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クルマのトラブル「もしも」マニュアル

Vol.42 追突事故では、後ろのクルマが100%悪いってホント?(前編)

2021年6月9日更新



【今回のやっちゃったストーリー】

中学のサッカー部の顧問兼監督をしているMさん(29歳・教員)は、ある日曜日の昼近く、愛車の軽ワゴンを駆って隣町にある総合グラウンドを目指していた。そこでは、午後一から同じ学区内の中学のライバルサッカー部との地区リーグ戦の決勝戦が行われることになっていた。もともと両部の試合は地元では伝統の「ダービーマッチ」とされていて、決勝戦ともなるとまさに大一番。部員たちのみならず保護者やOBたちも相当に熱く盛り上がり、勝利への欲求はひとかたならぬものがあった。
部を率いるMさんは、そのプレッシャーをひしひしと感じていた。だが、それに押しつぶされないほどの意気込みと考え抜いた作戦はあった。Mさんは、カーオディオでチャンピオンズリーグのテーマ曲『アンセム』を大音量で流し、「今日はぜったいに勝つぞ!」と気持ちをひときわ昂ぶらせながら目的地へと向かっていたのであった。
が、そんな雄々しい道行きの中で、信じられない悲劇がMさんを襲うことになる――。
Mさんが、郊外の幹線道路の走行車線を法定速度で走っていたとき、追い越し車線を猛スピードで走ってきた一台のSUVがMさんのクルマを追い抜いて行った。で、そのまま行くのかと思ったら、クルマ一台分過ぎたぐらいで、ウインカーも点けずにクイッと鋭角に車線変更して、Mさんのクルマの前に割り込んだのだ。そして、なんと、いきなり急ブレーキをかけてきた。「わっ、あぶない!」。反射神経には自信があるMさんだったが、咄嗟のブレーキも間に合わず、ガシャーンと追突することとなってしまった。
路肩に停まったSUVから首をさすりながら外にでてきたドライバーはMさんより一回り上ぐらいの紳士然とした男性だった。彼はMさんをメガネ越しに軽く一睨みしてから、静かにこう言った。
「いやはや、まったくもって大変なことになりました。私のクルマ、ひどく壊れちゃいました。それに、むち打ちにもなっちゃったみたいです。イタタタタ……。これ、当然、そちらですべて責任取ってもらえるんですよね」
それを聞いてMさん、思わずカッとなって反論した。
「いやいやいやいや、ウインカーも出さずに突然割り込んできて、急ブレーキ踏んだのはあなたの方じゃないですか。あれじゃあ、追突は避けられませんよ。ペナルティを受けるのはそっちでしょ。なにいってんですか」
すると相手の男性は、いきなりすごみを効かせた態度になり、口汚くののしりはじめた。
「なんだと? おいおいおいおい、兄ちゃん、追突事故では後ろから追突したクルマが100%悪いんだってこと知らないのか? それにオレはちゃんと前もって左折のウインカーを出してから車線変更したし、意味のない急ブレーキも踏んでないんだよ。前のクルマとの車間が近かったんで、安全のためにちょっと強めにブレーキ踏んだだけだ。それにちゃんと反応できなかったのは、ボーッと運転していて車間距離を詰め過ぎていたお前のせいじゃないのか、あ? もし、オレが悪いっていうんなら、証拠を出せってんだ、こら! 」
Mさん、確かに「追突事故では後ろから追突したほうのクルマが100%悪い」というようなことを聞いた憶えはあった。それに、サッカーのビデオ判定に使うVARならぬドライブレコーダーを装着していなかったので、証拠らしいものはどこにもなかった。相手が明かにウソをついていると分かっていて、ひどく腹立たしい思いはあったものの、その後は黙って警察が来るのを待つしかなかった。
現場にきた警官にMさんは事故状況の説明をしっかりとした。それに基づいて、警官もブレーキのタイヤ痕などを調べてくれて、一応、双方のタイヤの跡は確認できた模様だった。だが、「ウインカーを出さずに急な車線変更」があったかどうかについては確認できず、もし相手に「急な車線変更ならびに急ブレーキ」の非があったとしても、Mさんの「前方不注意もしくは車間距離を詰めすぎていた」の非も否定できないことをやんわりながらも示唆された。もう、なんたる理不尽!
ただ、後日、保険会社の調査員による査定でMさんが30%、相手が70%という過失判定が出て、ひとまずホッとできた。
Mさんの腹立ちというか落胆は、しかし、その後もまったくもって収まってはいなかった。保険のお陰で現金の出費はなかったわけだが、翌年からの保険料が大幅アップとなるのが痛かった。それに相手の無茶な運転とウソに翻弄される格好となった自分が情けなかった。
そして、それよりも何よりも、もっとも大きな痛手と感じられたのは、事故当日の事故処理のお陰で午後一から行われた決勝戦に間に合わず、チームが監督不在のまま歴史的な大敗を喫したことだった。しかも、この結果を受けてMさんは保護者やOBたちからは監督失格の烙印が押され、情熱をもってやっていた顧問兼監督を辞任させられるかも知れない危機にも瀕していた。Mさんは、他人の迷惑を顧みない一人の男の無茶な運転のお陰で、まったくもってやり切れない状況に追い込まれていたのである。嗚呼……。

