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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2021年1月14日更新
気候変動をもたらす地球温暖化の元凶は、ガソリンをはじめろする化石燃料を燃やしたときにでるCO₂である。そして、走行中にそのCO₂をまったく出さないEVは環境にいいクルマといえる――。
これは、世の多くの人が共有している認識だ。ある意味、小学生でも知っている常識となっている。
それに対して、現在、EVを走らせるための電気の多くは化石燃料を燃やしてつくられているので、その意味ではEVもCO₂排出に加担しているし、クルマを製造するときにもCO₂を出している。それを考えると、EVがもっとも環境にいいクルマだとは言い切れないという指摘もある。
いったいどちらが正しいのだろうか?
この疑問について、今回の日本EVフェスティバルで午後に実施された〈気候非常事態宣言EVシンポジウム〉では、いくつかの講演で言及され、答えを提示してくれていた。
特に、基調講演として東京大学大気海洋研究所の木本昌秀教授が行った講演と、自動車メーカーの電動車戦略のコーナーで三菱自動車EV・パワートレイン技術開発本部の百瀬信夫チーフテクノロジーエンジニアが行った講演は、その傾向が顕著だった。
ということで、以下、注目すべきポイントを挙げながらその二つの講演の概略を紹介していきたい。
極端気象をもたらす温暖化は
CO₂の累積によって起きている
木本昌秀教授の「気候変動の現状」という講演の概略については、時間を逆転させて、講演の後に行われた参加者との質疑応答の方から見ていこう。
質疑応答で、ある一人の観客が木本教授にこんな風なことを問うた。
「CO₂による地球温暖化というのはでたらめだという話があります。本当のところはどうなんでしょうか?」
木本教授は、それに対して概ねこんな感じの回答を行っている。
「そういうことをいう人たちは、自分に都合のいいグラフだけを持ってきて話をする傾向があります。しかも、そのグラフ自体が非常に疑わしい内容。IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)が提示しているグラフのような科学性に欠けているんです。われわれはちゃんとした科学に基づいた情報を元にして判断・行動をする必要があると思います」
この回答に、冒頭に挙げた疑問についても「科学的に判断・行動する」ことが重要だという示唆を感じた。そして、講演では次のような興味深い話を展開してくれた。
「実はCO₂はいったん出すとなかなか減りません。寿命が長く、植物の光合成にも限界があるので、現在の排出状態が続けばどんどん累積していくだけとなります。今後、一切CO₂を出さないのであれば、ひょっとしたら5000年後には元に戻るかも知れませんが……」
「今、ゼロエミッションとかカーボンニュートラルとか言っていますけれど、これはできればそうした方がいいという問題ではありません。そうしないと温度上昇と気候変動が止まらないので、必須条件となっているのです」
「日本政府はカーボンニュートラルを目指しながら同時に経済成長もやるとしています。そして、そのための大事な施策の一つとして電気自動車を多いに奨励しています。皆さんには、ぜひこのカーボンニュートラルの方向性をポジティブなこととして捉えて、いいEVをつくる、買うなどの行動に繋げていっていただきたいと思います……」
改めて、「CO₂排出が地球温暖化の元凶である」と胸に刻もう。
LCAの視点に立っていえば
PHEVのCO₂排出量は最少
次に、三菱自動車の百瀬信夫氏による「三菱自動車が考える電動車の未来」と題された講演だが……。
なんと、これは、EVは環境にいいクルマであるという前提に立ちつつも、「EVを走らせるための電気の多くは化石燃料を燃やしてつくられているのでたくさんCO₂を出しているのではないか」という視点=Well to Wheel(油田から車輪まで)と、それにプラスして「クルマを製造するときにもCO₂をたくさん出しているのではないか」という視点=LCA(Life Cycle Assessment、ライフサイクルアセスメント)を全面的に受け入れるカタチで行われた。
そう、「走行中にCO₂をまったく出さないEVは環境にいいクルマ」という“常識”は決して間違いではないのだが、どうやら最近はクルマのより厳密な環境度を測るためにWell to WheelさらにはLCAの評価を用いるのが当たり前のことになってきており、三菱自動車もそれに沿った電動車戦略を推し進めているようなのである。
そんな百瀬氏の講演の中で特に興味深かったのは、実は現状においてはPHEVがもっとも環境にいいクルマである可能性が高いという話。以下に、その発言をピックアップし、編集して紹介しておこう。
「EVの総合的なCO₂の排出量は、国や地域によって異なってきます」
「例えばヨーロッパ。Well to Wheelの考えでいくと、再生可能エネルギーや原子力による発電が多いのでEVがどのクルマよりもCO₂排出量が少ないということになり、それを普及させるのは妥当なこととなります(いずれ日本も再生可能エネルギーや原子力による発電比率が高まっていけば、同様の結果が得られるようになります)」
「ところがそこにLCAの視点を加えると、EVのバッテリーをはじめとする部品を製造するときに出るCO₂排出量がかなり多くなるため環境にいいかどうかはグレーとなり、普及の妥当性は薄まってしまいます」
「これを何とかするためには、バッテリーのエネルギー密度をぐんと上げてその分CO₂排出を減らす必要があるわけですが、今のところはなかなか難しかったりする。なので、現実的には小さなバッテリーで効率的に走る電動車がベターだということになります」
「そして、この前提に立てば、手前ミソではありますが、ガソリンエンジンを積んではいるけれど、やや小さめのバッテリーによって走るPHEVこそが、もっともCO₂排出の量が最少で環境にいいクルマということになります」
「三菱自動車は、こうした事実をしっかりと受けとめて、この11月に2030年までにPHEVを中心とした環境にいい電動車の販売比率を全体の50%にまで上げるという宣言をしました。これからの展開にどうかご期待ください……」
結局、これまでわれわれがもっていた「気候変動をもたらす地球温暖化の元凶は、ガソリンをはじめとする化石燃料を燃やしたときに出るCO₂である。そして、走行中にそのCO₂をまったく出さないEVは環境にいいクルマといえる――」という考えは、誤りではないにしても、少々言葉足らずの部分があったということだ。
これからは、「気候変動をもたらす地球温暖化の元凶は、ガソリンをはじめとする化石燃料を燃やしたときに出るCO₂である。そして、車両の製造から走行中までを含めてそのCO₂をあまり出さない電動車は環境にいいクルマといえる――」となるのである。
① Honda eも「みんなでCO₂削減!!」へ向けたさまざまなる意匠の一つ。
② エクリプスクロスPHEVは、エンジン車から乗り換える電動車として“賢い選択”といえそう。
③ 三菱自動車はCO₂排出量が最少となるPHEVを中心に電動車比率を高めてゆく。
④ EVオーナーは環境性能に加えて走りに惚れて購入を決めている。
⑤ 世界地図を描き変える勢いでみんなで手を組みCO₂排出ゼロを目指そう。
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