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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2023年12月14日更新
武蔵精密工業のEVモータースポーツ部は2018年に誕生。2021年にJEVRAのEVレースに初参戦している。
中編では、監督を務める加藤宣保氏(研究開発部所属)と、部長の山下将史氏(研究開発部所属)、副部長の水谷侑司氏(研究開発部所属)の3名に、創部の経緯や参戦初期のエピソードなどを語ってもらった。
部の設立を
社長に直談判
――まず、監督の加藤さんにお聞きします。EVモータースポーツ部が生まれた経緯を教えてください。
加藤 今から5年前の2018年に、クルマ好きの後輩から「JEVRA主催でALL JAPAN EV-GP SERIESというものがあります」と聞いたことがきっかけです。私が「後輩たちとEVレースに参戦しながらEVを勉強する部をつくりたい」と思い立ち、クルマ好きの後輩たちに声を掛けたところ、4名ほどが賛同してくれました。そこで、社長に提案したところ、即「いいね」との判断がもらえました。それがはじまりでしたね。
――社内に部を立ち上げたいと社長に直談判したんですか?
加藤 はい。われわれの会社は風通しがよくて、社長はじめ上層部とざっくばらんに話したり、提案をする機会がとても多いんです。提案内容が会社にとっていいものであれば、すぐに実現に至ることが結構あります。EVモータースポーツ部もその流れの中で生まれたんです。
――社長は加藤さんの提案のどういったところがいいと思われたんでしょう。
加藤 先ほど広報担当の小久保が話したとおりのことですね(前編参照)。以前から、世の中がカーボンニュートラルの方向に動く中で、クルマの電動化は避けられないことがわかっていました。会社はエンジン車用の部品だけを製造していてはいずれ衰退するので、早晩EV用部品の研究開発・製造にも本格的に乗り出す必要があると考えていました。私たちの部活動は、社長にとってそうした方向性にフィットするものと映ったんだと思います。
――従来の枠を壊す冒険のひとつと見られたわけですね。
加藤 そうです。部のメンバーはエンジン車の機械工学を学んだ者が主です。だけど、みんな若く、今後、部の活動を通して電動車用部品の研究開発に役立つ人材に育ってくれる可能性が十分にあります。社長と会社は、そこに大いに期待してくれているんだと思います。
――設立当初、そんな若い部員の数は4名。今は何名ぐらいが活動されているんですか?
加藤 今は20名に増えています。ほとんど20~30代。私を含め数名が50代のロートルです(苦笑)。
――そうですか(笑)。ちなみに、部を立ち上げる直前、50代の加藤さんがEVを勉強しようと思い立ったのはどうしてですか?
加藤 会社の思いとほぼ一緒です。私はもともと機械いじりが好きでした。会社では長年エンジン車のパワートレイン系部品の強度耐久評価をする仕事をやってきました。そして、ときどき趣味でエンジン車によるレースに携わったりもしてきました。しかし、時代の流れを見ていて、このままではいずれ自分の仕事はなくなるし、好きなレースも楽しめなくなるのではないかという危機感を覚えるようになりました。だったらEVだな、と。そこを究めれば、まだまだ仕事ができるし、レースも楽しめるに違いないと考え、部を設立するという行動に出たわけです。あれは、自分なりの「Go Far Beyond!」でしたね。
未知への興味が
入部を決意させた
――続いてEVモータースポーツ部の部長である山下さんと副部長の水谷さんにお話をお聞きします。それぞれの入部時期と入部した動機から教えてください。まず山下さんからお願いします。
山下 入部は2019年のことでした。当時のEVモータースポーツ部は、まだレース活動をやっていなくて、CQ出版が発売しているEVカートを購入して、EVの基礎を勉強している状態でした。でも、その後すぐにコンバートEVをつくってレースに参戦する予定になっていたし、その際は僕をドライバーに起用してくれるという甘い誘いもあったので、部員になりました(笑)。もともと僕はモータースポーツが大好きで、学生時代には自動車部に入ってエンジン車でのレース活動にのめり込んでいました。EVレースはまったくの未経験でしたけど、レースなら楽しいに違いないと思い、入部することにしたんです。
――水谷さんはどうですか?
