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2023年5月11日更新
今月の達人
沼津中央自動車・今野秀明[第6回]
国連が主導する、持続可能な社会を実現するための国際的な目標であるSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)。日本でも、2020年前後から多くの自治体、企業、学校などが「SDGs行動宣言」を行い、それぞれのゴールに向けて、具体的な取り組みを行うようになっている。
沼津中央自動車は、2022年に「SDGs行動宣言」を行った。その中身は、これまで積み重ねてきた環境経営・環境活動をベースにした、地に足のついた取り組みである。
同社社長の今野秀明さんへのインタビュー最終回は、SDGsという大きな潮流をどのようにとらえ、何を考えたのか……その根底にある想いまでも掘り下げて語ってもらった。
SDGsが目指すところは
「エコアクション21」と同様
――御社は2022年に「SDGs行動宣言」を行って、SDGsへの取り組みを表明されました。ところで、SDGsについて意識したのはいつ頃のことですか?
今野 2019年に、「エコアクション21」に関して専門家の方からアドバイスしていただいた際に、SDGsについてもあらましを聞きました。そのときの話では、持続可能な社会をつくるというSDGsと、「エコアクション21」が目指すところは基本的には同じであり、「エコアクション21」の認証を継続的に取得している会社は、すでにSDGsに取り組んでいると考えていいということでした。
――でも、2019年には「SDGs行動宣言」を行うことはされませんでした。これはなぜでしょうか?
今野 私たちは、すでに「エコアクション21」に取り組んでいて、そこにかなりの手ごたえを感じていました。自分で言うのもなんですが、「エコアクション21」の活動を継続することはかなり意識しないとできないことですし、また定期的に審査もあります。だから、2019年当時の考えとしては、SDGsまで広げて、「エコアクション21」への意識が薄まってはいけないということだったと思います。
――その考えが変わったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
今野 一つのきっかけではなく、いろいろなことから「世の中の空気が変わってきた」と感じました。ロータスクラブがSDGsについて検討し、株式会社ロータスと株式会社ロートピアは「SDGs行動宣言」を行いましたし、当社と同じようにロータスクラブに加盟する全国の自動車整備工場でSDGsに取り組む姿勢を打ち出す会社が増えてきました。
――自動車整備業界で目に見える変化が起きたわけですね。
今野 そうです。さらには、金融業界からのアプローチがありました。地元の銀行が信用保証協会と一緒になって、SDGsに積極的に取り組む会社を後押しする活動を始めました。具体的なインセンティブとしては、新規に貸し出し枠を設けて、金利を安くしたり、保証料を無しにするといった内容が入っていました。それで、「ああ、これはいよいよSDGsの時代なんだな」と実感し、2022年に「SDGs行動宣言」行ったわけです。
確実に達成するために
身の丈にあった取り組みを
――御社の「SDGs行動宣言」には7つのゴールが掲げられています。
今野 はい。7つのゴールは、番号順に挙げると「6 安全な水とトイレを世界中に」「9 産業と技術革新の基盤をつくろう」「11 住み続けられるまちづくりを」「12 つくる責任つかう責任」「13 気候変動に具体的な対策を」「14 海の豊かさを守ろう」「15 陸の豊かさも守ろう」となっています。当社では、これらのゴールを「地球温暖化への取組」「環境に配慮した製品・サービスの提供」「持続可能な経営」といった大きな項目の中に置き、その実現のために具体的な取り組みを進めているんです。
《沼津中央自動車のSDGs達成に向けた取り組み》
●地球温暖化への取り組み
事業活動で発生するCO2量を明確に数字で把握し、削減に努めています。電力や燃料などの、数字ではかることができる削減だけでなく、一般廃棄物などをさらに分別してリサイクル化を進め、焼却する廃棄物の削減を続けます。
●環境に配慮した製品・サービスの提供
