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BookReview(52)『日本メーカー超進化論』―充電インフラが不十分にもかかわらずEV化が進むタイ。日本車の牙城は崩壊必至!?

2024年5月29日更新

BookReview_52_1

近ごろ、世界各所でEVの普及が鈍化している。逆に、HVやPHEVの売れ行きが好調だ。

これを受け、「やはりEVは時期尚早」「使い勝手がよく環境性能もいいHVとPHEVを選ぶのが合理的」「エネルギー事情や市場のニーズに見合った電動車の投入を決めるマルチパスウェイ路線が正しい」などの声が多く聞かれるようになっている。

それらは一面の真理をついている。だが、全面の真理ではないだろう。

現在、世界は間違いなくカーボンニュートラルへと向かっている。いずれ世界中でCO2を排出するガソリンエンジン搭載車がなくなるのは自明のこととなっている。それを考えれば、HVやPHEVの隆盛が一時的な揺り戻し現象に過ぎないとすぐに理解ができる。今後、EV普及が徐々にではあっても加速し続けていくことは明らかだ。実際、2026年前後をピークにハイブリッド車が減少に転じ、再びEV普及が加速するとの予想を立てる専門家は少なくない。

好調だからといっていつまでもHVやPHEVにこだわり続けると、近い将来、痛い目に遭う可能性が大きいのである。

タイを席巻しつつある中国EV

本書の著者も同じような考えを持っている。

この本は日本の製造業全般の衰退を嘆き、復活への提言を行う1冊なのだが、その中で大部を割いて日本の自動車メーカーのEV化への取り組みの遅さとそれによる悪影響に言及し、早く取り組みを強化しないと大変なことになると訴えている。

著者が自身の目で見てきたタイの現状報告はかなりショッキングだ。

元来、タイは日本車メーカーの一大製造拠点だった。タイ国内を走るクルマの多くも日本のエンジン車ならびにHV・PHEVであった。

ところが近年、中国メーカー、特にBYDとNETAによるEVの製造・販売面の躍進が著しくなっている。例えば、2023年12月の同国でのEV販売シェアは補助金の効果もあって20%と高くなっているが、そのほとんどを中国メーカーのEVが占めていた。日本メーカーのEVはベスト10にも入っていない。今後、中国メーカーがタイでのEV製造と販売を本格化させていけば、やがてタイが中国車メインの市場に変貌することは避けられない。

日本のメーカーは、なぜこうした劣勢の到来を指をくわえて眺めていたのか。おそらく、マルチパスウェイの考えに基づき、充電インフラの整っていないタイをエンジン車ならびにHV・PHEV市場と見て、EV普及は当分ないと捉えていたためだろう。そんな市場に、中国のメーカーがまさか本気で乗り出すとは思ってもみなかったに違いない。著者にいわせれば、日本メーカーはEVに関しては鈍感過ぎる状態にあったのである。

〈この章で、どうしてタイの現況を扱ったかといえば、EV市場の動向を知るにはうってつけだということがまず一点です。もう一点は日本の製造業の足下がいかに危うくなっているかがわかりやすいということ。日本にとって中国企業が大変な脅威になっているにもかかわらず、そのことに対して日本企業が鈍感すぎることがさらに問題を大きくしている……。そういう構図がハッキリと示されているのがタイだからです。日本の自動車業界だけでなく、製造業全体、そして政府や経済界が切迫感を醸成していくことが喫緊の課題になっています〉

現時点のHV、PHEV隆盛は日本メーカーにとっては甘いうたかたの夢。早く目を覚まして厳しい現実を直視し、しっかり対峙・対応していかなくてはならないのである。

BookReview_52_2

『日本メーカー超進化論 ~デジタル統合で製造業は生まれ変わる』
・2024年4月1日発行
・著者:ものづくり太郎
・発行:KADOKAWA
・価格:1,760円(税込)

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