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【i-MiEVの10年 / ユーザーの目線 後編】「新しいEVがイマイチだったら、あと10年はi-MiEVに乗り続けます( 笑)」(金倉弘樹さん) 

2019年12月19日更新



約10年、27万㎞以上の道をi-MiEVとともに走ってきた金倉弘樹さん。そのi-MiEVライフの中で感じた、i-MiEVのいいところ、悪いところとは。そして、これからのEV時代に期待することとは。

初期型バッテリーの早い劣化に困惑

——これまでi-MiEVのいいところばかりを聞いてきましたが、ここであえて難点についても伺いたいと思います。購入してから現在に至るまで、何か困ったと感じたことはありますか?

金倉 やっぱり駆動用バッテリーの劣化ですかね。先ほど少し触れましたけど、最初に積んでいたバッテリーが5年目の8万㎞あたりで劣化の弊害が顕著になったのにはかなり困惑させられました。急速充電器にかけて充電しても時間がかかったり、100%まで充電できなかったり……結局、本来の距離が走れないようになってしまったんです。実際、それまでは余裕で行けた場所の途中で電欠し、立ち往生したことさえありました。

——それは困りますね。そのときのバッテリーの容量は何%ぐらいまで落ちていたんでしょうか?

金倉 充電時間とか距離とかの相関から推測するに70%とか60%になっていた感じです。新車のときと比べて不便だなあって思いながら乗っていました。

——それは無償で交換できる保証の対象内ではなかったのですか?

金倉 それがですね、いまでこそ「初度登録後8年以内に走行10万km以内でバッテリー容量が70%を下回れば無償で修理・交換」という保証内容が打ち出されていますけど、当時はそれがはっきりとしていなかったんですよ。なので、しばらく不便な状態をガマンしながら乗り続けることになってしまった。で、走行距離が10万Kmギリギリのタイミングで、やっとメーカーからはっきりとした保証内容が出て、それで無償交換するに至ったんです。

——そうだったんですか。三菱自動車にしても、バッテリーの保証というところは未知の領域だったのでしょうね。

金倉 ええ、聞いたところによると、当初i-MiEVは街乗り用EVの位置付けだったので、そういう乗り方をしているユーザーのリアルな走行状況を見ながら保証内容を決めるつもりでいたらしい。まさか私のようにわずか5年で8万㎞も走って早々にバッテリーを劣化させてしまうユーザーがいるなんて想像していなかったのでしょう。だから、私としても多少は同情の余地あり、という感じだったんです(笑)。

——なるほど(笑)。交換したバッテリーのほうは、その後、健在ですか?

金倉 ずいぶん改良が進んだみたいで、交換後17万㎞以上を走りましたが、いまだ健在です。とはいえ、スマホのアプリで計算すると現在の容量は60~70%ぐらいにまで減ってきているので、そろそろ劣化の弊害が出てくるかも知れません。これからの走行距離にもよりますが、おそらく来年の後半あたりには、「交換するか、このまま乗り続けるか…」を検討をしなければならなくなるでしょうね。

——では、バッテリー以外で困ったことはありますか?

金倉 冬にけっこう寒い思いをすること。初期型のi-MiEVは充電中にエアコンが使えない設定になっているので、クルマの中で待機するとしたら、ずっと寒いままでいなければならないんです。あと、ステアリングヒーターの設定がないのもその寒さを引き立たせる要因になっている。i-MiEVって、フロントガラスがかなり上部まできているじゃないですか。そうすると停車中に冬の冷気が直接運転席に降りてきて、ハンドルが冷え冷えになってしまうんですよ。ものすごい寒い日は、手袋なしではスタートしたくなくなります(苦笑)。

もっと商売っ気を出してEVの販売を

——ところで、世界初の量販型EVとして華々しく登場したi-MiEVも、ここ10年間の販売はあまり芳しくありませんでした。金倉さんは、i-MiEVがヒットしなかった要因はどこにあったと見ていますか?

