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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2023年10月12日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
中堅企業に勤務するCさんは、33歳の若い営業部長。強引な仕事ぶりは周囲からひんしゅくを買うことが多いが、必ず結果を出すため、社長からの受けはよく、同期の中では出世頭と目されている。
そんなCさんは、ある日、強引さが裏目に出て、取り返しのつかない事態を招くことになる。
その日、深夜に仕事を終えたCさんが、愛車を走らせ妻子がいる自宅へと向かっていたところ、狭い住宅街の裏道で前方左側におじいさんらしき人がフラフラと自転車で走っているのが目に入った。
「もう、危ないなぁ」
Cさんはスピードを緩め、少し右に膨らみながら自転車の横を走り抜けようとした。だが、抜き切ったと思いハンドルを戻した瞬間、クルマの左サイドのリアあたりに「ガッ」と何かが擦れる音がした。
「ん?」
ミラーに目をやると、おじいさんらしき人が自転車ごと側道に倒れているのが見えた。
「えっ!?」
Cさんは一瞬、クルマを停めて確認しようかと思った。だが、そうはせず、走り続けた。もし事故だとしても、自分は悪くないという思いがあった。そして、もしここで自分が人身事故の加害者となれば免停になるかもしれず、そうなるのは避けたかった。さらには、人身事故を起こしたことが会社に発覚すれば出世に響くマイナスポイントとなる可能性は大いにあり、それも避けたかった。
「俺はぶつけてないから。あっちが勝手にクルマに当たって転んだだけだから」
念仏のようにそう唱えながら、Cさんはアクセルを踏み続け家路を急いだ。
帰宅後、クルマの左サイドのリアを確認すると、たしかに何かが擦れたような痕跡があった。おそらく、おじいさんの自転車のハンドルが当たった跡だろう。
これを見てから、Cさんは気持ちのざわつきを抑えられなくなった。もし、おじいさんが自分のクルマのナンバーを覚えていて、警察に通報したらどうなるのか。あるいは、街中にたくさんある監視カメラ映像で自分のクルマが特定されたらどうなるのか、などなど、脳内はマイナスイメージでいっぱいになった。
が、ここでCさん、自分なりの“妙案”を思いつく。
「よし、ペーパードライバーの妻に身代わりになってもらおう」
Cさんは、寝ていた妻のD子さんを起こすと顛末を説明し、懇願した。
「実は、帰り道に自転車のおじいさんが俺のクルマに当たってきて転んだ。もちろん俺は悪くないし、事故だとしても大した事故じゃない。だからそのまま帰ってきた。でも、今、念のために警察に行っておじいさんが大丈夫だったかどうか確認したほうがいいかなとも思えてきた。ただ万が一、俺が悪かったとなれば免停になる可能性があるし、会社での立場も悪くなる。そういうのは絶対に避けたい。なので、悪いけど、君が運転してたことにして、俺の代わりに警察にいってくれないか」
当初、D子さんはその申し出を激しく拒んだ。だが、朝まで懇々と説得され渋々承諾。タクシーに乗って警察へと出向いた。
「あのぉ、すみません。昨日の夜、自転車のおじいさんが私が運転するクルマにぶつかってきたようなんですが、あの後どうなったかちょっと気になりまして……」
対応した交通課の男性警察官は、「ああ、おじいさんが頭に軽傷を負った事故ですね」と言い、部下の女性警察官を同席させ、小部屋でD子さんにいろいろ問いかけてきた。時刻は? 場所は? 状況は? etc.
D子さんは、Cさんから事前に聞いていた話をもとにそれぞれの質問に答えた。だが、実感がない上、記憶も曖昧だったため、だんだんとしどろもどろになっていった。しまいには、手まで震えだす始末。
それを見ていた女性警察官は、横からこう言った。
「この事故、本当にあなたが起こした事故ですか? もしかして、誰かの身代わり……ということはないですよね?身代わりだとしたら、それは違法行為ですよ」
これを聞いたD子さんは全身を震わせ、わっと泣き出し、告白した。
「すみません、夫の身代わりで来ました。ごめんなさい!」
結果から見れば、Cさんが“妙案”と思った姑息な手段は、事態をさらに悪くしただけであった。
交通事故の際に発生する
ドライバーの義務
この事故は全面的にCさんの過失ではないかもしれませんが、クルマと自転車による交通事故であることに間違いはありません。
こうした場合、ドライバーがどうすべきかについて道路交通法では、「直ちに停車し」「負傷者の救護を行い」「道路の危険を防止する措置をとり」「警察に事故を報告する」ことを義務づけています。
《交通事故の際のドライバーの義務》
■運転停止義務
■救護措置義務
■危険防止措置義務
■警察への事故報告義務
よって、Cさんはすぐにクルマを停めて、ケガを負った可能性があるおじいさんを救護しなければならなかったのです。
しかし、Cさんは「俺はぶつけてない。あっちが勝手に転んだだけ」と唱えながら走り去ってしまいました。
これは、完全に誤った行為です。負傷者の救護をせずに現場から走り去った場合、これは救護措置義務違反=「ひき逃げ」とみなされます。
ひき逃げの罰則はたいへん重く、「10年以下の懲役または100万円以下の罰金」です。また、違反点数は35点で、免許取消と欠格期間3年ということになります。
Cさんは走り去ってしまったために、危険防止措置義務と警察への事故報告義務も果たしていません。
危険防止措置義務は、後続車が事故現場を通ることで第二、第三の事故が発生しないように、事故に関係したクルマを移動させるなど危険を防止する義務です。
警察への事故報告義務は、交通事故が発生したことを警察に届け出る義務です。重大事故などのニュースで、事故を起こした当事者が現場で逮捕されたと伝えられることがありますが、それはその当事者が最低限の義務として警察への事故報告義務を果たし、そうした展開になった場合が多いと考えられます。
Cさんは、こういった義務も果たしていないわけで、その行為は「悪質である」とされても仕方がないといえます。
さて、続く後編では、身代わり出頭の罪について見ていきます。
ひき逃げの身代わり出頭を妻に頼んだが……それがバレてしまった!(前編)
ひき逃げの身代わり出頭を妻に頼んだが……それがバレてしまった!(後編)
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