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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2020年8月18日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
就職してから仕事一筋に打ち込み、同僚の誰よりも早く部長になった独身のTさん(37歳・会社員)は、自分へのご褒美として普段使いのクルマとは別にキャンピングカーを手に入れて、週末アウトドアラーになることを決めた。
どうしていきなりアウトドアラーなのかというと、一つは、出世競争が一段落したので、豊かな自然に触れてリフレッシュする機会を増やし、新たなステップアップのための活力にしようという余裕綽々の考えがあったから。もう一つは、これまで出逢ってきた妙齢の女子たちに「仕事一筋なんて、つまんない男だわ」と言われて袖にされることたびたびで、だったら仕事のかたわら趣味も充実させた男になっていいパートナーを見つけてやろうじゃないかという下心、いや野心が湧き起こったからだった。そこには、今はキャンプが流行していて野山には素敵な女子が溢れているとかで、もしかしたらいい出会いが得られるかも知れないという一石二鳥の計算も働いていた。Tさんは、何事も一旦方向性を決めたらそれに沿って効率的に動ける、やはりできる男なのであった。
キャンピングカーの入手の仕方も戦略的かつ効率的だった。まず新車の国産のバンを約300万円で購入し、それをそのまま住宅リフォーム会社に持ち込んでキャンピングカー仕様に改造するという方法をとった。そこの社長が2級整備士資格をもっているうえにキャンピングカーライフを趣味にしていることから、会社はサイドビジネスとしてオーダーメイドの改造を年に数台請け負っていて、界隈ではそのクオリティとコスパがすこぶるいいとの評判が立っていた。Tさんは、ほかのキャンピングカーならびにアウトドアラーを出し抜くにはここにお願いするのが一番と考え、約200万円分(装備費約100万円、工賃約100万円)の改造をオーダーしたのである。
実際、2ヵ月間ほどかけて造られたキャンピングカーの出来栄えはすばらしかった。木目調の落ち着いたインテリアのなかに、2人用ベッドになるソファや、電子レンジ・ホットプレート・冷蔵庫が付いたミニキッチン、据付テーブルなどが完備され、どれも使いやすさと快適性を高い次元で実現させていた。もちろん、運転に影響する重量バランスについても申し分のない配慮がなされていた。もし、専門ディーラーで完成品を購入したとすれば、おそらく総額500万円では到底足りなかったであろうと思われた。
「いやあ、社長のところにお願いしてよかったよ。こんどの連休は早速これでキャンプデビューすることにするよ」
「喜んでいただけて何よりです。どうかアウトドアライフを楽しんでください。そして、どうかいいパートナーも見つけてください(笑)」
「あははは、まあ、このキャンピングカーなら、どっちも何とかなりそうな気がするな。近いうちきっといい報告ができると思うよ」
双方よしの談笑しばし。Tさんは笑顔のままクルマを受け取って帰る支度を始めた。と、クルマに乗り込むと同時に社長が「あ、そうそうTさん、もう自動車保険には入っているとは思うけど、このキャンピングカー用の車両保険も忘れずに契約しておいたほうがいいですよ」とマジメな顔をして忠告してきた。Tさんは一瞬「ん?」と思ったのだったが、それに対してもやはり笑顔のままで「ああ、それは大丈夫」との答えを返して、何事もなかったようにクルマを発車させた。ワゴンの新車を約300万円で購入したときに、すでにネット保険で車両保険も付けた保険契約を済ませていたので、まったく問題がないと考えていたのだった。
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