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BookReview⑬『2019年版 間違いだらけのクルマ選び』(前編)‐「愛」をもって未来のクルマを語ろう!

2020年1月17日更新

間違いだらけ・・・トップweb

クールな経済分析だけでは
クルマの本質はわからない

電気自動車(EV)や自動運転車といった未来のクルマの存在感が大きくなるにつれて、多くのメディアが今後のクルマ社会ならびに自動車業界の変化について言及するようになった。

中でも、ビジネス系メディアの発信は目立つ。CASE(Connected=コネクテッド、Autonomous=自動運転、Shared&Services=シェアリング、Electric=電動化)や、MaaS(Mobility as a Service=サービスとしてのモビリティ)といったキーワードを使いながら、盛んに近未来予想図を述べ立ててくる。

「世界的にEV化が進行している。近い将来、日本においても市場からエンジン車は消え、EVが席巻することになるだろう……」

「部品点数が少ないEVはつくりやすいので、さまざまな業態の企業がクルマを製造・販売するようになる。それは既存の自動車メーカーにとって大きな脅威となるだろう……」

「自動運転車は先行して実験を進めているグーグルをはじめとするIT関連企業が根幹技術を押さえる可能性が高い。既存の自動車メーカーは苦戦を強いられるかも知れない……」

「クルマは所有ではなくシェアによる使用が多くなっていく。それが進めば、いま以上にクルマの販売台数は減っていくだろう……」

「クルマがネットに繋がるコネクテッドカーの時代には、新しいサービスの数々が生まれてくる。自動車メーカーは、それに関わる業務にチカラを入れなければ生き残れないだろう……」etc.

どれも経済的視点でのしっかりとした分析をもとにして書かれているため、「なるほど」と深く納得させられる。だが、これまで魅力的と映っていた自分のカーライフが一気に霧散するような話でもあるため、多少のガッカリ感が否めないのも事実だったりする。

実は、今回取り上げる『2019年版 間違いだらけのクルマ選び』の著者である島下泰久氏は、そうしたビジネス系のクールな発信内容に苛立っている。

工業製品としての自動車、商品としての自動車、その経済効率性については語られているのかもしれないが、少なくともそこには、百何十年にも渡って幾多の人々が、各々のかたちで愛情を注ぎ、故にここまで存在してきたクルマというものの本質については、何も語られていないと言っていいと思う。(『2019年版 間違いだらけのクルマ選び』より)

本書の約3分の1を占めるエッセイのいくつかでは、こうした熱い思いを胸に、自動車評論家である著者ならではの「愛」が溢れた未来のクルマについての考察が試みられている。

テスラのEVだけでなく
既存メーカーのEVもすごい

たとえば、「プレミアムEV戦争がいよいよ本格化する」という一篇では、試乗と取材を重ねたうえでの「愛」ある考察が展開されている。

2012年に新興のメーカーであるテスラのモデルSというEVに試乗した著者は、そのすばらしい加速フィールと先進感に衝撃を受けて、プレミアムカーの新しい時代の到来を予感した。そして、その予感はズバリと当たり、モデルSは瞬く間に、当時、エンジン車中心だったラグジュアリーカー市場の一角に食い込んでいった。

テスラ モデルS

テスラ モデルS



テスラ_S_2_web

疾走するモデルS



最近、それに危機感を覚えたメルセデスベンツ、BMW、アウディといったドイツ系メーカー、そしてジャガーなどが、プレミアムEVを立てつづけに発表している。しかし、いまやテスラもモデルXという、より速く、航続距離も長いEVを出しており、性能数値で比べれば、既存メーカーのEVはどうしても見劣りがしてしまう。ビジネス系の記者なら、おそらくあっさりとテスラに軍配を上げてしまうところだろう。

著者も「大丈夫か? 」と一瞬危惧する。が、地道に各メーカーの開発陣にインタビューしたり、試乗を繰り返したりして、異なる見解の糸口を見いだしていく。
アウディの開発者が力説していたのはコンポーネンツの冷却についての話である。--中略-- これでもかというぐらいの冷却サーキットが組まれているのは高い動力性能を継続的に発揮するため。確かにテスラ車はじめ今までのEVでは、全開加速を数度繰り返すと、あからさまに勢いが衰えてくるが、e-tronでは何度試みようと加速が鈍ることはないと彼らは言うのである。(『2019年版 間違いだらけのクルマ選び』より)

