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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2019年12月5日更新
電気カート(ERK)やコンバートEVでレースに挑む人たちの中には、エンジンが載ったマシンでもレースに参戦しているという人もいる。彼らの胸中には、「EVは好きだけれど、エンジン車も好き」という思いもある。
ただ、EVでの参戦と勝利を重ねていくうちに、彼らはEV愛の割合をどんどんと高めていくようだ。この日、日本EVフェスティバルの目玉レースである〈ERK30分ディスタンスチャレンジ〉と〈コンバートEV1時間ディスタンスチャレンジ〉においてそれぞれ優勝を果たした若者たちもそうだった。
〈ERK30分ディスタンスチャレンジ〉
優勝したチョコブランカさん&美咲さん
「細やかな女性はEVレースに向いている」
〈ERK30分ディスタンスチャレンジ〉のERK-1クラス(48ボルトの鉛電池搭載部門)に出場したEnersys Feat.女子カート部チームのチョコブランカさん(写真左)と美咲さんは、昨年に続いてODYSSEY JKB ERKを駆って優勝を果たし、二連覇をなし遂げた。
しかも、よりパワーと安定性があるERK-2クラス(72ボルトの鉛電池搭載部門)とERK-リチウムイオン電池クラスの多数のマシンを抑える形でのチェッカー。その勝利は、〈ERK30分ディスタンスチャレンジ〉における総合優勝的な色合いまで帯びていた。
まず彼女たちに勝因を聞いてみた。するとこんな優等生的な答えが返ってきた。
「戦略的なドライバー交代、迅速なピット作業、バッテリーに負担をかけない走り、この三つが勝因として挙げられます。つまり、チーム全体の動きがうまくいったからこその勝利だと思っています」
しかし、いろいろと質問を重ねていくうち、聞きたかった本音も飛び出てきた。特に興味深かったのは以下のような発言だ。
「実は、女性ドライバーって、EVレースに向いている気がするんですよ。どうしてかというと、適切なバッテリーの残量調整をはじめとして、いろいろなことに気を遣いながらの細やかなドライビングができるから。今回、ガンガン速く走るたくさんの男性ドライバーたちに勝てたのは、その特性がしっかりと発揮できたお陰なんじゃないでしょうか」
では、EVマシンで勝利を重ねてきた二人のEV愛はどれくらい高まってきているか? 最後にそこのことを尋ねてみたところ、彼女たちは次のような堂々たる発言を聞かせてくれた。
「EVマシンにはEVマシンの良さがあって、エンジンマシンにはエンジンマシンの良さがあるので、どっちがいいとはいえません。ただ、環境にいいイメージがあるEVが、今後のモータースポーツ界に新しいレースの広がりを生んでくれるのは間違いありません。そうなると私たち女性が参戦でき、勝利できる可能性も増えていくわけで、それはすごく嬉しいことだと思っています。EVには、そういったところにすごく大きな期待を寄せています。だから、もしそれがEV愛だとすれば、その愛は相当に高まってきているといえますね」
われわれ取材班の頭の中には、静かでクリーンなサーキット上に麗しくも強い女性ドライバーたちが走り、しのぎを削り合っているシーンが思い浮かんできた。新しい時代のレース風景として、それはなかなかに魅力的なものに思えた。
〈コンバートEV1時間ディスタンスチャレンジ〉
優勝した木村龍祐(きむら りゅうすけ)さん&地頭所光(ぢどうしょ ひかる)さん
「勇気と頭脳がEVレーサーの条件」
千葉泰常監督(写真中央)が率いるTeam TAISAN CTSは〈コンバートEV1時間ディスタンスチャレンジ〉における強豪チームだ。ポルシェ916をEVにコンバートしたTAISAN PORSCHE 916で、今回も優勝を果たし、四連覇を達成した。
そのドライバーを務めた四名のうちの二名は10代と20代の若者だった。木村龍祐(きむら りゅうすけ)さん〔19歳、写真左〕と地頭所光(ぢどうしょ ひかる)さん〔23歳〕。なんと二人はプロのレーサーを目指しているとのことで、地頭所さんは日本電気自動車レース協会が主催する全日本EVグランプリの2019シリーズで、最終戦を前にしてチャンピオンを決めるほどの実力者だった。木村さんもその時点で2位につけていた。どうりで速いわけだ。
約15分間の彼らへのインタビューは、非常に刺激的かつ興味深いものとなった。
――勝利のポイントは?
