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諸星陽一氏が語る〈クルマのブラックボックスって何?〉③「『弁護士費用特約』はCDR活用を後押しする重要要素です」

2021年3月11日更新



アメリカと比べると、日本でのEDR、CDR、CDRアナリスト、さらにはテクニシャンの認知は比べものにならないくらい低い。しかし、諸星陽一氏と同様にCDRアナリストの資格を持つ自動車ジャーナリストたちを中心とした、フリーのCDRアナリストの活動拠点となる会社も立ち上げられている。

それは、データによるより明確な事故原因究明が日本においても根付き、正しく活用される交通社会の現出を願っての動きに他ならない。

カギは自動車保険の
弁護士費用特約にあり

——日本でも徐々にEDRデータの活用が始まっているとのことですが、今後はアメリカのように、フリーのCDRアナリストのビジネスが成り立つほどに一般化するのでしょうか?

諸星 アメリカでは事故の現場検証が民間に委託されているけれど、日本はそうじゃない。なので、アメリカと同じようなビジネスが普及するとは考えにくいと思います。しかし、別のアプローチがあるだろうと考えています。

——それは具体的にはどのようなことでしょうか?

諸星 実は昨年、フリーのCDRアナリストの活動拠点となる会社を立ち上げられ、僕たち自動車ジャーナリストでCDRアナリストの資格をもっている者もそこに登録しています。それで、その会社の活動の一環として、日本弁護士連合会に対して交通事故の過失割合の決定や裁判のための証拠としてEDRのデータを積極的に採用するよう働きかけているんですよ。弁護士の皆さんがEDRのデータの有効性を認めて、裁判などで積極的に使ってくれるようになることが日本の状況を変える第一歩になると思います。

——その意味では損保会社の理解促進も重要ですね。

諸星 そうですね。一般的な、交通事故の民事裁判の場合は、裁判を争う双方に損保会社が付いていて、弁護士は損保会社と連携して動きます。その場合に、「EDRのデータを証拠として使いたい」と弁護士が考え、損保会社もそれを了承すれば、その費用は裁判のための調査費として損保会社が負担することになります。日本で、このパターンが普通になれば、フリーのCDRアナリストのビジネスが見えてくるんじゃないでしょうか。

——可能性はかなりあるように思えますが?

諸星 そのために大事なことがあるんですよ。それは、ドライバーの皆さんが自動車保険の弁護士費用特約を付けておき、もし交通事故の当事者になってしまったならばこの特約を活用するということです。どんな事故でも弁護士費用特約が使えるというわけではないですが、使えるならば使いましょう。それで、弁護士に調査請求をしてもらってEDRのデータを証拠として提出するわけです。EDRのデータを読み出す費用は数万円から20万円といわれていますし、CDRアナリストのデータ解析&レポート作成費は50万円くらいかかる場合もあります。弁護士費用特約によってこれを行えば、費用は損保会社が負担してくれます。

——日本でEDRのデータが日の目を見るカギは自動車保険の弁護士費用特約にあり、というわけですね。

自動車整備工場は
データ読み出し基地に最適

——ところで、ロータス店をはじめとする自動車整備業界としても、この話は重要なテーマであるように思われます。

諸星 まさしくそうですね。先ほど、アメリカのビジネス例としてEDRのデータを読み出す仕事をするテクニシャンという存在がいることをお話しましたが、そのテクニシャンに求められる技能は自動車整備、板金を行っている皆さんの得意とする分野ではないかと。自動車整備工場の皆さんは、まずこのテクニシャンの業務を視野に入れて、CDRアナリストの資格を取得をされたらいかがでしょう。



——読み出し業務に大きなニーズがあるということですか?

諸星 今、日本での年間の交通事故件数は40万件前後ですが、事故原因究明が必要な案件は毎年150万件にもなります。ところが、CDRアナリストの人数は現時点で200名ほどしかいない。今後増えていくにしても、それらをすべてカバーできるまでにはいかないでしょう。こうなると、アメリカと同じでCDRアナリストだけでは対応しきれません。やはり各地に、CDRアナリストと連係してEDRのデータを読み出す仕事をしてくれる存在が欠かせないんです。

——それを、自動車整備工場とそこにいるスタッフが担う?

諸星 はい。そもそも事故車は自動車整備工場に運ばれるじゃないですか。そこで、事故車を扱うのはプロの整備士の皆さんですよね。データ読み出し基地として、これほど相応しいところはないわけですよ。

——なるほど。

諸星 参考までに言うと、EDRのデータは、クルマに電気が通っている状態ならばOBDⅡポートを介してCDRで読み出せるんですけど、電気が通っていないときはEDRを含むエアバッグ・コントロールモジュールを取り出してから固定し、読み出しを行わなければならないんですね。そうした作業をこなせるという意味でも、自動車整備工場がその役割を担うということは妥当だと思います。

——確かに自動車整備工場が読み出し業務を担うとなれば、そうした技術的なところは万全だと思います。

諸星 自動車整備工場にとっても、これからは「EDRのデータを扱える」ということがとても重要になるのではないかと思います。ぜひ前向きに取り組んでいただきたいと思います。

——お話をうかがい、EDRのデータによる事故原因究明が日本の交通社会にとって大きなエポックになると感じました。どうもありがとうございました。

諸星陽一氏が語る〈クルマのブラックボックスって何?〉
①「EDRが事故時に残すデータは正確な事故原因究明に役立つんです」
②「今後は日本でも暴走事故の解明に一役買うことになるでしょう」
③「『弁護士費用特約』はCDR活用を後押しする重要要素です」

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