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クルマのトラブル「もしも」マニュアル

Vol. 22 任意保険未加入の営業車両から「もらい事故」。ベストの補償交渉術は?

2017年9月12日更新

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【今回のやっちゃったストーリー】

一人で美容院を経営しているSさん(32歳)。ある日の帰宅途中、信号が青になった交差点に進入したとき、信号を無視して走ってきた運送トラックがクルマのノーズ側面に衝突してきた。ガシャーン。
幸い命に関わる事故にはならなかった。だが、クルマのノーズ部分はメチャメチャに。Sさん自身は、横にクルリとクルマが1回転するなかで、手足などほうぼうを打撲した。
Sさんは事故現場からすぐに病院へと運ばれて、精密検査を受けた。その結果、打撲のほかに左手首の骨折も判明。全治2ヵ月と診断され、1週間の入院を余儀なくされた。
入院した翌日、信号を無視した運送トラックの会社の「事故処理係」と名乗る人物が尋ねてきた。その人は、詫びの言葉を口にしつつ、「クルマの修理代と治療費、休業損害、慰謝料は、すべてわが社が責任をもってお支払いします」と誠意ある言葉を発してくれた。そして、後日、改めて補償内容を事細かに説明しにきて、その旨を明記した示談書に押印することを求めてきた。Sさんは、しっかりした対応のように思えたので、いわれるがままにハンコを押した。
その後、Sさんは予定どおり1週間で退院したが、骨折は完治しておらず、美容院を再開できたのは事故から1ヵ月半後のことだった。
再開後は、多くのお客さんと事故話で花が咲いた。「ほんと、大事にならなくて、よかったわねえ」と。
だが、そのなかで一人、「ちゃんとお金はもらったの?」と補償のことを聞いてくるお客さんがいた。その人は、かつて自分も同じような事故に遭った経験をもっていて、補償についてはかなり詳しいようだった。そこでSさんは、ありのままに相手方からでる補償内容について話して、是非の判断を仰いだ。すると、そのお客さんは、鏡の反射を通してSさんの顔を凝視しながら咎めるような口調でいった。
「あらー、じゃあ、相手方の保険会社からの補償じゃないのね」
「ということは、休業損害とか慰謝料とか、安く済まされちゃったってわけね」
Sさん、聡いお客さんからの指摘で、ようやく自分がうまくいいくるめられた可能性があることに気づいたのであった。

加害者側の保険会社が
交渉するはずなのに・・・

この事故は運送トラックが交差点で信号無視をして起きた「もらい事故」なので、過失責任は相手方が100%でSさんは0%となります。なので、本来であれば補償に関する交渉は加害者側が加入している任意保険の保険会社が行うのが普通です。

しかし、このケースではそうはなりませんでした。
事故を起こした運送トラックの会社の「事故処理係」という人物が現れ、補償に関するすべてを取り仕切りました。そして、もろもろ補償はされることにはなったもののの、全般的に金額が低めに抑えられることになってしまったようです。

どうしてこんなことになったのでしょうか?

おそらく、運送トラックの会社は任意保険に加入しておらず、Sさんへの補償は自賠責保険と社内にプールしておいた自家保険(事故処理用資金)でまかなうことになったものと考えられます。それで、なるべく自社の支出を抑える方向で示談が進められたということが推測できます。

微妙にずるいやり方。それにまんまと乗せられたSさん、ちょっとガッカリな結果になってしまいました。

任意保険に加入しないまま
営業する運送会社は多数

じつは、Sさんのようなケース、世の中ではけっこう頻繁に起こっています。

その理由は、多くの営業車両を保有している運送会社などが、任意保険に加入していないことが多々あるから……なのです。

ある会社が運送業をはじめるときには、許可申請の段階で保有する車両に任意保険をかけることが必須要件となります。ところが、それさえ済ませれば、次年度以降、任意保険への加入義務はあるものの罰則がないため、まさに任意で加入するかしないかを決める傾向が強まります。

その、加入するかどうかを決めるポイントはもちろん「お金」です。

運送業者の保有する車両=トラックの数は、中堅どころであれば最低でも数十台はあり、かける任意保険の料金の総額が自然と莫大なものに膨れあがっていきます。この事態を受けて、日ごろから経費節減を強く意識している会社の経営者はこう考えます。
「毎年、莫大な任意保険料を払いつづけるよりも、そのお金を社内にプールしておいて、万が一の事故のときには、そのお金と自賠責保険で補償するようにしたほうが、結果的には安く済むのではないか」

任意保険未加入web

かくして、世の多くの運送業者がそれを実行に移すようになり、毎日、任意保険に入っていないトラックを走らせてしまうことになるのです。そして、万が一の事故で、相手に補償する必要がでてきたら、なるべくプール金の支出を抑えられるような形で示談にもちこむようにするのです。

残念な話ですが、これが現実です。

専門家を相手にするときは
弁護士に頼るのがベスト

では、こうした実態があることを知っていたとしたら、たとえばSさんは、うまくまるめこまれないような対処ができたのでしょうか?

答は、たぶんNOです。

Sさんとの示談にでてきたような「事故処理係」は、その多くが保険会社のOBです(ときに弁護士の場合もあります)。事故の際の補償の加減については隅々まで熟知しており、Sさんのような保険と法律の素人が生半可に異議を申し立てたところで、わずかな譲歩しか勝ち取れないことは必至です。大勢でいえば、結局、相手方のいいように事が運ぶのがオチといえそうです。

もう、泣き寝入りするしかないのでしょうか?

いいえ、方法はあります。専門家には専門家をぶつけるのです。
Sさんのような100対0のもらい事故で、自分が加入している保険会社が交渉の場にでられない場合は、弁護士に交渉を任せるのがベストといえるでしょう。

弁護士に交渉を任せたら、自分で交渉する労がなくなるのはもちろん、もろもろの補償額がすべて相手方の思惑よりも高くなる可能性がでてきます。とくに慰謝料については、大きな差が生まれることが往々にしてあるようです。こうなったら、もう、万々歳でしょう。

ただし、この場合でも、相当な弁護士費用がかかることを忘れてはいけません。全体の補償額次第では、雇うのをやめたほうが得策になることも大いにあり得ます。この算段、けっこう難しいところです。

ということで、さらにベストオブベストの対処法を。
それは、事前に自分が加入している任意保険に「弁護士費用特約」を付けておくということです。これがあれば、たとえば100対0のもらい事故のときの交渉でも、弁護士を雇う費用が300万円までを限度にでます。お金の算段で悩むことなく、弁護士に交渉を依頼できるわけです。しかも、その料金は年間にわずか千数百円程度(任意保険の契約内容によって変動)。万が一のときの安心を考えれば、「付けておいた方がよい」特約といえるのではないでしょうか。

いま現在でも、任意保険に入っていない事業用の車両はごまんと走っています。そして、それらのクルマともらい事故になる可能性は大いにあります。そうした現実を踏まえれば、「自分の生活には弁護士に関わることなんか起こらないよ」などと決めつけることはできません。「自分を守る」ために、弁護士費用特約を前向きに検討する・・・そんな時代なのです。

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