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軽EV『FOMM ONE』の可能性(第13回オートモーティブワールドより)- ②エアバッグはないがドライバーを守る工 夫がいっぱい!

2021年2月12日更新



社長は一人乗りEVの
コムスを開発した技術者

FOMM ONEの広報担当者へのインタビュー内容の前に、FOMMがどういう企業なのかを見ておこう。

先述のとおりFOMMは、神奈川県川崎市にある研究開発型企業インキュベーション施設のKBICに拠点を置いて活動する日本のベンチャー企業。特徴としては、クルマづくりのキャリアを長年にわたって積んできたベテランの技術者たちが中核をなすプロ集団という色合いがとても濃い。

なにせ社長(冒頭写真)からしてクルマづくりのプロだ。

1962年に福島県に生まれた鶴巻日出夫社長は、若かりし頃はスズキの社員としてスクーターのエンジン設計やモトクロッサーの車体設計などを行っていた。そして、アラコに移籍後は、一人乗りEVのコムスをはじめとする数々の斬新なクルマの開発に従事し、その後アラコがトヨタ車体とトヨタ紡織に分割統合され、トヨタ車体に移ってからもやはり新型コムスの企画・開発などに取り組んだ。

独立してFOMMを設立したのは2013年のことで、翌年に最初の超小型EVの開発に成功している。紹介しているFOMM ONEは、それを何度も改良してできあがったもので、現在タイに生産拠点を置いて販売を行っている。

コムス開発に取り組んでいた当時の鶴巻日出夫社長 ※FOMM社提供



今回、われわれがブースを訪れたときには鶴巻社長は商談中だったため、合間に写真撮影しかお願いできなかった。ただ、その短い間にも興味深い話がいくつか聞けている。そのうちの二つの発言を以下に紹介しておきたい。

「FOMM ONEに、水に浮くというエマージェンシー機能をもたせた理由は、最初に販売するタイが水害の多い国だからということもあったんですが、原点としては2011年の東日本大震災のときに津波で多くのクルマが水没してたくさんの方々が亡くなったという事実が挙げられます。福島県出身者の私としては、ああいう悲劇をできるだけ少なくするために、自分たちが造って販売するクルマをどうしても水に浮くようにしたかったんです」

「最近、日本政府が2035年までに販売するクルマをすべて電動車にするという方向性を明らかにしました。これに対しては、業界の重鎮をはじめさまざまな人たちが苦言を呈していますけれど、すでにクルマの電動化は世界的な潮流になりつつあるので食い止めるのは難しいでしょう。これからは、われわれのようなEVづくりに特化した会社にいい追い風が吹く時代になると思っています」

プラユット首相のお墨付きで
タイでの生産・販売が決まった

さて、FOMM ONEに関しての広報担当者へのインタビューである。

質問に答えてくれたのは、FOMM社で広報業務のほかに営業企画やサービス企画などの仕事にも従事している佐藤俊氏。氏は技術者ではないがFOMM ONEのことを隅から隅まで熟知している人だ。

まずは氏に、タイでの生産と販売に関して、そして基本的な安全設計について聞いてみた。

——2019年からタイでFOMM ONEの生産と販売をされています。なぜタイだったのでしょうか?

佐藤 もともとタイには部品の調達がしやすいという利点があり、市場も日本に比べてクルマを欲する若者が多いという特長がありました。われわれはそれに注目して、タイ進出の可能性を探るべく2014年にバンコクで行われたモーターショーにFOMM ONEのプロトタイプを出展しました。その後、2016年にプラユット首相に乗っていただく機会があって、「タイの国民車にしてほしい」と伝えられました。それがきっかけでタイでの生産と販売が決まったんです。タイ政府にはこのクルマに適合する新しい規格をつくってもらったり、さまざまな後押しをしていただきました。

タイのFOMM社工場 ※FOMM社提供



——そのタイではこれまでに約400台売れていると聞いています。

佐藤 実をいうと、販売してすぐの段階では2,000台近くのオーダーがあったんです。でも、新型コロナウイルスの影響もあり、大半がキャンセルとなってしまいました。それで、現状は約400台という数字。今後は、新工場で生産能力を高めつつ、販売台数をもっと増やしていくつもりでいます。

——タイで実際に購入されている人たちはどんな方々なのでしょうか?

佐藤 EVとしてはリーズナブルな価格ながらも日本円で約220万円しますし、タイには購入補助金制度もないので、法人ならびに個人のお客さまはそれなりに裕福な層となっています。ただ、買った皆さんがおのおのSNSで「FOMM ONEはすごく快適に走るEVだ」「ガソリン車よりも維持費のコストパフォーマンスが抜群にいい」などと自慢気に紹介してくださっているので、最近は一般所得層の方々からも大いに関心が集まるようになっています。これからはできるだけ価格を抑える努力をして、そういう新しい顧客層も獲得していきたいと考えています。

足元にはブレーキのみだから
踏み間違い事故は起こらない

——おそらく価格抑制の意味合いもあるのだと思いますが、FOMM ONEにはエアバッグが付いていません。自動ブレーキといった先進の安全装置もありません。今後もこのままで販売されていくのでしょうか?

佐藤 いえ、いずれはオプションでそういった安全装置を装備することを考えています。やはりそういう要望もたくさんありますから。ただ、現状のままのクルマが危険ということは断じてありません。基本的な安全設計には十分に配慮しています。ボディは軽量化と修復性を重視して樹脂でできているんですけど、骨格は頑丈なアルミラダーフレームと鉄フレームのハイブリッド構造にしているので、万が一のときでも乗員をしっかりと守ってくれます。そして、ハンドルは上部が窪んだ設計になっているので、エアバッグがなくても衝突の際に顔面をぶつける危険性が少なくなっています。実際、これに顔をぶつけてドライバーがケガをしたという報告はありません。



——エアバッグがない分、独特のハンドル形状で安全性を補っているわけですね。

佐藤 そうです。それから、FOMM ONEのアクセルはハンドルの内側に付いているレバーを指で操作する仕組みになっていて、足元にあるペダルはブレーキのみとなっている点も安全確保につながっています。これならペダルの踏み間違いによる事故は絶対に起こりません。自動ブレーキの付いていないクルマの中で較べれば、もっとも安全な一台といっても過言ではないと思っています。



——なるほど。しかし、「指によるアクセル操作」ですか……うまく想像できませんが、難しくはないのですか?

佐藤 最初のうちは違和感があるかも知れませんが、けっこうカンタンなのですぐに慣れると思います。事実、購入されたタイの皆さんからは「慣れるとこっちの方が楽だし安心」といった声をたくさんいただいています。

軽EV『FOMM ONE』の可能性(第13回オートモーティブワールドより)

①すでにタイでは400台を販売、日本でも 法人向け販売開始!

②エアバッグはないがドライバーを守る工夫がいっぱい!

③インホイールモーターや交換式バッテリ ーなどを搭載!

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