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クルマのトラブル「もしも」マニュアル

Vol.41 ハイブリッド車にジャンピングスタートの協力を頼むのはNG!(前編)

2019年5月15日更新

HVで救援_1

【今回のやっちゃったストーリー】

Lさん(44歳)は、やり手の個人投資家。投資の稼ぎだけでけっこういい暮らしができている。
ある月曜日の早朝、自宅から数㎞離れたところにあるファミレスでじっくり投資戦略を練りながら朝食を取っていたLさん。いつの間にか株式市場が開く時間が近づいていることに気付き、慌てて株式取り引き用のコンピュータが並ぶ自宅に帰ることにした。ところが、駐車場に停めてあった愛車(=大排気量のスポーツカー)のキーを回しても、エンジンがうんともすんともいわない。どうやらカーバッテリーが上がってしまったようであった。
「ええい、こんなときに、なんてこったい」
一瞬、加入しているロードサービスに救援を頼んでバッテリーを復活させることを考えた。だが、救援がくるまでの30分~1時間が待てなかった。たったそれだけの遅れでも、その日の注目株について、取り引きの好機を逃す可能性があったからだ。
Lさんは、取り急ぎタクシーで一旦帰宅し、株式市場が閉まった後に対処を考えることにした。ファミレスの駐車料金が発生するだろうが、それは仕方がない……。しかし、その場を離れようと踵を返したちょうどそのとき、隣に駐車してあったハイブリッド車の持ち主が姿を現した。それを見たLさんは急遽方針を転換することにした。その人にジャンピングスタート(他車のバッテリーから電気を一時的に分けてもらってエンジンを始動させること)を頼み、バッテリー復活を図ることにしたのだ。「これで時間もお金も節約できる」。ニヤリ。
隣のハイブリッド車の持ち主は、20代半ばと思える麗しき女性。Lさんがジャンピングスタートを頼んだところ、「わたし、ジャンピングなんとかとか、よくわからないんですけど……」とあまり積極的に関わりたくない様子だったが、Lさんは「どうか人助けと思って協力してください。大丈夫、僕がすべてやりますから」と、半ば強引にキーを受け取り、そそくさと相手のクルマのエンジンルームに設置してあった補機用バッテリーと自分のクルマのバッテリーをビシッとケーブルでつないでいった。その間、約5分。
まずはハイブリッド車を静かに始動。次いで、Lさんは愛車へと移動し、イグニッションを回すと愛車の大容量のエンジンは、ブルルンと大きな音を立てながらかかった。やった! Lさんは声にださぬまでも快哉を叫んだ。が、だけど、しかし、その瞬間、ハイブリッド車のほうから「ボン」という不穏な音が響いた。えええええ? なんと、補機用バッテリーが爆発してしまったのだ。
当然ながら、こんどは相手のクルマがまったく動かなくなった。持ち主の麗しき女性は般若のような面相で大激怒。Lさんは、何が起こったのかわからいまま平身低頭で謝り続け、結局、相手の女性が頼んだ救援サービスがクルマをレッカー移動するまでその場に留まることになった。
その日、Lさんが注目株の取り引きに間に合わず、大儲けのチャンスを逸したのはいうまでもない。それどころか、女性のハイブリッド車の修理代が相当な額にのぼるとかで、Lさんがそれを責任をもって支払うことにもなった……。この日は、Lさんにとって大損記念日、まさに私的ブラックマンデーとなったのであった。

救援側のハイブリッド車が
壊れてしまう恐れが……

Lさんと被害を受けた女性、どちらも知らなかったのですね、ハイブリッド車からのジャンピングスタートが不測の事態を招く恐れがあるということを……。

そう、すべてではありませんが、トヨタのハイブリッド車やプラグインハイブリッド車など、日本国内を走る多くの電動車両について、各メーカーは、他車へのジャンピングスタートを「厳禁」としています。なぜなら、クルマが壊れてしまうかも知れないからです。

ハイブリッド車は、図のように、駆動用メインバッテリーと車内の電装機器などへの電力供給を行う補機用バッテリーという2つのバッテリーを搭載しています。駆動用メインバッテリーは、数百Vという高電圧であり、ジャンピングスタートを試みることことは到底できません。