金倉 私は三菱自動車の商売っ気の薄さが影響したと思っています。発売したてのときはTVCMやチラシなどの広告媒体にドーンと写真が載ったのに、その後、数ヵ月も経たないうちにあらゆる媒体から写真が忽然と消え、ぜんぜんアピールしなくなってしまった。日産なんて、リーフがあまり売れていなくても必ずどこかに写真を載せるようにしていたのに……。売る側がそんなだと、ネガティブ情報ばかりが目立ち、興味を持っている人だって購入する気持ちが薄れちゃいますよ。

——なるほど。

金倉 三菱自動車って、昔から高い技術力で、すごくいいクルマをつくるメーカーです。でも、いいクルマさえつくれば売れると思っている節があり、どうも販売の前線での押しが弱い。まあ、パジェロみたいにこれまでの延長線上にあるクルマで魅力的な商品だったらそれでも売れたでしょうが、まったく新しい機構のEVを売るときには、やっぱり宣伝とかセールスとかをもっと一所懸命にやらないとダメでしょう。一応、誤解のないよう付け加えておくと、私がi-MiEVを買った三菱のディーラーさんは、そのへんについてはかなり頑張っていると思いますが(笑)。

——「商売っ気の薄さ」以外に思い当たることはありますか?

金倉 クルマ自体にワクワク感を載せるのを怠ったのも大きかったんじゃないかと私は見ています。

——ワクワク感?

金倉 そうです。i-MiEVの一般向け発売がスタートした後、リーフの発売も始まろうとしていたんですが、リーフのインパネには未来感がいっぱいのマルチマルチメディア装置が設置されることになっていました。一方のわれらがi-MiEVにはカーナビのスペースすら設定されておらず、ラジオとCDしか入らないような設計になっていた。これ、購入を決めていた私でさえも、「ワクワク感が足りないよなあ」って思いましたから。

——素朴過ぎた、と。

金倉 はい。実は私、当時田町にあった三菱自動車本社で行われたi-MiEV発売直前の試乗会に参加して、そのときに同乗してくれた三菱自動車の技術者の方に「i-MiEVにもマルチメディアみたいのがあったらよかったですね」って言ったんですよ。そしたら、技術者の方は「あんなのは飾りですよ」と一笑に付していた。それを聞いて私は心底ガッカリしましたね。「三菱、買う人の気持ち、本当にわかってないよなあ。オレは走りに衝撃を受けて買うことを決めたけど、一般のお客さんはこういう新しいクルマを買うときは、プラスαのワクワク感とか夢とかを欲しがるもんなんだよ。そういうのちゃんと吸い上げてクルマを開発してくれよ」って心の中で大きく叫んだものです(笑)。

——ははは。

金倉 まあ、いまは三菱自動車も日産とアライアンスを組んでいるためか、CMとかカタログとかがお洒落になってきているし、クルマのデザインやインテリアとかも消費者の心をより捉えるものになってきている感はあります。近い将来に新しいEVが発売されるときには、そういうところがもっと発揮してほしいですね。



新しいEVにはSOHの表示機能を

——新しいEVという話がでたのでお聞きしますが、今後、三菱自動車が発売するであろうEVには、ワクワク感以外でどんなところに期待したいですか?

金倉 EVの肝ってやっぱりバッテリー。私みたいに距離を走るドライバーとしては、とにかく長寿命なものの搭載を期待したいですね。

——航続距離ではなく寿命のほうを長くしてもらいたい、と。

金倉 そうです。ただ、バッテリーの進化は漸次のものだからあまり無理が言えないのはよくわかっている。なので、とりあえずは自分のクルマのバッテリーの容量すなわち健全度がいまどれくらいなのかが日常的に確認できる機能がほしいですね。すでにiPhoneは%表示でだいたいの健全度がわかるようになっていますけど、あんな感じのカンタンなものでいいんですよ。そういうのがあれば、あまり心騒ぐことなく運転し続けられます。まあ、季節の温度によって健全度の数値が大きく変わるらしいので、技術はあってもなかなか実装しにくいということは聞いてはいるんですけどね。

