ロータスクラブが運営するクルマとあなたを繋ぐ街「ロータスタウン」

みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

BookReview(34)『EVのリアル』―EV懐疑派も、ノルウェーのEV事情に接すればきっと変心する!

2022年10月12日更新

書評「EVのリアル」_1

著者の意識を変えた
欧州のリアルなEV事情

著者は日経新聞の記者。職業柄、最新の自動車市場の動向には明るいのだが、2017年までは「EVなんて普及するの?」と思っていた。

その認識が変わったのは、2017年から22年までドイツのフランクフルト支局に赴任し、欧州各地の「EVのリアル」を生で見聞きしたから。

著者は今では「(日本を含む世界各地で)EVは普及する」と確信するまでになっている。さらには「(モビリティにおける)脱炭素の最適解はEVである」と言い切る。

まさに「君子は豹変す」の典型である。本書には、著者の認識を根底から覆した欧州各地での刺激的なEV事情や欧州メーカーのEV戦略のあれこれが紹介されている。

ノルウェーのEV事情は
近未来の日本でも実現!?

著者の変節に最も影響を与えたのは、二度にわたるノルウェーの首都オスロでのEV事情の取材体験だった。

ノルウェーは1990年代からEV振興策を打ち出しており、オスロは早くから「世界のEV首都」と呼ばれていた。だが、最初の訪問時である2017年、街中では確かにEVの姿はよく見かけられたものの、まだまだエンジン搭載車が数多いという印象を受けた。

実際、2016年の車名別新車販売ランキングの上位は、1位がアウトランダーPHEV、2位がトヨタのRAV4といった具合で、ベスト10に入るピュアなEVはVWのe-ゴルフ(3位)、日産のリーフ(7位)、BMWのi3(8位)ぐらいだった。

ところが、4年後の2021年に再訪したところ、状況は大きく変わっていた。街中がEVだらけになっていたのである。

〈「音が違う」。オスロ市街で違和感に気がついた。「ブロロロ」というエンジン音があまり聞こえない。著者が初めて訪れた4年前もEVをよく見たが、今回はその比ではない。すれ違う車が5台続けてEVということも珍しくない〉

〈ノルウェー道路連盟(0FV)によると、17年のノルウェーの新車(乗用車)販売に占めるEV比率は16%だったが、21年は65%に達した。月によっては8割を超えるまでになっている〉

車名別新車販売ランキングでもこの変化は顕著。テスラのモデル3を筆頭に、トップ10の中に9台のピュアなEVが並ぶようになっていた。

たった4年の間に、いったい何があったのか。著者はノルウェーEV協会の上席顧問にインタビューして、急速な普及の理由を聞いている。

その内容を箇条書きにしてまとめると、こうなる。

①昔からノルウェーでは、購入税と付加価値税の免除がEV購入のインセンティブとなっていた。

②それに加えて、近年、航続距離の長い比較的低価格な車両が相次いで導入され出し、消費者の選択肢が広がった。

③さらに、幹線道路の急速充電ネットワークが完成し、どこでも充電できるという安心感が醸成された。

この三つは、もともとEV普及のために必要とされていたことで、当然の帰結といえる。だが、現実に普及している地においては、非常な説得力をもって聞く者の心に響いてくる。

これらの条件が揃えば、ノルウェー以外の国でも高い確率でEV普及は急速に進んでいくことだろう。

現在、日本でも、こうした条件は徐々にではあるが整いつつある。そう遠くない未来に、ノルウェーに近い状況を迎えるのは間違いない。それはカーボンニュートラルの視点でも歓迎すべきことといえる。

かつてEV懐疑派だった著者は、今、EV推進派としてそんなふうに考えているのである。

現時点で「EVなんて普及するの?」と疑っている人は、ぜひ一読を。「百聞は一見にしかず」を疑似体験することで、意識は相当変わるはずだ。

書評「EVのリアル」_2

『EVのリアル 先進地欧州が示す日本の近未来』
・2022年6月24日発行
・著者:深尾幸生
・発行:日経BP 日本経済新聞出版
・価格:1,870円(税込)

  • ロータスカードWeb入会
  • ロータスカードWeb入会
  • 店舗検索
  • 店舗検索
  • 楽ノリレンタカー
  • 楽ノリレンタカー

あわせて読みたい

  • ALL JAPAN EV-GP SERIES 2023 第3戦レポート(3)―次回第4戦、元チャンピオン地頭所光選手が電撃復帰か!?

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    ALL JAPAN EV-GP SERI…

    今戦はALLJAPANEV-GPSERIES2023のシリーズ前半を締めくくるレースとなっていたが、出走車両が8台にとどまった。もし、初の兄弟ワンツー…

    2023.07.06更新

  • 2017年の注目ニュース③ じつは自動運転車は完全に安全ではない!?〈前編〉

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    2017年の注目ニュース③ じつは自動運…

    ヒトは、自動運転車と聞くと「なんにもしなくても完全に安全に走るクルマ」とイメージする。たしかにそういうところはある。だが、じつはそれだけでは危うい。今回紹介する…

    2017.04.12更新

  • 『第11回オートモーティブワールド』ルポ(前編)「中国のEVは数はすごいけれども質はまだまだなんですよ」

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    『第11回オートモーティブワールド』ルポ…

    東京ビッグサイトで2019年1月16日から18日に開催された『第11回オートモーティブワールド』。この会場で、次世代自動車の分野で躍進が著しいといわれる中国の現…

    2019.02.12更新

  • Book Review④ 楽しくエコカーの基礎が学べる『エコカー技術の最前線』(後編)

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    Book Review④ 楽しくエコカー…

    ハイブリッド車やEVは5年でバッテリー交換も前編で挙げた、3つの視点に基づく記述を紹介していこう。まずはバイヤーズガイド的な記述例――。〈日本で圧倒的に人…

    2017.05.29更新

  • BookReview(25)『トヨタイムズ magazine 2020』 ―従業員思いの豊田章男社長は、EVが主体の電動化に異を唱える!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    BookReview(25)『トヨタイム…

    豊田社長を礼賛する一冊トヨタはWEB上で『トヨタイムズ』というPR媒体を展開している。この『トヨタイムズmagazine2020』はその雑誌版(ムック本版…

    2021.04.13更新

  • 【ルポ】東京理科大で開発が進む、超コンビニエンスな燃料電池車〈前編〉

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    【ルポ】東京理科大で開発が進む、超コンビ…

    コンビニエンスストアで水素の素が買えるようになる!?次世代エコカーの代表といえば電気自動車と燃料電池車だが、普及の可能性においては、いまのところ電気自動車の…

    2016.09.16更新

< 前のページへ戻る