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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2021年11月16日更新
2021年1月、iPhoneでおなじみのアップルが、自動運転で動くEVの生産を目指し、協業できる自動車メーカーを真剣に探しているとの報道があった。
これを知った世間の少なからぬ人々が、一斉にそわそわしだした。
自動車業界の関係者たちは、かつて携帯電話の世界を一瞬にしてスマホ一色に塗り替えたアップルのイノベーティブな底力を思い出し、背筋に冷たいものが走った。
アップル製品が大好きな消費者たちは、近い将来、iPhoneのような革新的で便利なクルマが登場することを夢想し、期待に胸を膨らませた――。
本書『Apple Car デジタル覇者vs自動車巨人』は、そんなさまざまな反応を受けて出された本だ。未発売のApple Carの脅威と魅力を解き明かす一冊と紹介されている。
「タイトルに偽りあり」だが……
ところが、この本を実際に開いてみると、タイトルどおりの内容とはなっていなかった。
そもそもApple Carについては、第1章の20ページ足らずと、第6章の自動車業界人へのインタビューの一部でしか言及されていない。
全270ページのほとんどは、タイトルの後半にある「デジタル覇者vs自動車巨人」に沿った内容となっている。
しかも、デジタル覇者であるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)ではなく、テスラへの言及がかなり多かったりもする。
まだApple Carが影も形もない段階だから仕方がない部分はあるにせよ、「タイトルに偽りあり」と指摘されても正面から反論はできないだろう。期待を裏切られる読者も多いのではないかと想像する。
ただ、まったく読むに値しないのかというと、そうとも言い切れない。
第1章のApple Carに関する記述は、想像あるいは妄想に基づいているとはいえ、それなりに読み応えがある。「へー、Apple Carって、そんな新しい価値を提供してくれるクルマになる可能性があるんだ」と驚きに近い発見をもたらしてくれる。特に後半に掲載されている元日産COOの志賀俊之氏へのインタビューは充実しており、かなり興味深い読み物となっている。
以下に注目すべき発言の一部を紹介しておきたい。
ストレスのない移動など
新しい価値観のクルマが出現!?
まず、Apple Carはどんな新しい価値観を持ち込むのかという質問に対しての志賀氏の回答。
〈アップルカーは人を乗せて移動するのを目的としないだろう。アイフォンのデバイスの1つに自動車を位置づけるのではないか。(略)アイフォンとアップルウォッチ、そしてクルマで、完全なコネクティビティができあがる。これまでの自動車のドライビングプレジャーといわれるような走る喜び、移動の価値とは次元の異なる価値観が提示されるかもしれない。伝統的な自動車の価値とは全く違った形になる。かつての価値観が吹っ飛ばされるかもしれない〉
〈07年のアイフォン登場と同様の衝撃が20年代に来るだろう。誰が作ったかは関係なく、仕組みやバリューとして何を提供するか、が重要となる(略)ドライビングは興奮、エキサイト面とを提供してきた。アップルカーは全く異なったバリューで、興奮ではなく、ストレスを感じないような自動車にしていくのではないか〉
次に、Apple Carが発売されたらアップルストアなどでの直販になるかもしれないとの予測を受けての志賀氏の回答。
〈(日本の自動車メーカーは)販売会社、中古車、保険、車検を提供し、顧客を抱え込むことで再購入比率を上げてきた。(略)だが、コロナ禍で自動車の販売店に行きたくないため、家で自動車を注文したい、スマホで買いたいという動きが始まった。これは確実に大きくなるだろう。ここは真剣に変わらなければならない〉
最後に、アップルがEV販売を目論むなど欧米でのEVシフトは急速に進んでいるが、日本の自動車メーカーはそれに比して相当後れているのではないかとの懸念を受けての志賀氏の回答。
〈日本の自動車産業には楽観論がある。「まだ、勝てる」と思っている。ハイブリッド車が電動車として認められている間は残るだろう。ただ、競合が新しいバリューを常態化しようとしている以上、「今のままで大丈夫」と考えているとしたら心配だ。今こそ、どのようにして我々は生き残るのだ、という明確なビジョンを描いて戦うことが求められている〉
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