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EVキーマンに聞く/CHAdeMO協議会 姉川尚史会長 ②「実は、世界の主な急速充電器はCHAdeMO規格がベースになっているんです」

2020年3月19日更新



姉川尚史会長へのインタビュー第2話は、「CHAdeMO協議会が急速充電器の規格を統一する業務を行っているワケ」と「その規格の内容」について。わかりやすい説明の中で、驚きのエピソードも披露された!

公共性を意識して規格を統一

2010年に、CHAdeMO協議会は日本の自動車メーカー4社と東京電力を幹事会社として設立された。東京電力1社だけの事業としなかったのは、急速充電インフラの公共性を重要視するとともに、なるべく早く的確な展開を目指したが故のことだった。

——CHAdeMO(チャデモ)という単語は耳慣れたものになってきていますが、実は世の多くの人たちは、CHAdeMO協議会がなにをやる団体なのかをあまりよくわかっていません。ここで改めて、協議会について解説いただけますか?

姉川 わかりました。なるべくカンタンにご説明しましょう。まずは基本的な理解の確認からいきますと……そもそも急速充電インフラって、みんなが使う公共インフラの側面が強くあるじゃないですか。

——ええ。

姉川 だとすると、もし、バラバラな規格の急速充電器がいっぱい出てくると、利用する人は非常に困まってしまいますよね?

——まちがいなく。

姉川 だから、そういうことが起こらないようするためには、あらゆる急速充電器の規格を統一させなきゃいけないわけですよ。

——そうですね。

姉川 つまり、これがCHAdeMO協議会とは何かの前提になるのですが、われわれはその統一の規格を開発し、管理・運営している団体ということなんです。そして、CHAdeMO規格というのは、その統一規格の名称となります。

——なるほど、わかりやすい解説、ありがとうございます。ちなみに、協議会設立時にはトヨタ、日産、三菱自動車、富士重工といった自動車メーカーが幹事会社として参画し、その他にも部品メーカー、充電器メーカー、自治体、そしてロータスクラブなど、さまざまな組織・団体が会員として加わっていますけれど、こうした東京電力1社ではない体制も、やはり公共性を意識した結果なのでしょうか?

姉川 そうです。新しいインフラをつくるというのは社会的にも業界的にも非常に大きなパラダイムシフトを起こすことになるので、統一の規格を定めるといっても、東京電力1社だけが先行して事を進めるわけにはいきません。そんなことをすると、現実に即さない規格になり、機器の開発やインフラ展開にいろいろと無理が生じて、利用者に迷惑をかけることになってしまいます。

——はい。

姉川 それを考えれば、やはり、EVをつくる会社、バッテリーをつくる会社、急速充電器をつくる会社、急速充電器を設置する団体などと歩調と呼吸を合わせて、すり合わせをしながら事を進めていくのがベスト。統一規格を技術・ニーズ・環境などとのマッチングをしながら定めていき、使う人みんなに役立つインフラを迅速かつ的確につくっていきましょう、ということにしたんです。

——急速充電インフラのための基礎づくりを、ある意味、日本の各企業がワンチームとなって行ったし、今も行っているということなんですね。

姉川 まあ、そんな感じですかね。ただし、CHAdeMO協議会はなにも国内だけでCHAdeMO規格の標準化をしている団体ではありません。設立当初から世界中の急速充電器に採用される規格にし、広めていくことも目指しています。つまりわれわれは、理想の電動化クルマ社会の実現のためにグローバルな公共性をも意識して活動している団体なんです。

すべての電動車に適切な充電を

自動車メーカーや充電器メーカーなどとのすり合わせを行いつつ、開発が進められたCHAdeMO規格。できあがったそれは、あらゆる電動車に適切に充電ができることを重視した世界に例を見ない画期的な規格となっていた。

——次に、統一の規格つまりCHAdeMO規格について伺います。急速充電器のCHAdeMO規格とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

撮影協力:三菱自動車工業株式会社



姉川 皆さん、急速充電器の規格というと、すぐに充電コネクタの形状を思い浮かべますよね。でも、実はそうじゃないんです。充電コネクタの形状は急速充電器の規格を反映したものではありますが、CHAdeMO規格の本質は「クルマ側のコンピュータにどれくらいの電気が欲しいかを語らせて、その情報に基づいて充電器が適切に電気を送る」という相互通信の仕組みにあるんです。

提供:CHAdeMO協議会



——協議会のホームページには「CAN通信によってEVからリアルタイムで受ける指令値に従って電流値を調整することで、電池性能と使用環境に応じた最適・最速の充電が可能」との専門的な記述がありますが、要は「EVやPHEVからの情報に基づいて急速充電器が適切な充電を行うのがCHAdeMO規格」ということになるわけですね?

姉川 そうです。なぜ、こういう仕組みにしたかというと、世の中にはさまざまなバッテリー容量の電動車や、同じバッテリーでも劣化した状態になったバッテリーを積む電動車が走っているので、それぞれの充電ニーズに対応できる急速充電器にしようと考えたからです。もし、それら異なったバッテリーの電動車に対し、ただただ同じスピードや量で充電すると、適切に充電が行えないばかりかバッテリーそのものを傷めてしまうことにもなります。そうなることをどうしても防ぐ必要があったんです。それから、将来的に進化したバッテリーを積んだ電動車に対応することも視野に入れていました。



——この仕組みはCHAdeMOのオリジナルのものですか?

