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2020年2月6日更新
日本においてMaaSは、どのように実現するのか。後編では、『第12回オートモーティブワールド』(2020年1月15日~17日、東京ビッグサイトにて開催)に出展していた日本マイクロソフトの提案にフォーカスする。
MaaSには複数のプラットフォームが必要
『オートモーティブワールド』のセミナーに登壇したフィンランドのサンポ・ヒータネン氏(MaaS Global Ltd.創業者・CEO)は、日本におけるMaaS実現の可能性の大きさを語る中で、MaaSビジネスがどのようなカタチで進展していくのかについても言及している。
「MaaSのビジネスは、(これまでのITビジネスのように)一つのプラットフォームが独占するといったカタチをとらない」
「さまざまなアプリ(プラットフォーム)が、さまざまな交通機関(ならびにサービス)を繋げ、さまざまなユーザーに移動の自由さ便利さを提供するカタチで進展していく……」
そもそも人の移動には、日常生活のための移動、仕事目的の移動、観光目的の移動といろいろある(しかも、それぞれの移動ごとのニーズも多様)。それらすべてをシームレスでスムーズなものにするためには、さまざまな企業によるさまざまなアプリ(プラットフォーム)が必要となってくる。だからMaaSビジネスは、複数のアプリ(プラットフォーム)が共存し、連係しながら進んでいくものになるのだという。
実際に今、日本では、国の実証実験や助成プログラムに参加するなどして、さまざまな企業が多様なMaaSアプリ(プラットフォーム)の開発に取り組み始めているようだ。
アプリの名前でMaaS化が進むかも
今回の『オートモーティブワールド』に出展していた日本マイクロソフトは、そうした多様なMaaSアプリが生まれる流れを汲み、「Driving the future of Mobility」と題してMaaS実現のための提案展示を行っていた。
ただし、それは自社が開発したMaaSアプリ(プラットフォーム)の展示ではなかった。日本マイクロソフトがMaaSアプリの開発と運営を試みるさまざまな企業のサポートが行えるポテンシャルがあることを示す展示であった。
すなわち、日本マイクロソフトは、交通やサービスの膨大なデータを連携させるためのソフトならびにノウハウが提供できることや、世界各地にある大規模なデータセンターのコンピューターを使ったクラウドサービスによって万全のバックアップができることをアピールしていた。いくらいいMaaSアプリができたところで、しっかりしたデータの連係やバックアップがなければと信頼できる運営はおぼつかないわけで、その必要性とそこにおける自社の優位性を訴求していたのである。
ある意味、MaaSの根幹を握ろうとしているということ。さすがIT業界の雄だ。
ということで、日本マイクロソフトのMaaSへの取り組みや、日本におけるMaaS実現に関するあれこれについて、ブースにいた担当者に話を聞いてみた。
――日本マイクロソフトさんは、具体的にどんなMaaSアプリの実現をサポートしようとしているのですか?
「MaaSには、ビジネスワーカー向け、観光客向け、居住者向けとさまざまあるわけですが、いずれはそれらすべての分野のMaaSアプリの開発・運用をサポートすることを視野に入れています。ただ、ご存じのように、われわれはワードとかエクセルとかのソフトを含むMicrosoft Officeを提供している会社で、オフィスワーカーの課題解決が強み。なので、まずはビジネスシーンでの移動に特化したMaaSアプリの開発・運用のサポートから始めることを考えています」
――ビジネスシーンに特化したMaaSアプリとは?