EVはエンジン車と比べると部品点数が少なく、既存のメーカーでなくとも容易に製造・販売ができるといわれている。テスラがその先駆けであり代表だ。

だが、自らのクルマづくりに誇りをもつ既存のメーカーは、エンジン車同様に細部の徹底的なつくりこみによってEVの完成度を高め、テスラや他メーカーとの差別化を図ろうとがんばっている。

であれば、いくらテスラのEVの性能数値がすごいからといっても、カンタンにどちらが優勢かの軍配を上げることはできないだろう。実際のカーライフにおいては、たとえば冷却にまで目を配った既存メーカーのEVの方がいい走りをもたらすことは大いにあり得るからだ――。

深いクルマ愛なくしては、決して見いだせない結論といえる。

未来のクルマを考えるとき
実は楽観論が足りていない

「シェアリングでクルマ業界は拡大するかも」という一篇では、著者のクルマ愛あるいはクルマ業界愛が強すぎるせいか、度が過ぎるほどの楽観論が展開されている。

そもそもクルマは安くない商品だ。だから、そうカンタンには買えない。買えたとしても、通勤に使用するならともかく、休日にしか乗らない場合は、コスト面において膨大なムダが発生することになる。であれば、個人で所有するのではなく、シェアリングの方が効率の良い使い方といえる。日本ではまだまだ馴染みが薄い利用形態だが、今後、このシェアリングは確実に増えていくものと考えられる。

そうなったとき、自動車業界はどうなるのか? ビジネス系の記者なら、きっとこういう。

「クルマの販売台数は激減する。それにともなって、タイヤ、オイルなどのパーツは売れなくなり、整備業や保険業も打撃を受け、ついでに駐車場経営も厳しくなっていく」

しかし、著者は、「果たして本当にそうだろうか? いや、決して悪い話ばかりじゃないぞと私は考えている」と反論する。
(たとえば)個人所有車のシェアリングの拡大は、クルマの稼働率を高めることになる。--中略-- 稼働率を50%にまで引き上げられたら、理屈としてはクルマの数は10分の1で済む。これはすごいインパクトである。しかしながら、それは必ずしも自動車市場を10分の1に縮小させる話ではないのだ。もし、そうなればクルマは始動と停止を今の10倍繰り返すことになり、乱暴に計算すれば走行距離は10倍になる。つまり、クルマの数は10分の1になっても、整備や消耗品の交換時期は10倍のペースで訪れ、おそらく買い替えサイクルは10分の1の短さになる。つまりクルマの販売台数は変わらないことになる。(『2019年版 間違いだらけのクルマ選び』より)

この論、ビジネス系記者からは荒唐無稽との誹りを受けかねないところはある。だが、長くクルマに関わってきた人たちからすると「なるほど」と思わせるところもあって、否定もし切れない。もっというなら、希望の光が微かに感じられたりもする。

さて、気分を落ち込ませるビジネス系の悲観論、希望が感じられるクルマ愛に溢れた楽観論、いったいどっちの論に耳を傾ければいいのだろうか?

はっきりとした答えは出せない。ただ、一読者としては、いまの日本ではビジネス系メディアの悲観論ばかりが幅を効かせているきらいがあるので、こうしたクルマ愛をもって展開される楽観論がもっとあって然るべきかも知れないとは思う。著者がいうとおり、経済効率だけでクルマは語れないのだから。

悲観論で用心しつつ、楽観論をもって明るく未来を迎える。そんな絶妙なバランスのなかで日本のクルマ業界が存在していけば、きっとわれわれのカーライフは、けっこうゆたかで楽しいままに進んでいくような気がする。そう、ほんの少しであっても、クルマにはやっぱり「愛」は必要なのだ。(文:みらいのくるま取材班)

『2019年版 間違いだらけのクルマ選び』(前編)‐「愛」をもって未来のクルマを語ろう!

『2019年版 間違いだらけのクルマ選び』(後編)‐ジムニーとアウトランダーPHEVに太鼓判!

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