※本文記載の過失割合はあくまでストーリー上の参考例であり、実際の事故の際には、その状況によって過失割合は変動します。

けっこう多い
ウインカーなしの車線変更

Mさん、災難なことでした。思ってもみない事故となり、相手が悪いのに30%の過失責任を負い、かつ情熱をもってやっていたサッカー部の顧問兼監督も辞任させられるかも知れない危機に陥るなんて……。
しかし、災いは、このよう突然やってくるのです。

Mさんが巻き込まれた今回のケースは、決して他人ごとではありません。実は、世の中には無茶な車線変更や割り込み行為が結構あるようなのです。
JAFが、2016年にインターネットを通じて行った『交通マナーに関するアンケート調査』の結果を見ると、そのことがよくわかります。

「方向指示器(ウインカー)を出さずに車線変更や右左折する車が多い」との問いに「とても思う」「やや思う」と答えたドライバーは合計77.1%、「無理な割り込みをする車が多い」という問いに「とても思う」「やや思う」と答えたドライバーは合計63.2%にのぼっています。これは、ちょっと異常な数値ではないでしょうか。





同調査において、「方向指示器(ウインカー)を出さずに車線変更や右左折する車が多い」との問いに「とても思う」と答えた人に比率が高い上位3都道府県は、1位岡山県(53.2%)、2位香川県(51.0%)、3位沖縄県(46.2%)でした。
「無理な割り込みをする車が多い」という問いに「とても思う」と答えた人に比率が高い上位3都道府県は、1位徳島県(27.9%)、2位大阪府(24.5%)、3位福岡県(24.0%)でした。

この調査とは別のものですが、最近、民放テレビ局のワイドショーにおいて、全国各地に存在する道路交通の悪しきローカルルール(マナー違反や法律違反など)が紹介され、SNSなどでも多くの反応がありました。
実は、その中で、物議を醸したのが『岡山ルール』というもの。岡山県では車線変更や右左折の際に「ウインカーを出さない」という暗黙のルールがあるのだとか。番組が地元のJAFに取材したところ、「岡山では『ウインカーの使用は運転初心者がする恥ずかしい行動』だという認識が浸透しているようだ」という説明があり、番組出演者も視聴者もびっくりしたというわけです。

岡山県民のみをあげつらうわけではありませんが、悪しきローカルルールは交通安全に百害あって一利なし、です。教習所での教えを再認識して、交通ルールの遵守と交通モラルの向上に努めましょう。

ウインカーを点すのは
移動を開始する3秒前

ところで、車線変更はどのような手順で行うのが正しいのでしょうか?
多くの人は、クルマを運転する中で、とくに意識することなく車線変更を行っていると思います。いきなり「手順は?」と問われても、即座にスラスラとは出てこないかもしれません。ここで、念のため、正しい車線変更の仕方・手順を紹介しておきたいと思います。

《正しい車線変更の仕方・手順》

(事前)十分な車間距離をとる
車線変更をする際には、安全確認などを余裕を持って行うために、十分な車間距離をとりましょう。※自車の後方の車間距離にも注意。

①車線変更先のレーンにいるクルマの動きと距離を把握する
車線変更先となるレーンの先行車と後続車の動きと距離を把握し、安全を確認します。そして、車線変更先のクルマのスピードに自車のスピードを合わせます。

②ウインカー点滅は最低3秒間/その間に安全確認
周囲のクルマに、自車の車線変更の意思に気付いてもらうために、曲がる方向を示すウインカーを点けます。その後、「ゼロ、イチ、ニィ、サン」とゆっくり数え、その間にもう一度安全確認を行います。
安全確認の順番は…
【1】直視 (前方)
【2】ルームミラー (後方)
【3】ドアミラー (斜め側方 ※車線変更する側)
【4】直視 (横 ※車線変更する側)

③横にスライドさせるイメージで移動
安全が確認できたら、自車をゆっくりと横にスライドさせるイメージで移動し、車線変更を行います。この際、サイドミラーで後方をこまめに確認し、安全を確保します。完全に車線変更ができたら、点けていたウインカーを消して、完了です。

ちなみに、車線変更を終えた後、後続車に対してハザードランプを点滅させて「入れてくれてありがとう」の挨拶をするという習慣がありますが、これは本来のハザードランプ=非常点滅灯としての使用法とは異なるので、逆に危険を招くおそれがあります。やめましょう。
感謝を表したい場合には、軽く会釈や手を上げるくらいで大丈夫。相手も注意深く車線変更の推移を見守っているので、それでも十分に意思は伝わるはずです。

さて、話を戻しましょう。車線変更には、多い少ないはそのときの状況によりますが、交通事故のリスクがあります。自分が車線変更をするときには、ここで再確認した手順をしっかり守りましょう。
また、Mさんのように他車の無茶な車線変更で事故に巻き込まれることがあることを踏まえ、他車の動向に注意し、例えば後方から来るクルマのスピード違反や蛇行・ふらつきが認められるときは、“かもしれない運転”を行うことが大事です。

追突事故では、後ろのクルマが100%悪いってホント?(前編)

追突事故では、後ろのクルマが100%悪いってホント?(後編)

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