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BookReview(41)『半導体戦争』―ポテトチップよりも小さいチップが自動車業界を含めた世界の行方を左右する!

2023年6月8日更新

書評_半導体戦争_1

「ポテトチップとコンピュータチップはどう違うんだ?」

これは1980年代のアメリカ・レーガン政権にいたある経済学者の言葉。自国の半導体産業が政府の支援を訴えるのを耳にしたときに、批判の気持ちを込めて発したものらしい。

当時は、たとえ政府高官であっても、半導体や半導体産業の重要性を認識していなかった人が少なからずいたのである。

対して、今に生きるわれわれはどうか。

一般人であっても、さすがに半導体=コンピュータチップがポテトチップよりも重要な物資であることぐらいは知っている。

これがなければコンピュータはただの箱も同然であり、また数十個のマイクロコンピュータを搭載している自動車が半導体なしでは1ミリも動かないことを、なんとなくではあるが理解している。

2021年からの半導体不足で各自動車メーカーの生産が停止したこともあり、こうした素人理解はさらに広く浸透した。

ただ、その理解もポテトチップとの比較止まりだ。

この半導体が「石油以上の戦略物資」であり、「21世紀のあらゆる競争の対象は半導体の支配という土台の上に成り立っている」といわれると、途端に理解が追いつかなくなる。そこまで重要なものだったの? と戸惑うばかりである。

しかし、現実世界においては、どうやらそれが真実であるらしい。

『半導体戦争』という物騒なタイトルのこの本は、約500ページにわたる濃密な記述で、半導体が世界最重要な物資となっている理由をしっかりと教えてくれる。

中国に近い台湾のTSMCが
世界の半導体の1/3超を製造

本書は、1960年前後から今日に至るまでの半導体の進化の過程と、それに伴う世界の変化を、携わった天才たちや企業、国の在りようを描きつつ記したドラマチックなビジネスノンフィクションだ。読めば読むほど、この世界で半導体がいかに重要な物資であるかがわかってくる。

内容を短く要約すると以下のようになる。

1958年にアメリカで発明された半導体は、のちにインテルの共同創業者であるゴードン・ムーア(2023年3月逝去)が予言した「集積回路の部品の数は年々2倍になる」という「ムーアの法則」どおりに進化した。当初、大きなチップに4個だけ搭載されたトランジスタは、今や極微少なチップに数百億個を搭載されるまでとなっている。

急速な半導体の進化は、さまざまなものを急速かつ高度にコンピュータ化していき、世界に大きな変化をもたらした。例えばミサイルは命中精度を劇的に高め、世界の軍事バランスを激変させた。例えばiPhoneに代表されるスマートフォンは、世界中の人々の通信・生活スタイルを大きく変えた。今後進展するAIと、それに伴う変化も、当然、進化した半導体が担うことになるだろう。

この半導体は莫大なマネーとパワーを生み出す。半導体なくして現在と将来の世界の経済、軍事、政治は語れなくなっている。その重要性はかつての石油以上。事実、アメリカと中国の覇権争いにおいては半導体に関する主導権争いが主要なものとなっている。

半導体をつくり出すためには複雑な工程と莫大な資金が必要なため、分業化が進んでいる。設計・開発分野では発明国アメリカの企業が依然としてイニシアチブを持っているが、製造分野では良質で安価な東アジアの国の企業がリードしている。なかでも台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の製造能力は飛び抜けており、1社で世界の半導体製造の1/3以上を担うまでになっている。

もし、このTSMCの半導体製造がストップしたら、どうなるか。世界のあらゆるものの動きが途端に止まってしまうだろう。例えば、中国が台湾に侵攻しTSMCを奪取したとしたら、アメリカだけでなく世界中が大混乱に陥ること必至だろう。そうならないよう(アメリカならびに同盟国は)極めて高いレベルの用心と準備をすることが重要である――。

半導体は、このように石油以上に重要な戦略物資なのである。そのことをわかりやすく教えてくれ、世界の見方を一変させてくれる本書は、今必読の1冊といえる。

● ● ●


なお、本書にはクルマならびに自動車業界への言及が極めて少ない。

目立ったところでは、半導体がいかに重要な物資かがよく理解できた終盤あたりで、やっと1ページほどの記述が出てくる程度だ。

とはいえ、その内容はかなり重い。
〈持続性や計算能力が、昔ながらの製品をデジタル機器へと変えてしまうことを証明している最高の実例が、イーロン・マスク創設の自動車会社、テスラだ。―略― あまり知られていないのは、同社が世界をリードする半導体設計会社である、という事実だ〉

〈自動車には、1970年代から単純な半導体が組み込まれていた。しかし、電力供給を管理する半導体が必要な電気自動車と、自動運転機能への需要の高まりは、一般的な自動車に使われる半導体の数とコストが劇的に増加する未来を予知している〉

イーロン・マスクのテスラは、いち早く電動化と自動運転化を進めているだけでなく、その大元まで押さえようとしている。日本の自動車メーカーが既存の半導体を組み込んだ形で電動化と自動運転化への対応に大わらわとなっているのとは大違いだ。

半導体の重要性がわかった身としては、このままだと彼我の差がさらに大きく開いてしまうという危機感を禁じ得ない。2025年までにTSMCが熊本に進出するとか、2027年には北海道で官民連携の半導体製造の拠点が動き出すなどの情報があるが、果たしてそれが功を奏するどうか……。今のところは、半導体でも頑張れニッポン、と根拠なく叫ぶよりほかないのである。

書評_半導体戦争_2

『半導体戦争 ~世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』
・2023年4月14日発行
・著者:クリス・ミラー
・訳者:千葉敏生
・発行:ダイヤモンド社
・価格:2,970円(税込)

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