「街と車」　～　「NAVI」表紙写真ストーリー　 Vol.4

写真・初沢克利

地下鉄アベス駅からサクレール寺院に向かう道にある坂道にシトロエン2CV（ドゥシュヴォ）が愛らしい姿を見せて停まっている。
写真を見ていて私はある街を思い出した。
きまって夢のなかに出てくる街がある。そこには付き合っている女のひともいるし、自分の家だってある。何回も同じ夢を見ているうちにその街の住人になってしまったのかもしれない。
一緒にいる女のひとは現実の世界では一度も会ったことがなかった。髪の短い美しいひとだった。それでも懐かしいと感じるのはなぜなのだろうか。不思議なこともあるものである。
その角を曲がるとバス停があると思っているとバスが私を追い抜いていく。歩いているとバス停がそこにちゃんとある。レンガ造りの家があり個性的な建築物も並んでいる。記憶のなかの風景なのだろうか。夢のなかで私は散歩をして街の地図を作ってきた。
初沢氏は３ヶ月で靴をだめにするほど街を歩いていたという。もちろんパリの街である。
シトロエン2CV（ドゥシュヴォ）の後ろにあるのはパン屋さんだ。
「朝になると家族のためにバケットを買いに行っていた」
いつか初沢氏は言っていた。家族のために朝、バケットを買うのが日課だった。私はこれを聞いたとき、パリの朝らしいエピソードだと思った。
写真を見ると歩道にはゴミが落ちている。1980年、当時のパリはゴミが溢れていて、観光客は犬の糞を踏みながら歩いていたという。1日の50トン撒かれていたいうから驚きである。初沢氏は歩道に落ちていたゴミが懐かしいとさえ言っている。
モンマルトルには洗濯船という有名な安アパートがあった事で知られている。1904年から1909年までパブロ・ピカソが恋人のフェルナンド・オリビエと共に住んでいた。アメデオ・モディリアーニなど画家達が集まっていた。洗濯船という名前はアパートの床を歩くとセーヌ川に浮かぶ洗濯用の船のようにきしむことから詩人のマックス・ジャコブが付けた。
今でもモンマルトルには芸術家が多く住んでいる。
やはりパリにはシトロエン2CV（ドゥシュヴォ）がよく似合っている。（文・渡辺久浩）