかくの休日だったが、Hさんも初出勤前に少しでも心配や不安を取り除いておきたい思いがあったので、迷わずそれを承諾した。
準備もそこそこに実地の練習走行スタート。運転歴30年のお父さんが操る年季の入った小型車は法定速度を保ちながらHさんの赤い軽自動車の前を走り、Hさんは自動車教習所で習った車間距離を保ちながらそれに一所懸命に付いていった。
ところが、出発して数分経ったころ、後ろからきたクルマが追い越しをかけてきて、お父さんとHさんのクルマの間にスッと割り込んできた。Hさんは、お父さんのクルマが目の前から消えたことでプチパニックに陥った。「わ、わ、どうしよう」。が、それも一瞬のことだった。そのクルマはお父さんのクルマも追い越していき、すぐに元の状態へともどった。
Hさんはホッとした。だが、同時に割り込みを二度とさせたくないという思いも強くし、これまでよりも車間距離を詰めて走ることにした。教習所で習ったことを守らない行為に少し胸が痛んだが、お父さんのクルマを見失うよりはいい。そう判断したのだった。
しかし、この判断が思わぬ事故を呼ぶことになる。
抜け道に入り、お父さんのクルマが信号のない交差点を直進しようとしたときのこと。左側の道から若い男が乗った自転車が猛スピードで前を横切ってきたため、お父さんは咄嗟に急ブレーキをかけた。そのブレーキランプにHさんも気づき、迷わず急ブレーキをかけた。しかし、車間を詰めて走っていたせいで間に合わず、お父さんのクルマのリアにぶつかってしまった。ガシャン。
法定速度内で走っていたためか、幸い二人にケガはなかった。ただ、軽い追突のわりに双方のクルマの被害は大きかった。お父さんのクルマのリヤ部分は全体にひしゃげ、ランプ類はすべて粉々になっていた。Hさんのクルマもあわれなことに。フロント部分は新車の面影なくへこみ、車内には開いたあとで萎んだエアバッグが垂れ下がっていた。
あわてた様子でクルマから出てきたお父さんは、Hさんの無事を確かめると表情を和らげ、こういって慰めた。
「無事でよかった。事故のことは気にするな。あの自転車が悪いんだ。父さんも急ブレーキをかけるしかなかった。お前が悪いんじゃない」
「クルマの修理も保険を使えば大丈夫。父さんのクルマは永く乗っているので車両保険をかけていないが、お前の対物保険で直せるだろうし、お前のクルマは自分の車両保険を使って直せばいい」
その後、お父さんはスマートフォンを取り出すと、警察に事故の通報をした。そして、間を置かず自動車保険を契約している保険代理店にも連絡を入れた。
最初、お父さんは保険代理店の担当者に照れ笑いしながら事情を説明していた。だが、どういうわけだか、だんだんと顔が紅潮し、こわばっていった。そして最後には目を剥き、口角泡を飛ばしてこう叫んだ。
「われわれの事故には対物保険が出ないって、どういうことなんですか、それは!」

適切な車間距離なら
事故は防げた

Hさん、そしてお父さん、安全・安心を願っての練習走行だったのに思わぬ事態に。なんとも残念な話です。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか?

まずは、事故の原因から見ていきましょう。

もうお分かりかと思いますが、ズバリ、Hさんが事故の原因をつくった張本人といえます。
確かに、道路を急に横切った自転車の青年も悪いには違いありません。しかし、走り去った彼は、直接的にはこの事故(お父さんのクルマとH さんのクルマの追突)に関わっていません。
お父さんの急ブレーキはどうか。これは、自転車との「危険回避」のためであり、急ブレーキをかけなければ自転車と衝突していたかもしれず、必要な行為と考えられます。
そして、Hさん。お父さんが急ブレーキをかけたとき、Hさんのクルマは車間距離を詰めていました。それが、この事故を生みました。もし、適切な車間距離を保って走っていれば、自転車が道路を急に横切り、お父さんのクルマが急ブレーキで急停止しても、たぶん追突は避けられたはずです。

実際、道路交通法第26条には、「急ブレーキをかけて停止した前のクルマに追突することを避けることができるための必要な距離を保たなければいけない」といった主旨の定めがあります。
つまり、Hさんは道路交通法違反を犯してしまったわけであり、もし、現場検証にきた警官がその事実を確認すれば、Hさんは免許取りたてにして早々に罰則が科せられる可能性もあるのです。

車間距離不保持の違反点数・反則金額_2

Hさんが、抜け道を教えてくれるお父さんのクルマとはぐれないようにするために、車間を詰めてしまった気持ちもわからないでもありません。
でも、「適切な車間距離の保持」を行うことが道路上では大事な行為。心細さに負けず、教習所で習ったとおりに、ちゃんと走るべきだったのです。

一般道では「2秒以上」の
車間距離を保つべし

ここで改めて、適切な車間距離についての確認をしておきましょう。

道路交通法には、「適正な車間距離が何メートル」と規定されているわけでありません。
教習所では、一般的に「クルマの速度と同じくらいの距離をあける」あるいは「時速60キロ以下のときは『速度-15メートル』、時速60キロ以上のときは『速度と同じメートル』をあける」と教えていることが多いようです。

けれども、60メートルとか80メートルといった距離を目測で測ることは難しいものです。
そこで最近は、一般道路でも高速道路でも、適正な車間距離は“距離”ではなく、前を走るクルマとの“時間差”で把握するようになっています。その時間差については多少見解が分かれるところもありますが、概ね時速40~60キロ程度で走る一般道路なら「2秒以上」、時速80キロから100キロ程度で走る高速道路なら「3~4秒」となっており、これだけあれば、たとえ前を走るクルマが急ブレーキをかけたとしても、比較的余裕をもって追突を避けることができるとされています。

この「2秒以上」および「3~4秒以上」の計り方はカンタンです。
一般道では、前を走るクルマが電柱などの目標物を通過した瞬間に数えはじめ、自分のクルマがその電柱に至るまでに2秒以上かかっているかどうかを確認します。
高速道路でなら、車間距離確認の標識や路面のジョイント(継ぎ目)、照明などを目安にして、同様に3~4秒以上かかっているかどうかを確認します。

参考までに紹介しておくと、全国のいくつかの警察では、この秒数をなるべく正確に計るための特別の数え方を推奨しています。
それは、「01、02(ゼロイチ、ゼロニ)」「01、02、03(ゼロイチ、ゼロニ、ゼロサン)」と、頭に「0(ゼロ)」を入れながら数えるという方法。
普通に「1、2(イチ、ニ)」「1、2、3(イチ、ニ、サン)」と数えると、実際の秒数より短くなる傾向があるため、頭に「0(ゼロ)」を入れた数え方を勧めているのです。皆さん、試しにスマートフォンのストップウォッチアプリで、この二つ数え方を比べてみてください。どっちがより正確か、すぐにわかるはずです。

車間距離計測_電柱間の秒数web

なお、参考のために「クルマが2秒間で進む距離」はどれくらいかといえば、時速40キロで約22メートル、時速50キロで約28メートル、時速60キロで約33メートルとなります。
もちろん、計算すればすぐにわかることですが、「一般道においてはこれ以上の距離を保っておかないと前車の急ブレーキには間に合わず、追突してしまう恐れがある」と、頭の片隅に記憶しておいてください。

Vol.37 えっ、親子間の事故だと保険が出ないの?(前編)

Vol.37 えっ、親子間の事故だと保険が出ないの?(後編)

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