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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2019年6月27日更新
自動運転サービスの社会実装をめざし、国土交通省が栃木県栃木市にある道の駅「にしかた」で行った最初の実証実験。実際に、モニターとして乗車した方々の声も聞いてみた。
高齢者を乗せて公道をほのぼのと走った!
午後の部の「乗客ありの走行」がはじまるころには、天候はすっかり回復していた。
心配されていた太陽フレアのGPSへの影響もとくになかったようで、乗客モニターに応募した40代~70代の地元の人たちを乗せて、バスはなんどもルートとなった公道を行き来した。
その走行風景は、本来は未来図のはず。だが、日本の懐かしい秋の風景に違和感なく溶け込み、妙にマッチしていた。なんといえばいいのか、ほのぼのしたムードが色濃く漂っていた。
人件費や燃料代がかからないメリットがある
乗客たちの表情も柔和そのものだった。
乗車の順番を待つあいだも、乗っているあいだも、降りたあとも、周りの人たちとおしゃべりしながら、みんな終始ニコニコとしていた。
交通規制がかかっているとはいえ、自動運転のバスが一般の人たちを乗せて公道を走るというのは、日本のモータリゼーションにおける歴史的瞬間のひとつといえるほどにすごいことなわけだが、そんなことはあまり重要ではないといった風だった。
それよりも、「ハンドルがなくて運転手もいない妙なバスだけど、もし、こういうのが交通の便が悪い近在を頻繁に走ってくれるようになるとすごく嬉しい」という言葉に感じられるように、生活に根ざした喜びのほうが勝っているようであった。
そう、地元の人たちにとって、自動運転バスは別の意味で夢の乗り物なのである。
公共交通が行き届いていない地方の中山間地での移動は、自分で運転するクルマが頼りとなる。だが、ドライバーの多くが高齢者であるため次第に免許返納者の数が増えてきていて、このままいけば、そうした地域の移動はにっちもさっちもいかなくなってしまうことが予想されている――。
もちろん行政もそれを受けて無料のミニバスなど、さまざまな移動サービスを提供しはじめてはいる。しかし、それなりに費用がかかるためにルートも運行頻度も十分というまでにはなっていない。
だから、運転手の人件費や燃料代がかからない自動運転の電動バスの開業は、官民両方から切実に待ち望まれることとなるのである。
運転手不在が気にならない安心感&快適さ
モニター乗車を終えた人たちに話を聞いたところ、やはり「高齢化」「免許返納」「交通不便」「移動困難」というワードが多くでた。「自動運転」というワードは、ある意味二の次になっている感じが強くあった
モニター乗車した皆さんのコメントを紹介しよう。
「そろそろ免許返納が近いと感じているので、こういうバスが近所を頻繁に走ってくれるようになるとすごく助かる。今回は、そうなるようにとの願いを込めて乗客モニターに応募しました……。え、運転手のいないバスは怖くなかったか? いえいえ、なんの不安もなく乗れましたよ。というか、想像以上に快適な乗り心地だったので運転手がいないことにあまり気が向かなかったです(笑)」〔中山間地に住む大嶋良市さん(75歳)とれいこさん(68歳)ご夫妻〕
「ここら一帯は高齢化が進んでいて、免許を返納する人たちが増えています。で、そうなると交通の便が悪いから、みなさん、どうしても家に閉じこもりがちになってしまう……。なんか寂しいですよね。ぜひとも、こういうバスに乗って積極的に外の世界を楽しんでもらいたいと思います。そうそう、このバス、窓が大きいから周りの景色がよく見えるんですよ。それに車内にエンジン音がしないから、会話がとても弾むんですよ。自動で走るというところもすごいのですが、いろんな意味で乗客をワクワクさせるすばらしいと乗り物だ思います」〔道の駅「にしかた」にある農村レストランで店長を務めている大塚すみ江さん(47歳)〕
「この地域においては、高齢化と免許返納にともなう足の確保は喫緊の課題。だから、今回のような社会実験は、とてもいい試みと映りました。市議として実現に向けて積極的に協力していきたいところです。ちなみに、今日は議員の立場を離れ、個人として乗車しました。じつは私、目があまりよくないほうなので、『人よりも免許返納が早いかなぁ』と思っており、『じゃあ、将来開業するかもしれないバスの乗り心地をしっかり確かめておかなくては』と思ったわけです(笑)。それで、どうだったかというと、いま私はプリウスに乗っているんですけど、あれよりも大きな未来を実感するに至りました。運転手がいないなか、安全にヒューッと加速する感じがすごくいい。高齢者でも心身ともに疲れない快適なバスになるでしょう。実現までにまだまだ時間がかかるというけれど、このセーフティでスムースな加速感をもってして、ぜひ早期開業をめざしてほしいですね」〔栃木市の市議会議員を務めている針谷正夫さん(65歳)〕
実現に向けて混走実験は不可欠
この日のすべての実証実験が終わったあと、今回の実験で「現場の裏方役」を務めた、国土交通省関東地方整備局宇都宮国道事務所の井上啓副所長にもお話をうかがった。
◎高齢化と免許返納にともなう移動の不便を補うものとして、この自動運転バス開業への地元の期待は相当に大きいようですね。
「そうですね。まだ実験段階なので、将来、必ずこの地域に導入されると決まっているわけではないですが、実際に移動の不便が際立ってきているところもあるので、実現への期待はかなり大きいと感じています」
◎もし、ここで開業となった場合、人の移動のほかにどのようなメリットが生まれてくるとお考えでしょうか?
「農作物などの物流にも役立つだろうと思っています。たとえばこの道の駅には近隣の農家の方々が農作物をもち寄って販売するというコーナーがあるんですが、残念なことにクルマがなくて運べないという方がいらっしゃる。そういう方々にとっては、かなり使えるバスになるんじゃないでしょうか」
◎どこで開業するかはともかくとして、国土交通省としては2020~2025年に民間ベースでの自動運転バスのビジネスを展開させたい意向があるようです。それを実現するためには、今後なにか必要だと思われますか?
「今回現場を担当した感覚でいえば、やはりほかのクルマと混在してちゃんと走れるかどうかを確かめることが必要なのではないでしょうか。つまり、交通規制をかけていない普通の公道でも安全に走れるかどうか……。それができるという確認ができれば、かなり実現に近づくように思いますね」
2020年までにはあと3年。オリンピックもいいが、この自動運転バス開業の日もぜひ楽しみにしたいところだ。
(文:みらいのくるま取材班)
「自動運転サービスの実証実験」ルポ
(前編)運転手のいないバスがついに公道を走った!
(後編)自動運転バスは地方の高齢者の夢の乗り物!
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