お客さまの車の点検・車検時にはスキャンツールを使いECUを確認し、適切な状態を維持し燃費の向上につなげます。2050年カーボンニュートラルに向けEV化していく車の変化に対応できる設備と技術教育を行います。
●持続可能な経営
SDGsを経営活動に取り込みます。代表者を中心に、社員全員に取り組みの浸透を行い、社外にも目標・実績を開示してコミュニケーションすることで「環境の取り組みの輪」を広げる活動を続けます。
――具体的な取り組み内容はこれまでのお話と合致していて、ぶれていませんね。
今野 そうです。それぞれの取り組み内容は、今までやってきたことの継続とその展開であり、自分たちが達成できるであろうことを挙げています。先にもお話ししましたが、こうした取り組みは毎日コツコツやり続けることが大事です。レベルの高い取り組みを表明しても、実際にできなければSDGsに貢献することはできません。もともとSDGsは、自ら手を挙げるスタイルであり、審査がないという緩さもあるので、どうしても宣言が空手形になりやすい側面があります。私たちは、そういう中途半端なことは避けたいので、宣言する以上は「身の丈にあったことをしっかりやり続けて、必ずゴールを達成する」という覚悟を持っています。
――やはり本気で取り組むことが大事なのですね。
今野 そこの気持ち次第で結果が違ってくると思います。それと、「SDGs行動宣言」をしたからには、7つのゴール以外の10のゴールについても無視してはいけないと考えています。いくら7つのゴールが達成できたとしても、ほかの部分でマイナスが出るというのはやはりよろしくないでしょう。宣言に対して不誠実な感じがします。ですから、当社としては、7つのゴール以外の10のゴールについてもマイナスがない状態にしておきたいと考えています。
――いま、学校教育でもSDGsについて学ぶということですが、SDGsによる社会の変化はどのようなものになると思われますか?
今野 SDGsの浸透によって、環境への取り組みは今や「当たり前」のことになっていると改めて実感しています。そうなると、環境を意識しない仕事をしている会社は、周囲からマイナスイメージを持たれてしまうわけです。これは、10年前からすると、大きな意識の転換です。また先を考えると、現時点で当社が取り組んでいることが、「最低限」ということになるのではないか、という予感がしています。
――その兆しは何か感じていらっしゃいますか?
今野 例えば、求人活動のときに、当社が「エコアクション21」に取り組み、「SDGs行動宣言」を行っていることが、本人はもちろん学校の先生や家族の皆さんに好意的に受け止められ、前向きに入社を検討してもらえる大きな要素になっています。そういうときに、「環境経営をやってきてよかった」としみじみ思います。
地域の自然を守れれば
地球環境の保全につながる
――締めくくりとして、環境経営・環境活動に取り組むポイントを挙げていただけますか?。
今野 当社では、月に1回、全体会議で環境の話をします。例えば、「うちの会社が仕事をして1年間に排出する二酸化炭素は34トンです。それを木に吸収してもらうには、杉の成木2414本が必要です」……といった話です。以前は、私にしてもそんなことを考えたことはありませんでした。けれど、自分たちが環境活動を行う中で、多くのことを知りました。環境について自分事として考えることが大事だと思っています。
――今野さんご自身の、環境活動に取り組む原点は何でしょうか?
今野 地元の美しい自然環境を守りたいという想いは結構強いですよ。例えば、沼津の隣町の清水町には富士山の麓のきれいな湧水を水源とする柿田川が流れ出ています。その湧水量は東洋一だそうです。柿田川は当社の3kmほど上流で伊豆天城を源とする狩野川と合流し、当社の横を流れていき、やがて駿河湾に至ります。その柿田川は沼津市の水源地で、沼津市民は皆、柿田川の水を飲んで生活してきたので「きれいな水を守りたい」という気持ちがあります。当然、私もその一人です。また、私は幼いころから家の近くの川辺で遊んだりして親しんできたので、この川を汚すのは言語道断だと思っています。父から受け継いだ「廃油を絶対に流さない」という日ごろの取り組みは、そうした「きれいな水を守りたい」という想いからきている部分が多分にあります。
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