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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2023年12月26日更新
世界的なEVシフトの急速な進行は、環境意識よりも新産業を育成しようとの意志が強く働いている結果だ――。
日経BPのロンドン支局長である著者は、EUの公的機関や、フォルクスワーゲンをはじめとした欧州の各自動車メーカー、さらには米国のテスラ、中国のBYDなどを取材する中で、こうした実感を得た。
事実、先進各国・地域は厳しいエンジン車規制を発動しようとしている。それを前提に各メーカーはEV工場の建設やバッテリー開発、ソフトウェア開発などに数千億円から数兆円の投資を行い、積極的にEVの開発・製造・販売に取り組みはじめている。
これは、巨大な規模の産業化への取り組みとその既成事実の積み重ねであり、政策においてもビジネスにおいても、後戻りできない状況が生じつつある。かつて日本国内で「海外のEVシフトは日本が得意とするハイブリッド車をつぶそうとする公的機関、メーカーの陰謀である」との言説が駆け巡ったが、そうした議論はほとんど意味をなさなくなってきているのである。
そんな中、著者が心配するのは日本のトヨタの行く末だ。
マルチパスウェイ路線はいいにしても、その一角を占めるEVの分野がいまだに不完全なまま。本気で取り組めばすぐに他社に追いつけると考えている節があるが、これから2~3年後に高性能なEVを出したところで、それが売れる保証はない。エンジン車の製造を続ける傍ら何年も前からEV化に本気で取り組んでいるあのフォルクスワーゲンでさえ苦戦を強いられているのだ。
そうした事実、そして世界がこれほどまでにEVに乗り出している現状を考えれば、慎重に事を進める時間はもうないはず。今は、王者ではなくチャレンジャーとして、もっとがむしゃらにEVという新しい産業の育成に取り組むべきだろう……。
本書で世界のEVシフトの現状を知った読者も、おのずとこの意見に深くうなずかされるのではないか。
ちなみに、本書が書き上げられた7月以降、イギリスが内燃機関車の新車販売の禁止年を2030年から2035年に延期することを決めたり、ドイツのフォルクスワーゲンがEV工場の人員削減に動いたり、アメリカのGMがホンダとのEV共同開発を撤回したりといった、反EVシフト的な“事件”が相次いだ。
しかし、著者にとってこれらの事件の発生はおそらく想定内。政策やビジネスによくある一時的な揺り戻し現象ぐらいに映っていたに違いない。著者には、世界のEVシフト=産業化が、それほどまでに動かしがたい大きな潮流という実感があるのだ。
百聞は一見に如かずというが、この本はまさにそれを体現した1冊。世界のEVシフトの現場を渡り歩いた著者のリアルな報告と意見は傾聴に値する。
『なぜ世界はEVを選ぶのか 最強トヨタへの警鐘』
・2023年9月4日発行
・著者:大西孝弘
・発行:日経BP
・価格:1,980円(税込)
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