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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2020年12月10日更新
白煙が立ちこめるも
スムーズなスタート
さて、決戦のときである。
午後3時15分、富士スピードウェイを11周50㎞にわたって競い合う決勝レースが始まった。
グリッド上に並んだ12台すべてが、レッドランプがオールクリアになった瞬間に凄まじい加速をしだした。そして、ひときわ速い地頭所選手、八代選手、TAKAさん選手、千葉栄二選手が駆る4台のテスラモデル3が、グリッドでの順位のまま第一コーナーに一陣の風のように飛び込んでいく。わずか数秒の出来事だったが、実にスムーズかつ美しいスタートとなった。
が、ふと後方に目をやると、コース上にもうもうと白い煙が立ちこめている。一瞬「すわ、マシントラブルか」「もしや赤旗中断か」と思った。しかし、さにあらず。8番グリッドで出走の、小さな車体に大きなモーターを積んだコンバートEVのミラ(ゼッケン28番/ウエルマー)が、スタート時にアクセルを踏みすぎてタイヤを激しく空転させて大量のスモークを発生させただけだった。
まるでドラッグレースのような一幕。モーターは0回転からすぐに最大トルクが発生させられるため、こんな刺激的なシーンが往々にして起こるのである。
レースは序盤から
ドキドキの展開に
注目の先頭集団によるレースは、予想に反してスタート後すぐに大きく動きだした。
4位の千葉選手が、いきなり1周目の途中でアクセルを全開にして3位のTAKAさんをパスしたのである。これは、おそらく決勝前に地頭所選手が言っていたチームとしてレースをかきまわす作戦の決行。自分が上位にいくというよりは、地頭所選手の優勝を脅かす者を捨て身でブロックするという意図がうかがえた。
こうなると、千葉選手はそのまま2位の八代選手をも追い抜きにいくに違いないと思われた。
だが、そうはならなかった。千葉選手がアクセルを緩めたわけではない。逆に八代選手が攻めた走りをして、抜けない状況をつくったのだ。
それどころか、八代選手はその速さをもってトップの地頭所選手にぐいぐいと迫り始めた。そして、遂には第3セクターを終えるあたりでオーバーテイク。なんと、2周目に入る直前に八代選手のマシンはトップに立ったのである。
「ええええ、八代選手、しばらくは先頭集団に付いていって様子を見るといってたのに、ぜんぜん話がちがうよ」
もしかすると、千葉選手の追い上げを見て作戦を変えたのかのかも知れない。あるいは決勝の場で本気のレース魂に火が付いたのかも知れない。そこらへんはよくわからない。とにかく八代選手の1周目から2周目にかけての走りは見惚れるほどにすごかった。
このままの速さで大幅にリードをつくることができれば、後半にバッテリーの熱ダレによるスピードダウンの不安はあるにせよ、初参戦にして優勝ということも十分にあり得る。われわれは、その初っぱなからの意外な展開に予定より早くハラハラドキドキし始めたのであった。
頭も電池もクールに保った
地頭所選手が圧巻の走り
これは後で聞いたことだが、地頭所選手も1周目に八代選手にオーバーテイクされたときは「あまりの速さに、正直言ってかなり焦った」のだそうだ。
だが、地頭所選手はぐっと堪えた。「いかに優れたテスラモデル3でも、ノーマルなままのマシンなら、あそこまでアクセルを踏み込んで走れば、早い時期にバッテリーが熱ダレしてスピードダウンするに違いない」と冷静に見て取り、しばらくはつかず離れずで後を追うことにしたのだ。
その判断は正しかった。
八代選手は、3周目の途中からそれまでの勢いを失っていく。これも後から聞いた話だが、八代選手のマシンは「バッテリーの温度の状態を色で示すディスプレイが高温を示す赤色となり、アクセルを踏んでもスピードが思うようにでなくなった」のであった。レース前に聞き及んでいたサーキットでのバッテリーの熱マネジメントの難しさの陥穽(かんせい)にはまったのである。
地頭所選手は、その八代選手のわずかな遅れを見逃さなかった。4周目に入るストレートでこれまでのスピードを少し上回る加速をして八代選手のマシンをかわし、再びトップに立ったのである。
その後の地頭所選手の走りは圧巻だった。TAISANチーム特製のバッテリー冷却装置が効いていたこともあるだろう、スピードをあまり抑える気配もなく、周回遅れのマシンをかわし、後続をぐんぐんと引き離していった。あのクールで穏やかな表情が、頬を赤く染め目を剥き歯をグッと食いしばって鬼の形相になっているのが目に浮かぶようだった。
一方、逆転チャンピオンを狙っていたTAKAさん選手は……5周目を終えるあたりで前を走っていた千葉栄二選手のマシンをパスし、さらに6周目を終えるあたりで2位の八代選手のマシンをも追い抜いてはいた。だが、時すでに遅し。その頃には地頭所選手は完全なる独走態勢に入っており、何かのアクシデントでリタイアしない限りは逆転が難しい形勢となっていた。TAKAさん選手はレース後に「前の二人を抜くのに手間取ってしまい、地頭所くんを捕まえ切れなかった」と悔しそうに遅れた要因を語っている。
結局、地頭所選手の圧倒的な速さは一向に衰えを見せなかった。最終的には2位のTAKAさん選手に18秒以上、3位の八代選手に25秒以上もの差をつけて優勝チェッカーを受けることとなった。この瞬間、地頭所選手が熱望していた、有終の美を飾るカタチでの2020年の年間チャンピオンならびに2018年から続く3連覇が決まったのである。
おめでとう、地頭所光選手!
2020全日本EVグランプリシリーズ第7戦レポート
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②レーサー劇場。TAKAさん選手がサーキットの中心でEVレース愛を叫んだ!
③有終の美。地頭所選手が鬼の走りで前人未踏の3連覇を達成した!
④EVルネッサンス。JEVRAが最高1,680万円の“賞金レース”開催に動き出した!
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