ハイブリッド車の補機用バッテリーは12Vで、ガソリン車に搭載されているカーバッテリーと同じように考えてしまいがちですが、扱う電気の大きさはかなり違います。ガソリン車のカーバッテリーは、エンジン始動時に大きな電力を発生し、スターターを回します。それに対して、ハイブリッド車の補機用バッテリーは、ハイブリッドシステムを起動させる(要はコンピュータを起動させる)だけの小さな電力を供給するだけです。
よって、カーバッテリーそのものもそれぞれ違うタイプであることはもちろん、ケーブル類などもまったく違っているのです。

バッテリー上がりになったガソリン車の救援(ジャンピングスタート)をハイブリッド車で行おうとし、2台のクルマのバッテリー(ハイブリッド車は補機用バッテリー)をブースターケーブルでつないだ状態で、ガソリン車のエンジンをかけたならば、その瞬間、想定外の大電流がハイブリッド車に流れ込むことになります。
当然ながら、ハイブリッド車は電源系統が故障したり、ときに補機用バッテリーそのものが爆発し、それによってハイブリッドユニットまでもが壊れることがあり得ます。こうなるともうハイブリッド車の被害は甚大。数十万円レベルの修理代が普通に発生することになってしまいます。

このことを知っているガソリン車ユーザーは、たとえ自分のクルマのバッテリーが上がっても、ハイブリッド車からジャンピングスタートを頼むことなどはしません。
一方、ハイブリッド車に乗っていてこの事実を把握している人は、ジャンピングスタートを頼まれても、はっきり「できません」と断りを入れます。例え、心情的には「助けてあげたい」という状況であったとしても…。
Lさんも、被害を受けた女性も、本来はそうすべきでした。

ちなみに、ハイブリッド車の補機用バッテリーが上がった場合は、それを一般のカーバッテリーからのジャンピングスタートで救援することはできます。ちゃんとケーブルを繋げて、手順どおりにやりさえすれば問題は起こりません。「(多くの)ハイブリッド車からのジャンピングスタートはNG」なのに「ハイブリッド車へのジャンピングスタートはOK」とはなんとも不公平な話に思われますが、仕方ありません。それがいまのカーバッテリー界隈のセオリーなのです。



誤った操作による故障には
保険も保証も適用されない

このようなセオリーをはずしたLさんも、被害を受けた女性も、ともに迂闊だったという誹りは免れません。

ただ、今回のケースでは、どう考えても悪いのは半ば強引にジャンピングスタートにもちこんだLさんの方でしょう。おそらく数十万円はかかるであろうハイブリッド車の修理代は、双方の話し合い次第ではありますが、Lさんが全額支払うのが妥当な線といえます。

「もしかしたら、任意の自動車保険で補償がおりるのでは?」と考える人もいるかも知れませんが、いえいえそれはありません。このケースは事故ではなく、故障案件なので保険がおりることはないのです。

「故障ということならば、被害者側のクルマに付いているかも知れない保証が使えるのでは?」と考える人がいるかも知れませんが、それも期待できません。たとえ保証期間内であっても、メーカーがNG行為としてアナウンスしていることをやって起こした故障であることは明白なのですから。

なので、Lさんは、修理にかかるお金の全額まるまるを自分の懐から出すほかありません。まあ、やり手の個人投資家ですから、さほど痛くはないかもしれませんが……。

繰り返しになりますが、日頃から「クルマのボンネットを開けたことがない」と自覚する方は、今回のような急なバッテリー上がりに遭遇した際、まずは「ハイブリッド車からのジャンピングスタートはNG」「ハイブリッド車へのジャンピングスタートはOK」というセオリーを思い出してください。
「何とかなるだろう」などと何年も使っていないブースターケーブルを取り出し、スマートフォンでインターネットの情報を検索しつつ、我流でジャンピングスタートを試みる…それ以前の問題です。

ハイブリッド車にジャンピングスタートの協力を頼むのはNG!(前編)

ハイブリッド車にジャンピングスタートの協力を頼むのはNG!(後編)

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