姉川 既存の技術を応用していますが、この仕組みを精度の高い状態で採用したのはCHAdeMOが初ということになります。

COMBOによる無用な覇権争い

現在、CHAdeMO規格の急速充電器は世界で約25,000台(日本国内約7,000台)が設置されている。しかし、ここに至るまで、ヨーロッパとアメリカで展開しているCOMBO(コンボ)規格の急速充電器との無用な“覇権争い騒ぎ”があったりした。

——ところで、ヨーロッパとアメリカでは2013年ごろ(発表は2012年)からCOMBOという規格の急速充電器が展開されています。これはCHAdeMOの急速充電器と、どこがどう違うのでしょうか?

姉川 COMBOもEVやPHEVと会話しながら充電が行うので、基本的には同じ仕組みということができます。CHAdeMOと違うのは、一つのコネクタで急速充電と普通充電を行うところと、相互通信をCANではなくPLCという方式で行うところぐらいですかね。

提供:CHAdeMO協議会



——え、基本的には同じ仕組みなんですか。

姉川 そうなんですよ。どうしてそうなったかというと、私を含めたCHAdeMOの人間が、協議会の設立前後からドイツをはじめとする欧米各国の自動車メーカーや充電器メーカーに赴き、「急速充電器とそのインフラをつくるなら、CHAdeMO規格のようにクルマからの情報に基づいて充電するやり方(相互通信方式)を採用したほうがいいですよ」と教授しに行っていたからなんです。われわれはどこよりも先行して急速充電器の規格をつくったわけですけど、世界中に共通の規格の急速充電インフラができれば何よりと考えていたので、皆さんに無料で情報を公開していた。なので同じ仕組みのものができあがることになったんです。

——そうだったのですか。しかし、CHAdeMOと同じ相互通信で充電する仕組みを採用したのであれば、コネクタの形状や通信方式も揃えたほうがよかったのに、なぜそうならなかったんでしょう。

姉川 最初、海外の自動車メーカー・充電器メーカーでもわれわれの話を聞いて深く納得してくれていました。特にヨーロッパの充電器メーカーはCHAdeMO協議会の会員となり、CHAdeMO規格の技術を熱心に吸収し、急速充電器の開発・製造行ってくれました。
ところが、ドイツを中心とした自動車メーカーの人たちは「自動車文化はわれわれがつくったんだ」という強烈なプライドがあってですね、例え新しい電動車の分野であろうとも、極東の地の日本がつくったものにすべて従うわけにはいかないと考えたみたいなんですよ(苦笑)。それで大筋の仕組みは採用しておきながら、「オレたちはオレたちの流儀でやる」と、COMBO規格を打ち出してきたわけです。私からすると技術的に問題があると見えたし、世界中の電動車ユーザーにとっては複数の方式が存在することになるのはデメリット以外何者でもないと思えたんですけど、それが当たり前のことのように強行されてしまったんです。

——そして、それは“覇権争い”と報じられました……。

姉川 そう、彼らはその後、私が協議会から離れていた2014年ごろに、公的機関に働きかけて「EU内で急速充電器を設置する場合はCOMBOに限る」っていうルールをつくろうとまでした。幸い、最終的には「COMBO規格が搭載されていれば、それに加えてCHAdeMO規格が搭載されて入れも構わない」というルールで結着しましたが、一時は「風前のともし火……」という状況になっていました。

——ただ、ここに来てCHAdeMO協議会は、世界最大のEV市場をもつ中国と共同でCHAdeMO規格を元にした600kW出力が可能な次世代型急速充電器の規格であるChaoJi(チャオジー)の制定に取り組んでいると聞いています。素人考えでは、この規格の急速充電器が普及する段になれば、中国を重要な市場と考える欧米のメーカーも準拠することを迫られるだろうから、姉川さんが推奨する最適な充電方式が世界標準となっていく可能性も少なくないだろうと思うのですが、いかがでしょう?

姉川 そう簡単なことではないでしょうけれど、より良い規格の急速充電インフラが世界共通のものになれば、誰もが便利に利用できるようになり、引いては地球環境にいい電動車が増えていくことにつながるわけですから、そういう流れができるのは良いことだと思います。
念のために言っておくと、もちろん、そこにおいてわれわれは覇権を獲ろうだなんて微塵も考えていません。あくまで世界の皆さんのためになることを活動の前提にしています。

撮影協力:三菱自動車工業株式会社



①「20年前は、東京電力でEV販売とバッテリーリユース事業をやるつもりでした」

②「実は、世界の主な急速充電器はCHAdeMO規格がベースになっているんです」

③「取り急ぎ、高速道路SA・PAの充電渋滞の解消に向けて頑張っています」

④「わがままでもいい、子や孫のことを想って積極的にEVに乗り換えてほしいです」

姉川尚史(あねがわ・たかふみ)
1957年熊本県生まれ。1983年、東京大学大学院(原子力工学)修士課程修了後に東京電力に入社し、以降約20年にわたり原発建設や原子炉設計などの仕事に従事。2002年から9年間、電気自動車を担当。2010年にはCHAdeMO協議会を設立して本格的に急速充電器のインフラづくりに取り組み始めたが、2011年3月の福島第一原子力発電所事故の事後対応のために再び原子力部門に戻る。2017年に原子力関係の業務に加え、EV関連事業の業務に復帰。東京電力ホールディングス株式会社経営技術戦略研究所長。株式会社e-Mobility Power会長。2019年からCHAdeMO協議会会長。

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