木村「電池をもたせるためにアクセルに気を遣って走ったのがよかったです。それと、極力ブレーキを踏まずに、回生ブレーキによって電池を充電するよう心がけたことも効きました」
地頭所「あと、高めのギアで回転数を抑え、なるべく速い速度でエコな走りができたのも勝因の一つですね」
――ご存じかどうかわからないけれど、昔のF1界に荒法師の異名をとるナイジェル・マンセルという常にアグレッシブにアクセル全開で走るドライバーがいましたが、ああいうのはダメなんですね。
木村「ナイジェル・マンセル、知ってます。はい、ああいう走りだとなかなか勝てないと思います(笑)」
地頭所「レースだから、もちろんアグレッシブさは重要なんですけど、EVレースの場合は同時にクレバーな操作もできないとダメなんですよ。つまり、EV時代のレーサーはホットな勇気とクールな頭脳の両方を駆使したドライビングが求められているということができますね」
――ホットな勇気とクールな頭脳で勝つ、ですか。そう聞くと、優勝したあなたがた二人がものすごくカッコよく見えてきました。
木村・地頭所「あははは。ありがとうございます」
――お二人ともプロレーサーを目指しているとのことですが、それはエンジンを積んだマシンで走るプロですか? それともEVマシンを駆るプロ?
木村「エンジンを載せたマシンもよくドライビングしますけど、僕がはじめて四輪の公式レースに出場したのがEVレースだったので、もうEVマシンに愛着が湧いてきちゃってまして……。だからどちらかといえば主にEVマシンを操るプロレーサーになりたいですね」
地頭所「僕も去年の全日本EVグランプリに出場したのが初レース。そして去年、今年と続けてシリーズチャンピオンにもなれた。そんな縁とプライドもあって、EVレーサー1本でプロになれたらいいなあって思うようになっています」
――では、EVのプロレーサーとしての夢は?
木村「フォーミュラーEのマシンを走らせるのが究極の夢なんですが、まずは2020年から始まる電動ツーリングカー選手権(ETCR)に出場できるようになりたいです」
地頭所「僕もまったく同じ。で、もしなれたら、これまで培ってきたEV独自の走り方を駆使してライバルたちに大きく差をつけていくつもりでいます(笑)」
――ちなみに、EVレースに参戦していて、自分は環境にいいレースをしているんだという自覚はありますか?
地頭所「ちょっと前までエンジンが付いたカートを走らせてCO₂を出しまくっていたので、あまりえらそうなことは言えないんですけど、いまは単にレースに勝つことだけではなくて、そういう環境のことも意識できるようになりました。なにしろ、さっきのETCRもそうなんですが、レース界自体が環境のことを考えて急激にEVにシフトしていますし、イメージを重視するスポンサーもそこに集中し始めています。プロレーサーを目指す僕らとしても、そうした動きにともなった意識改革は非常に重要なことだと思っています」
――最後にお聞きします。これからどんどん生まれてくるであろうEVレースは、観ている人にとって面白いものになりそうですか?
木村「EVは音が出ないので、一見、あまり速くないんじゃないかって思うところがあるみたいです。でも、実はガソリン車よりも加速性能があってものすごくて速い。スピード感という点での魅力はまったく問題はないですね。それと、最初にも言いましたが、勝つためには単純に速さだけじゃなくて、バッテリーのマネジメントとかの技術や戦略も大いに絡んでくるわけで、そういうことを知って観ていただくとかなり深く楽しめるようになると思います。あとは……ロータスタウンさんとか、メディアの皆さんがどんどんEVレースを取り上げて盛りあげてくれるようになれば、さらに面白さは増していくんじゃないでしょうか(笑)」
――確かに。がんばります(笑)。
知らないうちに、EVに特化した若きプロレーサーが生まれようとする時代になっていた。驚くとともに、人気低迷気味と言われるモータースポーツ界に新しい希望の光が射す瞬間を見ているような、そんな清々しい気持ちにもなれた。これからのEVレースの動向、そして二人の活躍に注目していきたい。
『第25回日本EVフェスティバル』ルポ
① 「若い人のために」伝説のEVフォーミュラカーが復活ラン!
② 青年はEVマシンを駆るプロレーサーの夢を見る!
③ 高校生は社会貢献できるEVが超クールだと感じる!
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