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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2022年12月8日更新
【今回のやられちゃったストーリー】
「なんで、そうなるのよ!」
保険会社から電話で「事故の過失割合は9対1」と伝えられた後、Qさん(40歳・会社員)は天を仰いで不満の声をぶちまけた――。
その事故は、1ヵ月前の週末に起きた。
ショッピングモールを目指して幹線道路を走っていたQさんの愛車(セダン)は、信号のない交差点で、左側から不用意に進入してきた軽自動車にぶつけられた。こちらは優先道路を走行しており、相手が安全確認を怠って交差点に進入したために起きた事故で、あきらかに相手に非があった。相手が急ブレーキを踏んだため、負傷はなかったが、衝撃で愛車のフロントサイドがベッコリ凹んだ。
ぶつけてきた相手は20代のちゃらい感じの男性。彼はクルマから出てくるとQさんのクルマに駆け寄り、「すみません。すごく急いでたんで、そちらのクルマが走ってくるのに気づかなかったんです。ああ、どうしよう。体は大丈夫ですか?」と、多少あたふたしながらも、見かけによらず丁寧な詫びを入れてきた。
Qさんは、ぶつかった直後は「ちゃんと前見て運転しなさいよ。何やってんのよ、まったくもう」と怒り心頭だったのだが、その対応に少しだけ気持ちが和らぎ、「ええ、まあ、体は大丈夫みたい。とにかく警察に連絡しましょう」と大人の対応をした。
警官が到着するまで、Qさんは所在なげに路肩に寄せた愛車のそばをうろうろしてた。が、ふと、数メートル離れたところに停めてある相手のクルマがどれほど壊れているかを確かめたくなり、そちらへと歩み寄った。すると、やはり外に出ていた加害者の男性が背を向けて誰かと電話で話している声が断片的に聞こえてきた。
「……ごめん、ごめん。約束の時間に間に合わせようと思って急いで走ってたんだけどさ、ババアのクルマにぶつかっちゃって、行けそうにないわ」
「……ええっと、ババアのクルマが走ってくるのが見えてたんだけど、オレのクルマが交差点に入るのに気づいてちゃんとブレーキ踏んで止まると思ったんだよ。なのに、あいつ、とろくて、止まんないでやんの。だからぶつかっちゃったんだよ。ほんと、やんなっちゃうよ」
「……うん、だから会うのは来週にしようぜ。そんときは、いろいろ埋め合わせするからさ」
Qさんは、再び怒り心頭となった。「ババア」とはなんだ。「とろい」とはなんだ。さっきの丁寧さはその場しのぎの演技だったのか。しかも私のクルマが走ってくるのを認識した上での交差点進入だっただと? ふざけるな!
その場で怒り出すと盗み聞きしたことがばれるので、Qさんは必死に感情を抑えて愛車のところに戻った。しかし、心の中は熱いマグマの奔流。未来永劫、絶対に相手を許さないという断固たる決意をした――。
そんな気持ちでいたところに「事故の過失割合は9対1」という連絡である。
聞けば、Qさんにも交差点通行時の注意義務があるが、それを怠ったとの解釈で9対1となったようだが、到底納得できる判断ではなかった。あんな奴を相手に1ミリでも自分の非を認めたくなかったし、9対1を受け入れて相手のクルマの修理代の1割分を負担することなどありえない話だった。
ということで、Qさんはその日のうちに10対0でないと納得できない旨を保険会社に伝えた。そして、そのために自動車保険に付けていた弁護士特約を利用して弁護士を立てて交渉し、場合によっては裁判も辞さない構えであることも伝えた。裁判になったら、相手がQさんのクルマが走ってきたのを認識していたにもかかわらず交差点に進入してきたことを主張するつもりだった。
すると、1週間ほどして、保険会社がいきなりこんなことを伝えてきた。
「相手方が過失割合を9対0とするのはどうでしょうかと提案してきました。どうやら、弁護士を入れた交渉や裁判は避けたいみたいです。どうしますか?」
9対0は初めて聞く過失割合。「そんなのアリ?」と戸惑ったが、保険会社の担当によれば、被害者側が過失を認めず話が決着しない場合、双方が納得すれば、そうした過失割合もあり得るとのことだった。「へえ、そうなんだ……」。
Qさんは、10対0に強くこだわっていたため、すぐにはその提案を受け入れられなかった。だが、時間の経過とともに、固まっていた心は徐々にほぐれていった。考えてみたら、弁護士がいるとはいえ、示談交渉や裁判ともなれば、あの無礼な相手と向き合わなければならない。Qさんにとって、それもまた苦痛であった。
「まあ、9対0で許してやるか」……Qさんは、自分自身を納得させるかのようにつぶやいた。
心情的には10対0でも
9対1になる場合が多い
全面的に相手側に非があると思われる交通事故であっても、相手(加害者)の過失が9割で、自分(被害者)にも1割の過失があると判断されるケースは結構あります。
交差点での交通事故でいえば、例えば以下のようなケースが挙げられます。
【事例1】信号機のない交差点で、優先道路を直進していた自分(被害者)のクルマに、優先道路ではない道路を直進してきた相手(加害者)のクルマが衝突した。
【事例2】信号機のある交差点で、(交差点に青信号で進入したものの、右折のタイミングを待っている間に赤信号になってしまった)右折中の自分(被害者)のクルマに、赤信号でありながら進入した相手(加害者)のクルマが衝突した。
前述のストーリーに出てきたQさんの事故は事例1に該当します。
Qさんは優先道路を走っていたので、減速する必要はなく、この事故を回避することは非常に難しいものがありますが、それでも交差点での注意義務はあるとされたわけです。
なかなか納得しがたい判断です。でも、保険会社が行う示談交渉サービスでは、道路交通法や過去の交通事故裁判の判例に照らし合わせて、こういう過失割合を提示することは意外なことではありません。
ただし、保険会社から9対1という過失割合を提示されたからといって、必ずその過失割合で決着しなければならないというわけではありません。意外に思われるかもしれませんが、ときに9対0という、足して10にならない過失割合で決着することもあるのです。
交通事故の過失割合が9対0に。そういう決着もアリなの!?(前編)
交通事故の過失割合が9対0に。そういう決着もアリなの!?(後編)
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