——いわゆるSOH(State of Health)の表示機能ですね。

金倉 あと、これは車両のことではないんですが、充電サポートのサービスの充実も期待したいですね。いまの三菱自動車の「電動車両サポート」は、入会金1,500円・基本料金月500円(いずれも税抜き)で三菱自動車のディーラーはじめ、高速道路のサービスエリア、コンビニエンスストア、道の駅、宿泊施設などに設置されたNCSネットワークの充電器を低料金で利用できるようになっていますけど、そんなにオトクで便利という感じがしない。最近、日産が新たな月額制の充電サービスをはじめると発表しましたが、ぜひ両社手を組んで、よりオトクな設定のサービスを実現していってもらえらばなあって思います。

——EVオーナーにとっては、新しい魅力的なEVがでるにしても、バッテリーそして充電に関することが納得いく状態であることがベースとして必要なんだということですね。

金倉 はい。だから、さらにいいますと、充電の料金体系も一考の余地はあるんじゃないかと思っているんですよ。いまは時間で料金が決められていますが、例えば小さな容量のバッテリーを積むi-MiEVと大容量のバッテリーを積むテスラ車とでは、同じ時間内に入る電気の量が圧倒的に違うんです。できれば、そういう不公平感もぜひ是正していってもらいたい。まあ、これは三菱自動車に要望することではないんでしょうけどね。

——ちなみにいま、世界的に大容量バッテリーを積んだプレミアムEVの発表・発売が相次いでいますが、金倉さんは三菱自動車が開発する新しいEVもその方向にいくべきだと考えていますか?

金倉 バリエーションの一つとしてそういうEVがあってもいいけど、価格がびっくりするほど高くなるだろうし、実体験からいって狭い日本を走る上においてはオーバークオリティのような気がしないでもない。なので、やっぱりコスパがよくて走りもいいコンパクトなEVづくりをメインにしていってほしいですね。そもそもそういう優れたコンパクトEVって、三菱自動車をはじめとする日本のメーカーにしか創れないんじゃないでしょうか。だったら、その強みをさらに伸長させていくべき。それがわれわれ消費者を喜ばせることになるし、EV普及を加速させることにも繋がっていくはずなんですから。

——もし、近々、そんな優れたコンパクトEVが三菱自動車から発売されたら、いまのi-MiEVから乗り換えしますか?

金倉 私が初めてi-MiEVに乗ったときに感じたような大きなインパクトがあれば、真剣に乗り替えを検討すると思います。でも、それがなかったとしたら……たぶん、もう一回バッテリーを新しいものに交換して、あと10年は同じi-MiEVに乗り続けることになるでしょうね(笑)。

「27万7000㎞を乗り続けるほどに惚れ込んでいる一台です」(金倉弘樹さん) 

「新しいEVがイマイチだったら、あと10年はi-MiEVに乗り続けます(笑)」(金倉弘樹さん)

金倉弘樹(かなくらひろき)
1975年5月、東京都世田谷区生まれ。千葉工業大学(第二部金属工学科)卒業後、株式会社東宝映像美術に就職し、エンターテインメント施設の施工管理や保守点検管理などに従事。有名遊園地のイベント装飾の制作・設置の現場管理など、夢を育む仕事に励んでいる。そうしたキャリアを活かして、EVオーナーズクラブ(EVOC)でも催事を担当。参加した活動は、EVOCカンファレンス2019 in HAKONE、富士スバルラインEV・FCVパレードラン、エコカー試乗会!in 横浜赤レンガ倉庫など数多い。所有車両は、三菱i-MiEV1台、三菱MINICAB-MiEV1台、三菱シャリオ16台(住まいとは別に保管)。

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