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クルマのトラブル「もしも」マニュアル

Vol.47 相手の過失割合が100%なら、自分の車両保険を使っても『車両無過失事故に関する特約』でノーカウント事故扱いに!(前編)

2020年1月9日更新



【今回のやられちゃったストーリー】

地元の食品加工工場で事務員として働いているPさん(22歳)は従順で優しい女子。上司の無茶な命令に逆らったことは一度もないし、パートのおばさんたちに対してきつく当たることもまったくなかった。そのためほとんどの人から好意的に見られていたが、「あの娘は天使みたいに優しいけれど、お人好しすぎるところがちょっと気になる。人にだまされないか心配だわ」との微妙な評価もされていた。
そんなPさん、ある日、もらい事故に遭遇してしまう。愛車の軽自動車で通勤している途中に信号待ちしていたら、うしろから突然ガンっと一台のセダンがぶつかってきたのだ。
「きゃっ!」
幸いPさんにケガはなかった。しかし、愛車のリアはめちゃめちゃに。ぶつけてきたクルマから苦虫を噛みつぶしたような表情でゆっくりと降りてきたドライバーは70歳ぐらいのおじいさんだった。
「いやはや、困ったのお。あんたのクルマ、ブレーキランプが点いておらんかったから、動いているもんだばかりと思って止まるのが遅れてしもうたわい。お嬢さん、ブレーキランプ切れはまずいだろう。ちゃんと整備しとかんといかんわ」
おじいさん、謝りもせず、事故の原因をPさんのクルマのブレーキランプ切れのせいにしようとしていた。
実は、Pさんは先週末にクルマを点検したばかりだったのだが、おじいさんのそうした因縁に一切反論しなかった。それどころか「そうでしたか……ブレーキランプが切れていたのなら、申し訳なかったです。どうも、すみませんでした」と逆に謝りを入れる始末だった。
それを聞いて、おじいさんはニヤリとほくそ笑み「しめしめ」という顔をした。そして、警察がやってきて検証を行っている間、Pさんにこんなことをこっそりもちかけてきた。
「あのな、クルマの修理についての話なんだが……。これはあんたのクルマの整備不良の問題があるにしても、ワシもある程度はあんたのクルマの修理代を払わにゃいかんことになると思うんだ。しかしな、いまワシは任意保険に入っておらんのだよ。長年、無事故できた優良ドライバーだったし、わずかな年金で暮らしておるもんだから、保険料を払うのが馬鹿馬鹿しくてな。だから、その、なんだ、払おうにも払えんわけだよ……。それで、これは提案なんだが、ワシはワシのクルマの修理を自分のなけなしの貯金でなんとかするから、お嬢さんのクルマは、あんたが入っている自分の保険で修理してもらえんだろうか。な、それでお互い恨みっこなしにせんか」
それを聞いてPさんは、どうしたかというと、すぐにコクリと頷き「わかりました。私のクルマの修理は私の自動車保険でやることにします」と全面的におじいさんの提案を受け入れた。
そして、その場でPさんは加入している保険代理店に連絡を入れて、事故の報告と、自分の車両保険で自分のクルマを直したいとの旨を伝えた。保険代理店の人は「え、追突されたのにご自分の車両保険で修理されるのですか?」と訝しげに聞き返してきたが、Pさんは、「どうも私の方にも問題があったみたいだし、相手の方が任意保険に入っていない上にお金もないそうなので、はい、そうしたいと思います」とはっきりと答えたのだった。嗚呼……。そばにいたおじいさんが、またまたほくそ笑んだのはいうまでもない。
Pさん、ほぼだまされ損となるところだった。だが、後日、事態は急転することに。代理店からこんな朗報が入ったのだ。
「事故の過失割合がPさん0%、相手100%で確定しました。追突してきた相手の方は、Pさんのブレーキランプが点いていなかったと言っていたそうですが、クルマの点検を行った整備工場に確認したところ『まったく問題なかった』ということでした。それに、後続車のドライブレコーダーにPさんのクルマのブレーキランプが写っていました。いずれにせよ、交差点で信号が赤のときに止まっていたクルマに追突したわけですから、相手の方の完全な前方不注意ということです。で、ですね、こういう場合は本来であれば相手の方に補償してもらうのがスジなんですが、今回はそれも難しいみたいなので、Pさんがご希望されるとおりご自分の車両保険を使ってご自分のクルマを修理するということになりそうです。ただ、そうなったとしてもですね、Pさんの保険の等級は下がらず、翌年の保険料もアップしないことになると思います。どうしてかというと、2019年の1月から車両保険に自動セットされるようになった『車両無過失事故に関する特約』が適用されるからです。よかったですね」
Pさん、一瞬、ふわっとした感じで喜んだ。だが、保険代理店の人が続けて語ったところでは、その『車両無過失事故に関する特約』が適用された後は、保険会社はPさんへの補償分をおじいさんに請求することになるらしく、心優しいPさんはそれを聞いた途端に激しく落ち込んでしまった。「おじいさん、かわいそう。ちゃんと払えるのかしら……」。
いやいや、Pさん、人が良すぎますから。

長年無事故であっても
必ず任意保険に加入を

いやあ、今回のおじいさん、こす過ぎですね。

自分の前方不注意で追突事故を起こしたのに、たぶん任意保険に未加入であることを意識したせいでしょう、事故の原因の一端をPさんのクルマのブレーキランプ切れのせいにして自分の過失割合を減らし、半ばだます格好でPさんのクルマの修理代の支払いを回避しようとしました。

結果的にいずれの企みも水泡に帰しましたけれど、もう、やることなすことすべてがアウトでした。

おじいさん、せめて任意保険にはちゃんと入っておくべきでした。いくら長年無事故であったとしても、そして限られた年金だけで暮らしているとしても、日常的にクルマを運転している以上は万が一のときのことを考えた対策を施しておくのは当たり前のことです。それを意識的にしていなかったというのは、厳しい言い方になりますが、いい歳をして大人のドライバーとしての常識に著しく欠けていたというほかありません。

今回は幸いにもPさんにケガはありませんでしたが、これがもし死傷事故に及んでいたとしたら、いったいどうするつもりだったのでしょうか。相手をクルマの損傷以上の不幸に陥れてしまうことはもちろん、おじいさん自身、自賠責を使ったとしても償いきれない事態に陥ったかも知れず、穏やかな老後の人生そのものが破綻していた可能性が十分に考えられます。恐ろしいことです。

今、総人口において高齢者(65歳以上)は大きな比率を占めており、それは同時に高齢者の認知能力の低下による事故発生の懸念へと繋がっています。このおじいさんに限らず高齢ドライバーの方々には、たとえ長年の無事故を誇っていたとしても、自身の衰えを自覚した上で安全運転を励行し、任意保険の加入を必須のものとしながら運転を続けていただくことを切にお願いしたいと思います。

相手の過失割合が100%なら、自分の車両保険を使っても『車両無過失事故に関する特約』でノーカウント事故扱いに!(前編)

相手の過失割合が100%なら、自分の車両保険を使っても『車両無過失事故に関する特約』でノーカウント事故扱いに!(後編)

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