水谷 私は2021年の末まで他社に出向していたため、入部は2022年の1月と遅いです。入部の動機は純粋にEVに対する好奇心ですね。学生時代、学生フォーミュラの活動に参加していた背景や、社会人になってもサーキット走行を経験するなど、エンジン車が大好きで、EVには拒絶反応を示す人間でした。でも、世間でも出向先でもクルマの電動化に関する話題が多く出るようになり、これは避けては通れない道だなと思うと同時に「そんなに騒がれるEVってどんなクルマなんだろう」という興味が湧いてきました。それで、1回この未知のクルマを見て触れてみようと考え、入部を決めたわけです。入部したときにはすでにJEVRAのEVレースに参戦していて、ドライバーは山下が務めていたんですが、会社の仕事の都合でサーキットに来られない場合もあるので、そのときは私がメカニックだけでなくドライバーを務めることになりました。今も、お互いの都合に合わせてドライバーチェンジを行っています。
初レースで感じた
EV特有の面白さ
――山下さんと水谷さんはともにレースのドライバー。初めてコンバートEVの「MuSASHi D-REV シビックEVR」号でサーキットを走ったときの印象をお聞かせください。
山下 僕は2021年に部がレースに初参戦したときにハンドルを握っています。正直いうと、そのときはバッテリーの消耗のあまりの早さに戸惑いましたね。事前にEVのレースではバッテリーの温度や残量に気をつけて走ることが大事とわかっていて、気をつけて走ったつもりなんですが、わずか数周で上限の温度に達して全開走行が続けられなくなってしまったんです。順位も13台中12位という散々な結果に終わりました。
――ガッカリされた?
山下 いえ、それがそうじゃなかったんです。レース結果そのものは残念でしたけど、逆にその後に向けての課題がはっきりしたことに結構ワクワクしました。EVの場合は、バッテリーのマネジメントをすることで勝てる可能性が出てきます。そこに面白みを感じ、「よし、なんとかするぞ」とすごく前向きな気持ちになれました。
――水谷さんのファーストインプレッションは?
水谷 私も初レースでは、EVの航続距離とか温度とかのもどかしい課題をはっきりと認識しました。でも、それ抜きにしていえば、EVは想像以上に走りが面白いなって感じました。エンジン音はしないものの、ドライビングの楽しさがまったくスポイルされていない。それどころか、例えばコーナーの立ち上がりではエンジン車よりも気持ちのいい動きをしてくれたりする。われわれのシビックは、モーター出力は110kWと小さいのに2ℓターボ車ぐらいのトルクがあるわけですが、初レースではその特性が存分に味わえました。だから、その後の参戦への意欲はかなり高まりましたね。
運転技術は
ゲームで磨く!?
――ここで、お2人のドライビングテクニックに関する話もお聞きしたいと思います。現在、JEVRAのALL JAPAN EV-GP SERIESでは、現役プロや元プロの選手たちが数多く走っています。シビックが改良を重ねて速くなっている事実はあるにせよ、会社員であり素人であるお2人は、そんな猛者たちと互角あるいは互角以上に渡り合っていらっしゃる。学生時代にレース活動をしていたにしても、そう簡単にできることではないでしょう。何か特別な訓練でもしているのですか?
水谷 実は、僕も山下も最近まで会社の同じ寮に住んでいたんですけど、その研修室を使ってよく一緒にグランツーリスモやアセットコルサというドライブシミュレータ(ゲーム)で遊んでいました。(笑)。初めて走るサーキットでも、事前にやり込んでおけば、体感するGはありませんが実戦への準備としていい練習になります。決してプロの方々と互角とは思っていませんけど、そこそこ走れているとしたら、その効果が大きいんだろうなって思いますね。
山下 そう、シミュレーターというかゲームは、サーキットの再現がリアルなので、コースのリズム感とかを覚えるには最適ですね。それに、2人でやっていると、お互いのドライビングの長所短所がよくわかって指摘し合えるし、自分で「このテクニックは盗もう」とか「ここは真似しないでおこう」といった判断ができ、自然とレベルアップが図れます。プロの方々のレベルにはまだまだ及びませんが、2人でゲームをしながら切磋琢磨する効果はそれなりに出ているのかなと感じています。
武蔵精密工業「EVモータースポーツ部」の挑戦
(前編)「Go Far Beyond!」EVレース参戦は会社の枠を壊す冒険のひとつ
(中編)疾れ若き部員たち! 将来の電動車部品づくりを担う人材となれ
(後編)目指せ表彰台! 理想は小さなパワーでテスラ車に打ち勝つこと
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