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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2021年6月9日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
節約&貯金が趣味のUさん(26歳・会社員)。「塵も積もれば山となる」という言葉が大好きで、なにか買い物をするときは、ほんの数円でも安い物を買うことを心がけている。
だから、通勤に必要なクルマは中古の最安値の低燃費車を買った。任意保険もできるだけミニマムな内容で契約した。たとえば対物賠償責任保険は、補償上限額が500万円から無制限まで選べるなかで、Uさんが選んだのは二番目に保険料が安い1000万円のもの。無制限と比べると1万円弱しかちがわなかったのだが、「塵も積もれば山となる」ことを考えると、それがベストの選択と思えた。それに、もし、他人のクルマとぶつかったとしても、1000万円以上も修理代がかかることはほぼないだろうと踏んでいた。
この判断は、しかし、ある日、凶とでた。
秋の行楽シーズンの連休中、滅多に使わない高速道路で隣県にあるアウトレットモールの最大70%割引セールにでかけた。なるべく早くいって、なるべく安くていい物を買うためだった。いつもより速度をあげて突っ走っていたUさん。気が焦っていたためか、なにを買おうかと気もそぞろだったためか、トンネルのもうそろそろ出口というあたりで、重大な事故を起こす。キキーッ、ドン! ドン! ドン!渋滞が発生していることに直前まで気づかず、最後尾でハザードランプを点して停まっていたクルマに追突してしまったのだ。しかも、追突されたクルマは、前のクルマにぶつかり、そのクルマもさらにもう1台前のクルマにぶつかるという典型的な玉突き事故に発展した。
Uさん、シートベルトとエアバッグのお陰でなんとかケガは免れたが、クルマのフロントは無残にひしゃげていた。ぶつかった相手のクルマはというと、なにやらスポーティな高級外車のようだったが、リアはもちろんフロントも大きく凹んでいた。玉突きに巻き込まれたあとの2台もやはり同じようなスポーツカーで損傷は1台目よりは軽いものの、それなりにいろいろと壊れていた。3台のドライバーはそれぞれ大きなケガをしていないようだったが、みんなうなじを痛そうにしてさすっていた。
警察がきて事情を聴取されたとき、Uさん、いろいろと言い訳を試みたが、全面的にUさんに非がある事故と見なされた。保険でいえば100対0の過失割合。Uさんは、最初にぶつかった1台の分のみならず、あと2台のクルマの損害とドライバーの治療費もすべて負担することとなった。
「仕方ない……保険でなんとかするしかないわね」
しかし、仕方ないでは済まなかった。対物保険で補償するはずの修理代金が、3台あわせてなんと2000万円以上にのぼることが判明したのだ。じつは、Uさんが玉突き事故に巻き込んだ3台は、その日に行われたスポーツカーの同好会ツーリングに参加していたクルマで、それぞれマニアックで貴重かつ高額な車種ばかり。それらを修理するのには1000万円じゃぜんぜん足りなかったのだ……。嗚呼、哀れUさん、その後十数年にわたり、さらなる節約を強いられ、わずかな貯金もできない悲惨な日々を送ることとなってしまったのであった。
渋滞の最後尾はハザードを点すべし
Uさんが起こしたような、高速道路上での渋滞時の玉突き事故が後を立ちません。
自動ブレーキを搭載したクルマが増えてきているとはいえ、まだまだ普及途中。事故を防ぐには、ぶつかる可能性のあるドライバーとぶつけられる可能性があるドライバー双方の注意深い運転に頼らざる得ないところが少なからずあるのです。
すなわち、速度をあげて走っているなかで渋滞にはまりそうな気配があるときは、ぶつかる可能性が大きいことを意識し、徐行することが大切……。
そして、渋滞で最後尾に停まりそうなときは、うしろからぶつけられる可能性が大きいことを意識し、早めにハザードランプを点すことが大切……。
ちなみに、渋滞の最後尾に停まりそうなとき、あるいは停まっているときにハザードランプを点すというのは、交通規則で決められた義務ではありません。あくまで、ドライバー間に広まった慣習のようなものです。ですが、高速道路を管理する各NEXCOでは、「渋滞末尾に近づいたら、ハザードランプやポンピングブレーキで後続車に渋滞を伝えましょう」(NEXCO中日本)といったように、この慣習の励行を強く呼びかけています。
最初にぶつかったクルマが100%悪い
追突事故の過失割合は、うしろからぶつかったクルマが100%で、ぶつけられたクルマは0%となるわけですが、これは複数台が絡む玉突き事故でも同様です。Uさんのケースでいうと、直接追突した1台目のクルマはもちろん、直接追突していない2台目、3台目の人的&物的損害にも全面補償の必要がでてきます。
ときどき「うしろから追突されたからとはいえ、前のクルマに追突して損害を与えたのは自分のクルマなんだから、自分にもある程度は非があるかも……」と考える2台目、3台目の人がいるようですが、どうかご心配なく。玉突き事故においては、基本、最初に原因をつくったクルマのドライバーがすべての追突の責任を負うことになっているのです。
では、玉突き事故のすべてが加害者100%被害者0%の過失割合になるのかというと、必ずしもそういうわけでもありません。わずかながら例外はあります。
たとえば、もしUさんの前のクルマが走行していたとして、渋滞にはまる直前に急ブレーキを踏み、Uさんがそれに追突して玉突き事故に発展してしまったとしたら、急ブレーキを踏んだ前のクルマの過失も問われる可能性がでてきます。
また、もしUさんの前のクルマが渋滞で止まっているときにハザードランプを点けておらず、その状況のなかで玉突き事故が起きたとしたら、Uさんの100%の過失割合も多少は軽減される可能性がでてきます。
つまり、前を走るクルマが交通規則やマナーを無視した挙動をしたことで起きた玉突き事故であれば、それなりに過失割合に変化がでてくる可能性があるというわけです。
ただ、いずれにしても、ぶつかった側の過失が大きいことに変わりはありません。こんな形での追突(玉突き)事故が起こり得るということを認識しておき、常に十分な車間距離を保って走行することがなによりも肝要です。
玉突き事故の過失割合、どうなる?(前編)
玉突き事故の過失割合、どうなる?(後編)
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