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BookReview(26)『日本車は生き残れるか』 ─新エネ車×インターネットが未来のモビリティの理想形!

2021年6月10日更新



CASEのCが最重要!?

日本車は生き残れるか。恐ろしい問いかけをタイトルにする本書だが、冒頭2ページ目にあっさり答えが出されている。

〈日本の自動車産業は崩壊しない〉

読者はここでホッと胸をなで下ろす。だが、それも一瞬のことだ。後に続く記述がまたもや読者を不安にさせる。

〈ただし、戦い方のルールは大きく変化する。そして、新しいルールに適応できた企業だけが生き残ることができる〉

新しいルール……。それはいったいどのようなものなのか?

予想どおり、著者は自動車業界に押し寄せているCASE(Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリングとサービス、Electric(電動化)))のことを挙げている。驚くのは、その中でも特にC=コネクテッドが重要であると指摘している点だ。

一般的な感覚からすると、当面の課題であるE=クルマの電動化こそが重要な気がするのだが、どうもそうではなさそうなのである。

2030年の売上の半分は
ソフトウェア&サービス

著者の主張は、おおよそ以下のように要約できる。

●最近、ようやく日本でもクルマのE=電動化の動きが活性化している。カーボンニュートラルの実現を考えれば、確かに電動化は重要といえる。しかし、メーカーは単なるモノとしてのクルマづくりだけに注力していてはいけない。

●これからのクルマは世のニーズに応えてインターネットにつながるコネクテッドカーとなり、新たなサービスを提供することで大きな収益を生んでいく。生き残りたいなら、コネクテッドへの注力が何よりも重要だ。

●事実、自動車産業全体の売上高は2017年の約305兆8000億円から2030年には605兆円に膨らむと見られる中、2030年のハードウェア=クルマの売上の伸びは横ばいなのに対して、ソフトウェアとサービスの売上は総額の半分近くを占めると予測されている。

●このことにいち早く気づいた世界の自動車大国であるアメリカ、ドイツ、中国のメーカー(自動車メーカーならびに部品メーカー)は、既にコネクテッドカーの実用化に向けた動きを加速させている。

●例えばソフトウェアやサービスに強い企業などとの協業を厭わず、水平分業化を積極的に進めているのも、その動きのひとつである。

●これまでピラミッド構造の垂直統合型でクルマをつくってきた日本の自動車メーカーならびに部品メーカーは、C=コネクテッドが重要だと気づいても、なかなか新しい動きに対応できない。早急に水平分業化を取り入れるなどして、C=コネクテッドへの取り組みを活性化させ、生き残りを図っていくべきだ――。

モビリティの成長の核は
馬力からビットへと変わる

本書では、こうした論の正しさを裏付ける材料として、海外の自動車メーカーのC=コネクテッドへの先進的な取り組み事例の数々と、それを指揮するトップの発言が紹介されている。

以下は、その中の何人かのトップによる発言の引用である。

「より良い車を作るだけでは不十分だ。(略)ネットによって相互につながり、データの活用によってより便利で快適なものにしたいと考えている。電化・自動化・コネクテッドという、これら三つが実現して初めて交通は〈排出ゼロ・事故ゼロ・ストレスゼロ〉を可能な限り実現できることになるだろう」(ドイツ・ボッシュのフォルクマル・デナー会長の発言)

「かつてのモビリティの成長は馬力によるものだった。現代のモビリティの成長は、数十億ビット・バイトという単位で(コンピュータによって)推進される」(ドイツ・コンチネンタルのウォルフガング・ライツェル元会長の発言)

「2020年は中国のEVメーカーにとって転換点。これまでは化石燃料から電気への転換がメインテーマだったが、今後はスマート化が焦点だ」(中国・BYDの王伝福董事長の発言)

「ここ数年のうちに、人々は明確に自動車業界の巨大な変化を二つの方面から感じるようになった。一つは新エネ車の台頭、そしてもう一つはインターネットの自動車産業への浸透だ。(略)新エネ車×インターネットという中国市場の進化は、将来世界の主導権を握る。我が国のみならず世界の著名なブランド、メーカーがこの潮流に気づき、大規模に参入しつつある」(中国・上海汽車集団の兪経民副総経理の発言)

いずれも説得力のある発言である。C=コネクテッドの重要性が世界で最新の共通認識になっていることがわかる。

モノづくりに固執し過ぎて新しいニーズへの対応が遅れがちな日本の自動車産業は、果たしてこの方向へと大転換できるのだろうか?

ひとつ希望を持たせてくれる日本のトップの発言が本書中にあった。

「研究所は技術を研究するところではない。人を研究するところだ」(ホンダの創業者・本田宗一郎の発言)

温故知新の発想でメーカーの人間がクルマづくりの原点に立ち返って前に進めば、きっと日本車は生き残っていける。



『日本車は生き残れるか』(講談社現代新書)
・2021年5月19日発行
・著者:桑島浩彰・川端由美
・発行:講談社
・価格:990円(税込)

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