「簡単に言うと、仕事で外回りをするときに役立つアプリのことです。いま、ビジネスの世界では働き方改革の必要性が叫ばれていて、いかに時短でいい働きができるかが大きな課題となっているわけですが、社用車を含む交通手段による顧客先への効率のいい移動や、外出先でのコワーキングスペース活用を含めた効率的なテレワークの提案ができるMaaSアプリがあれば、それは自ずと解決へと繋がっていくことになります。われわれは、そうしたMaaSアプリの開発・運用のサポートを考えているのです」
「ちなみに、最近、そうしたアプリを開発・運用することを考えている企業さまに向けたデモ用のアプリをつくりました。その画面をご覧いただければ、ビジネスシーンに特化したMaaSアプリがどんなものかは一目瞭然だと思います(以下、三枚の写真参照)」
――MaaSアプリってなにか特別なものになるように思っていましたけれど、これを見ると、普通に便利なアプリという印象です。
「はい、そのとおりです。MaaSの実現に当たっては、経営が異なるさまざまな交通機関を統合したり、膨大なデータを管理したりといった難題が続くので複雑なことのように思えるのですが、アプリが稼働する段になれば、そうしたことはまったく関係がなくなる。利用する人がただただ便利に使えればそれでいい。ある日、誰かがとある便利なアプリを使い始めたら、それが結局はMaaSだったとなるのが理想なんです」
――なるほど。そう捉えると、MaaSの本格化が意外に早いかも知れないという理由がわかるような気がします。
「そう、なので、MaaSはMaaSという名前ではなく、さまざまにつくられるアプリの名前で普及していく可能性がありますよね」
整備工場はMaaSの物理面のバックアップを
――ところで、まったく別の話題になるんですが……このロータスタウンは自動車整備工場の全国組織が運営する情報媒体なので、MaaS時代の整備工場の在り方が気になります。そこらへんについては、どう捉えていらっしゃいますか?
「整備工場さんのことはよく知らないのですが、ディーラーさんからはそういった類いの相談を受けることがあります。個人のクルマの所有が少なくなる中で、どうビジネスを展開していけばいいのかと……。それで、その際にお話しているのは、販売も整備も、いままでのBtoC主体のスタンスをある程度BtoBのほうに移行させるべきでしょう、ということです」
――法人相手のビジネスを強化すべきだ、と。
「はい。まず販売ですが、たしかに自家用車の需要は減るかも知れません。でも、シェリング事業を行う法人のクルマの需要は相当に増えていきます。しかも、それらは利用者の利便性を損なわないよう頻繁に運行しなくてはいけないし、長距離を走ることになるので短いスパンでの代替が発生するでしょう。だとしたら、そこへのビジネス展開は非常に重要なものになるわけです」
――たしかに。
「つぎに整備に関していえば、シェアリングビジネスにおいては安全運行が絶対の条件になるので、個人顧客よりも点検整備を頻繁に行うようになる可能性が大きい。しかもスピーディで入念な作業が求められるでしょう。となると、そのニーズに応えられる技術力の高い整備工場さんやディーラーさんは必ずや生き残っていけるはずなのです」
――日本マイクロソフトさんがMaaSのソフト面やデータ面でのバックアップを担うとするなら、整備工場はMaaSのクルマという物理面のバックアップを担うビジネスを展開すべきということですね。それが新たな時代の要請である、と。
「おっしゃるとおりです。あと、今後コネクテッドカーの時代になると、常に車両からのデータが送られてきて故障などの不具合の可能性を事前に把握できるようにもなるわけですから、それを元にして能動的に入庫を促進する動きをすることも重要なことになってくるでしょう。それも含めて考えると、けっこうやることがたくさん出てくるような気がします」
――なるほど、貴重なご意見、どうもありがとうございました。
MaaSの時代がやってきてクルマの所有形態が変わったとしても、自由な移動の歓びは変わらない。もしかすると、もっといい歓びがもたらされるかも知れない。そして、その歓びは日本マイクロソフトやロータスクラブなどの裏方がしっかりと支えていくことになる……。
そのことを事前にちゃんと知っておけば、誰もが、恐れず、怯まず、新しい交通スタイルが迎えられるようになる。MaaS、ドンとこい、なのである。(文:みらいのくるま取材班)
『第12回オートモーティブワールド』ルポ
(前編)「島国・日本はMaaSが実現しやすい環境になっている」
(後編)「MaaSは便利な移動アプリとして日常に浸透していく」
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