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【ルポ】東京理科大で開発が進む、超コンビニエンスな燃料電池車〈前編〉

2016年9月30日更新

FCV_1_web

コンビニエンスストアで
水素の素が買えるようになる!?

次世代エコカーの代表といえば電気自動車と燃料電池車だが、普及の可能性においては、いまのところ電気自動車のほうが一歩リードしている。理由はいろいろとあるが、もっとも大きいのはそれぞれを取り巻くインフラの差だろう。

電気自動車は1回の充電で走れる距離は短いものの、2016年7月時点で全国に普通充電器約1万3,000ヵ所、急速充電器約7,000ヵ所といった規模の充電スタンドがあるため、電欠を心配することなく長距離をドライブできる。かたや燃料電池車のための水素ステーションの数は100にも満たず、自由に移動ができる状況にはまったくなっていない(国が水素ステーションの数を増やす後押しをしているというが、資金的にも技術的にもたいへんな面があるため、そう簡単には事は進まないと思われる)。このままいけば、電気自動車の存在感が増す一方で、燃料電池車の影は薄くなっていくものと予想される。

でも、だが、しかし、もし水素ステーションなしでも水素が供給できるシステムをもつ燃料電池車が出現したとしたらどうだろう。次世代エコカーの頭角争いの様相はずいぶんとちがってくるのではないか。

その燃料電池車への水素供給イメージは、こうだ。
◎燃料電池車への水素の供給は、水素の素が入った小型カートリッジで行う
◎その小型カートリッジは日本全国のコンビニやロータス店などで販売される
◎水素が足りなくなったら、それらのお店でカートリッジを購入し、クルマにカチッと装着するだけでOK・・・

図2_新_web

現行の高圧水素タンクに水素を入れる燃料電池車と比べると、ものすごく供給が簡単。充電時間が長い電気自動車と比べてもそのコンビニエンス性は段違いに大きい。これが実現すれば、おそらく燃料電池車は、グーンと普及度を加速させていくにちがいない。

じつは、いま、東京理科大学理工学部電気電子情報工学科の星研究室で、これを現実のものとする研究が着々と進んでいる。

さまざまなメリットを生みだす
水素化ホウ素ナトリウムの粉末

星研究室で、研究を主導している星伸一教授に、この水素ステーションなしでも水素が供給できるシステムをもつ燃料電池車の概要について伺った。
「いったい、どんなクルマをつくろうとしているのでしょうか?」

東京理科大学理工学部 星伸一教授

東京理科大学理工学部 星伸一教授



「簡単にいえば、私たちはクルマの内部で水素を生成しながら走る燃料電池車をつくろうとしているのです」
「そして、それを可能にしてくれるのは、水を加えると水素が発生する水素化ホウ素ナトリウム(NaBH₄)という粉末状の物質です」
「つまり、この水素化ホウ素ナトリウムの粉を充填したカートリッジとある程度の水を載せるだけでモーターが回るシステムを完成させることができれば、水素ステーションというインフラがなくても走行がつづけられる燃料電池車ができあがるというわけです」

水素化ホウ素ナトリウム

水素化ホウ素ナトリウム



星教授によると、この燃料電池車のシステムの名称はSTEPS-FCV(Sodium Tetrahydroborate Power System-FCV)というらしい。細かいことはさておき、その仕組みは以下のようなものとなる。図3_web

STEPS解説図_web

さらに星教授は、STEPS-FCVを動かす水素化ホウ素ナトリウムそのものの優秀性についても言及してくれた。

「水素化ホウ素ナトリウムの原料であるホウ砂は日本にはほとんどないものの、アメリカやドイツ、トルコなどには大量にあるので、枯渇する心配がありません」
「しかも、一度できあがった水素化ホウ素ナトリウムから水素を取りだしても、その副生成物から再び水素化ホウ素ナトリウムがつくれるので、ホウ砂の輸入量が拡大することはない」
「さらにいえば、水素化ホウ素ナトリウムは、わずかな量でたくさんの水素を発生させられるため、コンパクトにカートリッジ化ができ、輸送面、販売面でのメリットも生まれてくる」
「すなわち、STEPS-FCVを積んだ燃料電池車は、非常にすぐれた水素化ホウ素ナトリウムの循環のなかで走ることになるのです」

もう、いいことずくめで感心してしまう。なぜ、世界の自動車メーカーは、こんなすばらしい水素化ホウ素ナトリウムを使った燃料電池車の開発に取り組んでこなかったのだろうかという素朴なギモンが浮かぶほどだ。

〈中編〉では、水素化ホウ素ナトリウムを使った燃料電池車の開発事情、さらには星教授がSTEPS-FCVの研究・開発に取り組みだしたきっかけなどを紹介する。〈つづく〉

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