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EVキーマンに聞く/CHAdeMO協議会 姉川尚史会長 ①「20年前は、東京電力でEV販売とバッテリーリユース事業をやるつもりでした」

2020年3月19日更新



CHAdeMO(チャデモ)協議会は、EVをはじめとする電動車のための急速充電器の規格を開発・管理する団体で、ロータスクラブもその一員となっている。2010年、ゼロエミッション社会の実現を目指してこのCHAdeMO協議会を立ち上げたのが、現在会長を務めている姉川尚史氏だ。インタビュー第1話は、氏の生い立ちから協議会設立までの波瀾万丈のストーリー!

16歳で石油ショックに出会って

姉川氏は、1983年に東京大学大学院(原子力工学)修了後に東京電力に入社し、原子力発電所建設建設や原子炉設計の仕事をはじめた。そこには電気エネルギーを輸入に頼る日本の現状をなんとかしたいという強い思いがあった。

——もしかすると、幼いときからエネルギーに関わる仕事を目指していたのでしょうか?

姉川 まさか。私、幼いときは親の仕事の関係で九州各地を転々とし、一番長く暮らしたのは大分県の日田杉で有名な山の中。だから、ほぼ山猿状態(笑)。エネルギーのことなんてまったく考えていませんでしたね。

——では、もう少し大きくなってから進路をお決めになった……。

姉川 ええ、1973年、16歳のときに第一次石油ショックがあって、「ああ、日本はエネルギー資源のほぼすべてを輸入に頼っているからこんなに大変な事態が起こる。なんとかしなきゃ」って思い、それでエネルギー関連の仕事を目指すことにしたんです。

——その中でも原子力発電の道を選んだのはなぜですか?

姉川 実は最初のうちは、東シナ海で石油を掘り出す仕事も候補にしたりしていた。最終的に原子力の道を選んだのは、環境への負荷が小さいと考えたことと、自分が現役である間に結果が見えそうに思えたからです。

——早くからゼロエミッションのメリットに注目されていたわけですね。一方で原発のリスクについてはどう思われていたのでしょう?

姉川 もちろん、原子力発電がリスクをともなうことも十分に意識していました。だけど、技術的努力でそれが克服できるならば、そういう価値ある発電にチャレンジする甲斐はあるだろうと考えたんです。結局、2011年の福島第一原子力発電所の事故で、そうした思いも、皆さんの期待も大きく裏切ってしまうことになるわけですけれど……。とにかく、若い頃の私はそれなりに使命感をもって原子力工学の道に足を踏みだしていたんです。

電力会社らしいEV関連事業を

約20年にわたり原子力部門で仕事を続けた姉川氏は、2002年に自ら立ち上げたEV(電気自動車)関連事業の部門へと異動。そして、2010年3月に急速充電方法の規格を開発・管理するCHAdeMO協議会を発足させている。

——強い思いで取り組んだ原子力の仕事から、EV関連の仕事へとシフトされた。理由は、なんだったのでしょうか?

姉川 話は2000年前後に遡るんですが……当時、私を含めた原子力部門で働く人間は、みんな世の中のためによかれと思いながら一所懸命に仕事をやっていたんですね。でも、世間には原発への誤解や拒絶感があり、その仕事の意義がなかなか理解されないところもあった。そのため、部内の空気はどよーんと澱んでいたんです(苦笑)。

——重たい話ですね。

姉川 それで、いろいろ考えましたが、原子力を内側から頑張り続けているだけでは限界があると思いました。
そういう中で、リチウムイオン電池の登場によって普及のリアリティが増してきていたEVという存在に行き当たっ たわけです。ここで私は、「ゼロエミッションが長所である原子力発電の電気を、排ガスを出さないゼロエミッションのEVに使えば、その有用性がわかりやすく世の中に伝わるはず。そうなったら、きっと原子力部門にも光明が差すようになるに違いない」と考え、原子力部門の延長線上にEV関連事業をイメージするようになったんです。

——なるほど。

姉川 時を同じくして、会社の仕組みとしてチャレンジ制度的なものがスタートしたので、その第一回目に私は応募しました。そうしたら、その最終面接で「新しいことをやるのだから、原子力部門から離れてもらう」と言うわけです。私が「東京電力を選ぶ前に原子力を選んでいるんだから、それから離れるなんてありえない」と言うと、「では、ダメだ」ということで第一回目は落ちました。
この結果には、むかつきました。「今までのことを全否定しないと変革ではない」なんてことはないはずですから。それで、第二回目にも応募するんですが、その際にはもう一度よく考え直し、「原子力そのものの仕事ではないけれど、ゼロエミッションという点では共通しているし、やりがいもある」と原子力部門を離れる気持ちの整理もできていたので、EV関連事業についての提案は採択されました。

——それはどのような提案だったのでしょうか?

