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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2021年5月27日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
肉食系女子のEさん(32歳・自営業)は、つい最近、半年ほど付き合っていた7歳年下の男性を振った。もっと魅力的な同年代の男性が現れたので、そっちに乗り換えることにしたのだ。
一瞬、同時進行で2人と付き合うことも考えた。だが、先に付き合っていた年下男性に嫉妬深く粘着質なところがあったので、いろいろ面倒が起こる予感がし、思い切って関係を断ち切る道を選んだ。別れを切り出したときは、相手はなかなか受け入れなかったものの、「実は新しく好きな人ができたの。もう諦めて」と告げると、がっくりと肩を落とし、恨みがましい目をしながら別離を承諾した。
その1週間後の週末、Eさんは愛車で新しい恋人のマンションに赴くことにした。そこで彼と甘いひとときを過ごすつもりだった。
ところが、いざ駐車場に行ってみると、愛車の左側前輪のタイヤがパンクしているのに気づいた。よく見れば、タイヤのサイドウォールが鋭利なもので切り裂かれている。何者かによる悪意あるいたずらと思われた。
Eさんはすぐに警察に通報した。現場に駆けつけた警官は「これは明らかにいたずら目的ですね」と言った。そして周囲を検分した後「ほかのクルマには被害がないから、Eさんの愛車のタイヤだけを狙った可能性がある。何か思い当たる節はありますか?」と聞いてきた。Eさんは、振ったばかりの年下男性のことが思い浮かんだので、控えめに「もしかしたら……」と言いつつ、彼のことを伝えておいた。
その日、Eさんは新恋人のマンション行きを取りやめにした。恐れをなしたからではない。自動車保険のロードサービスを使って愛車を馴染みのディーラーに入庫させ、すぐにタイヤ交換と補償の話をしたかったからだ。
ディーラーに到着早々、Eさんは担当者に被害の状況を話し、こんな質問をぶつけた。
「いたずらによるパンクでタイヤ交換。これって、車両保険で補償されるのよね?」
担当者は、眉間に皺を寄せながらこう答えた。
「誠に残念ですが、タイヤ単独の被害は車両保険では補償されません。走行中のパンクはもちろん、いたずらによるパンクも対象外なんです。納得できないお気持ちはよくわかります。でも、これは保険の約款で決められていることなので、どうにもなりません……」
Eさんは愛車にされたいたずらに加えて、融通の利かない保険のルールにも腹が立って仕方なかった。やむを得ず自分のカードでタイヤ交換代を支払ったが、「犯人が捕まったら目に物見せてやる」と決意を胸に刻んだのだった。
そのまた1週間後のこと。今度は予定どおり新しい彼のマンションを訪ね、玄関のドアを開けたタイミングで、Eさんあてに警察から犯人逮捕の報せが入った。思ったとおり、元彼が犯人だった。Eさんのマンションの駐車場に駐車しているクルマの中に、常時録画タイプのドライブレコーダーを搭載しているクルマがあり、犯行の模様が録画されていたのが逮捕の決め手となったようだ。
Eさんは、その報せを聞いて鬼の形相となった。そして、玄関に出迎えた新しい彼の目を見つめながらこう叫んだ。
「あいつから損害賠償と慰謝料を思いっきりぶんどってやるわよ!」
新しい彼は、彼女に同調してニッコリしたが、背筋が寒くなるのを感じてもいた。
自動車保険の約款でも
タイヤは対象外と明記
Eさんの今後が気になりますが……、今回の本題である車両保険とタイヤのパンクの関係について見ていくことにしましょう。
まず、シンプルに「いわゆる一般的なタイヤのパンクについて、車両保険の補償範囲か?」ということを考えてみたいと思います。タイヤのパンクを経験された方はおわかりでしょうが、これは「補償範囲外」です。
自動車保険の約款には、多くの場合「タイヤまたはタイヤのチューブに生じた損害」に対しては「保険金を支払いません」と書かれています。
そもそもタイヤは、常に地面に接して摩耗し、劣化し続ける消耗品です。使い続ければいつかは走行に適さない状態になり、それでも使い続ければパンクしたり、バーストしたりする可能性が高まります。こうしたリスクについてはクルマのオーナーが、日常点検や定期点検でリスク回避を図るべきであり、車両保険としてはカバーしていないというわけです。
いわゆる一般的なタイヤのパンクが車両保険の対象外であることから、誰かが悪意を持って行ったいたずらによるパンクについても、基本的に車両保険の対象外という扱いになります。
ただし、これはタイヤだけが損害を被った場合の話。そうでない場合は、タイヤも補償されることがあります。後編では、そのあたりについて解説します。
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