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BookReview(28)『MaaS戦記』―ITリテラシーがない人でもMaaSビジネスに取り組める!?

2021年7月13日更新

MaaS戦記

利用者目線で語るMaaSは
簡単そうだけど……

MaaS(マース)は、Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の略。直訳すると「サービスとしての移動」である。

その概念について、本書にはこう書かれている。

〈スマートフォン等で、それぞれの需要や目的地に応じて、最適な交通手段が提示される。その際の乗り換え経路や料金が表示されるほか、予約やチケット購入もできるサービス〉

端的に言えば、スマートフォンのアプリもしくはウェブひとつでシームレスに移動できるようになる、ということ。そう難しい話ではない。

ただし、これは一般人、すなわちサービスを利用する側から見た印象だ。ビジネスとしてサービスを提供する立場から見たMaaSは、そう簡単に語れるものではないようだ。

サービスを提供するまでに、とにかくやらなくてはならないことが山のようにある。

まず、交通案内および予約や決済ができる信頼のおける専用アプリ(もしくはウェブ)をつくらなければならない。そして、資本が異なる交通関連企業各社に参加・協力を求める必要がある。場合によっては、利用者の目的地にある宿泊施設やイベント会場などの予約・決済もできるようにしなくてはいけない。さらに、たくさんの人に使ってもらえるようにするための魅力的な特典を付加することが求められる……などなど。

どれも実現にあたって一筋縄ではいかないことばかり。それらの課題が同時に押し寄せるのである。

MaaS立ち上げまでの
生々しいノンフィクション

本書は、大手私鉄の東急に在籍する著者が、ITリテラシーがほとんどないにもかかわらず、前述した諸々の課題を伴う観光型MaaS「Izuko」の実証実験を伊豆半島で実施するまでの顛末を綴った“戦記”。2018年春からコロナ禍がはじまる2020年初頭までの奮闘の様子が、300ページ超の大部に展開される。

一応、MaaSにまつわるビジネス書ではある。だが、内容はMaaS関連の類書とは大きく異なっている。

とにかく実践的なのだ。これまでのMaaS関連書籍の多くは観念論もしくは海外の事例紹介に終始しており、国内でMaaSをビジネスにしようとする人にとって、あまり参考にならなかった。ところが本書は、著者自身による取り組みが時系列で微に入り細に入り描かれている。「ああ、そこはそんなに簡単な方法で済むんだ」「やっぱりそういう折衝が大変なんだ」といった具体的な理解が得られ、非常に役立つ内容となっているのである。

なおかつ面白い。プロジェクトを進める過程での部下との軋轢や、協力を求めたバス会社との交渉決裂のシーンなどが実名入りで描かれているうえ、著者の反発心や悪感情まで露わにされている。「そこまで書いて大丈夫なの?」と心配になるくらいに生々しいドキュメンタリーとなっており、説得力と物語性を求める読者の心を大いに満足させてくれるのだ。

実は、著者は会社員でありながら、ミズノスポーツライター賞最優秀賞(第25回、2014年度)を受賞した実績のある書き手。その筆力を遺憾なく発揮して、ビジネスとしてのMaaSのノウハウを提供するだけでなく、純粋に読み物としても楽しめる一冊に仕上げているのである。

システムをデジタル化しても
人間の血が通わないとダメ

ところで、紆余曲折を経た“戦記”の結末はどうなったのか。

「スカッとするような大勝利ではないものの、ほぼ勝利をつかんだ」とだけ書いておこう。詳しくは本書を手に取って確かめていただくとして、ここでは最後まで読んでわかったMaaSの真実に触れておきたい。

それは、ビジネスとしてのMaaSを成功に導くには、意外にアナログな要素も不可欠だということ。システム全体をデジタル化するとしても、目視による確認作業や手作業はもちろん、人間同士の思いやりといった血が通ったアナログな部分がなければ、スムースな運営はできないし、利用者も満足できないものとなる可能性が大きいのである。終章で著者は次のように書いている。

〈私たちは、アナログとデジタルの強みを、最高の形で組み合わせることで、利用者にとっても快適で、事業者の省力化も図れるサービス実現を目指すべきではないだろうか〉

「ビジネスとしてのMaaSに関わりたいけれど、自分にはITリテラシーがないから無理かもしれない」と思っている読者は、これまで培ってきたアナログなビジネスの知見をベースに、デジタル主体の新しい交通ビジネスの実現に向けて勇気を出して駆け出してみてはどうだろう。本書はきっといい伴走者になってくれるはずだ。

MaaS戦記_2

『MaaS戦記 ~伊豆に未来の街を創る』
・2020年7月21日発行
・著者:森田創
・発行:講談社
・価格:1870円(税込)

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