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BookReview⑭『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』‐MaaSが導入されれば、みんながフェラーリに乗れるかも?

2020年1月17日更新

MaaSトップweb

スマホのアプリではじまる
移動のための便利なサービス

『MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)』とは、いったい何か?

この本に書かれていることを元にして、できるだけわかりやすくいえば、「スマートフォンのアプリを使って移動のためのルート検索・予約・決済が行えるようになるとても便利なサービス」ということになる。

MaaSのことを近未来の交通形態を表す小難しい概念と思い、身構えていた人にとっては拍子抜けするほどカンタンな話なのである。

ただ、それを可能とする条件というか背景がすごい。鉄道、バス、タクシー、レンタカーといった従来の交通サービスに加え、カーシェアリング、自転車シェアリング、配車サービスといった新しい交通サービスのルートや料金などのデータがすべて ICT(情報通信技術)を介してクラウドで連結される。その背景によって、利用者はアプリでシームレスなルート検索、予約、決済が行えるのだ。

つまり、これまで利害を異にしてきた各交通関係の団体・企業が垣根を越えてアプリ利用者のためにデータを提供するということ。これはなまなかなことではないだろう。

手のひらのスマホからカンタンにはじまる便利なサービスは、だから、実現するにはかなり大変なサービスとも言えるのである。

ヘルシンキの導入成功を受け
世界各都市でもMaaS導入が

MaaSという概念が生まれたフィンランドのヘルシンキ市では、この大変なサービスが2016年から実現している。

既にヘルシンキ市民は、『Whim(ウィム)』という名のMaaSアプリをスマホにダウンロードし、自身のデータを入力して登録すれば、それだけで市内移動のためのルート検索、予約、決済ができるようになっている。月ごとの定額制を選べば、プランにもよるが、市内の交通サービスが利用し放題になる特典まである。

この便利さ、お得さが受けて、現在、登録者(利用者)はヘルシンキ市の人口の1割となる6万人を超えているという。

どうして、こういうことが可能になったのか?
フィンランド政府ならびにヘルシンキ市の強力な後押しがあったからだ。利害を異にしていた各団体・企業は、行政指導や法規制の緩和などが迅速に行われる中で一丸となったのである。

もともとヘルシンキ市では、市内のマイカーでの移動の多さによる慢性的な渋滞、駐車場不足、環境汚染と、そられによる街の魅力の減衰が大きな問題となっていた。そこにMaaSが、「マイカーがなくても困らない暮らし(移動)を実現する」を謳ったものだから、政府と自治体は、すぐに導入の方向に動いたわけだ。

導入効果はてきめんだった。かつて市内でのマイカー利用率が40%だったところ、現在では20%まで減った。そして公共交通利用率は48%から74%にアップした。そして、渋滞、駐車場不足、環境汚染といった問題の解決の糸口が見えるまでになっているらしい。

この成功を受けて、いま、MaaSは世界各都市で導入が始まっているのだとか。この本では、「それほどいいものなので、日本でも早急に導入を図るべき」と訴えている。

MaaSの導入・普及には
住民の意識の変化が必要

この本には、マイカー大国の日本でMaaSを導入・普及させるためには、利害を異にする各団体・企業のデータを統べること以外に、マイカーでの移動が当たり前のようになっている人々、特に地方の人々に、マイカー主体の移動のデメリットに気づいてもらう必要があるという旨のことが書かれている。

例えば高齢化が進む過疎地には、これまでマイカー主体で移動していた人たちが免許を返納した途端に移動が困難になるという図式がある。そうであれば、日本で今後広がっていくであろうカーシェアリングや自動運転バスなどと歩調を合わせた形でMaaSを導入していくことは一つの解決策であり、よってそれを前向きに検討すべきとしているのだ。

また、地方では1人1台となっているマイカーの維持費についても言及している。マイカーの維持費が住民の生活を圧迫し、ひいては地元の街の繁栄をも阻害しているのではないか、という指摘である。ならば、MaaSを導入することで、その維持費にかかっていたお金をほかの消費活動に回し、自分たちのクオリティオブライフ向上と地元の繁栄に繋げたほうが良いということを理解すべきとしているのだ。

なるほど、たしかにそうかも知れない。理に適ったアピールだ。遅ればせながら国もMaaSについて検討を始めたようであるし、すぐに実現するのは難しいにしても、住民の意識が変われば、いずれ公共交通を中心にシームレスでスムーズな移動が可能となる都市・街が生まれることだろう。そこは、きっと渋滞や事故が少なく、環境汚染もあまりないすてきな地域になるに違いない。とてもいいことのように思える。

ただ、ここで、ふと反論らしきものも浮かぶ。そうなった場合、これまでマイカーで享受してきた自由に移動する歓びは、いったいどこへいってしまうのだろうか? たとえ数ヵ月に数回の週末だけのことだとしても、気に入っている自分のクルマで自由に走り回るのはなかなか捨てがたいことと思えるのだが……と。

この本には、その返答も用意してあった。MaaSという概念の生みの親であるというサンポ・ヒターネン氏へのインタビュー記事のなかで、ヒターネン氏はこんな発言をしている。

これほど負担の多いクルマを保有するよりも、タクシーや鉄道、バスを組み合わせて移動したり、必要なときに高級車を借りたりするくらいで十分ではないか。---中略---- 使うものだけにお金を払えば、フェラーリに乗ることも可能になります。(『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』より)

MaaS、自由な移動を愛する人にとっても、けっこう魅力的なものになる可能性が否定できない。(文:みらいのくるま取材班)

MaaS書影web

 

『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』
・2018年11月26日発行
・発行:日経BP社
・価格:2,000円+税

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