姉川 自動車メーカーさんと協力してEVをつくってそれを販売することや、バッテリーのリユース事業の推進なども目論んでいたんですよ。

——え、電力会社でEVを販売し、バッテリーのリユース事業までやることを考えていたんですか!?

姉川 そうなんです。なかなか画期的でしょ? バッテリーのリユース事業なんて、いまでこそ盛んに注目されるようになっていますが、20年近く前に発想していたんですから、我ながらすごいなって思います(笑)。



——しかし、結局、それらは実現しなかった……。

姉川 ええ、会社側の反応は「面白いけれど、どれも電力会社がやることじゃない」というようなもので、あえなく頓挫しました。ただですね、そんなEVを巡るトータルな事業の検討を行うなか、やがてEVが普及するためには急送充電のインフラが不可欠であるということがわかってきて、私はそこに新たな活路を見いだしました。

——そういえば、世界初の量産型EVである三菱自動車のi-MiEVが出たとき(2009年当時)、国内で急速充電器がぽつぽつと設置され始めました。

姉川 そう、三菱自動車や富士重工(現・スバル)、それから日産でEVの開発が行われだした当時、私は短時間で充電できる急速充電器が必要だと考え、東京電力が先に立ち、それらの自動車メーカーと連携しながら急速充電器の開発を進めました。
あのころのEVは航続距離が100㎞そこそこでしたが、私は、急速充電器が公衆電話のようにほうぼうにあれば問題は解決するじゃないかとシンプルに発想したんです。それに、先々バッテリーの容量が大きくなってEVの航続距離が300㎞~400㎞になった場合には充電時間も長くなるわけだから、急速充電器は絶対に必要になってくる、とも考えました。

——そうだったのですね。

姉川 私は、充電方式の標準化が重要だと思っていました。だから、さまざまなEVが使用できる急速充電器の規格をつくって管理する事業と、その元で全国に設置を進めていく事業への着手を会社に提案しました。そうしたら、今度は「東京電力の社員がEVをセールスするのは違和感があるけど、充電インフラを整備する仕事なら、これは電気設備事業なわけだから親和性はすごく高いよね」となって無事ゴーサインがでる運びとなったんです。そうして2008年10月に最初の急速充電器を設置することができました。

——それが、2010年の急速充電器の規格を管理・運用するCHAdeMO協議会の設立と、その後の急速充電器の設置や料金サービスを展開する日本充電サービス(現・e-Mobility Power)設立へと繋がっていったわけですね。

姉川 そういうことです。紆余曲折はありましたけど、なんとか東京電力らしいEV関連事業を推進させることができました。



①「20年前は、東京電力でEV販売とバッテリーリユース事業をやるつもりでした」

②「実は、世界の主な急速充電器はCHAdeMO規格がベースになっているんです」

③「取り急ぎ、高速道路SA・PAの充電渋滞の解消に向けて頑張っています」

④「わがままでもいい、子や孫のことを想って積極的にEVに乗り換えてほしいです」

姉川尚史(あねがわ・たかふみ)
1957年熊本県生まれ。1983年、東京大学大学院(原子力工学)修士課程修了後に東京電力に入社し、以降約20年にわたり原発建設や原子炉設計などの仕事に従事。2002年から9年間、電気自動車を担当。2010年にはCHAdeMO協議会を設立して本格的に急速充電器のインフラづくりに取り組み始めたが、2011年3月の福島第一原子力発電所事故の事後対応のために再び原子力部門に戻る。2017年に原子力関係の業務に加え、EV関連事業の業務に復帰。東京電力ホールディングス株式会社経営技術戦略研究所長。株式会社e-Mobility Power会長。2019年からCHAdeMO協議会会長。

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