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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2020年4月7日更新
経済記者が書いた超リアル小説
「99%実話」の噂で書店から消えた超問題作、待望の新刊!!
これは、小説『トヨトミの逆襲』の帯に書き付けられている惹句だ。
99%実話とはなんとも大げさだが、この表現は前作『トヨトミの野望』が、実存する自動車メーカーにおける権力争いの様相や、開発・販売するクルマに関する記述など、「小説なのに、ほとんど現実どおりに描かれている」との評判を得ていることからきており、第二弾となる今作『トヨトミの逆襲』もその路線を踏襲し、「ほぼ実話」の生々しい物語が展開されていることを示唆している。
何しろ、「覆面作家」を名乗る著者・梶山三郎は現役バリバリの経済記者(おそらくは自動車業界に精通する経済紙系の新聞記者)。いかにリアルかは、このことからも十分にうかがい知れるのである。
主役のモデルはトヨタの社長!?
超リアルであることはわかったとして、じゃあ、いったい、その実存する自動車メーカーはどこで、主人公たる社長は誰なのだろうか?
これは考えるまでもない。作品中に登場する巨大自動車メーカーは前作どおり愛知県にあるトヨトミで、今作における社長は創業家の嫡男・豊臣統一となっている。もう、何をか言わんやの設定およびネーミングで、トヨタとそれを率いる豊田章男社長がモデルであることがすぐわかる。
話の展開からしてもそのことは明かだ。世界中でEVそして自動運転車をはじめとした次世代車の勢いが顕著となった2016年から現在(および近未来)に至るまでの間にトヨタで起きたことや豊田章男社長の言動がほぼそのまんまトレースされている。
例えば、トヨトミの豊臣統一社長は、2014年に次世代車の切り札としてFCV(燃料電池車)を打ち出すもまったく普及はせず、2016年ごろから世界的趨勢が完全にEVの方向に傾いてしまう中で電動車に関しては完全に周回遅れの立場に陥ってしまう。それを挽回すべく、豊臣統一社長が大胆な電動化構想をぶち上げるとともに、その先も狙ってソフトバンクの孫正義会長とおぼしきワールドビジョンの宗正一会長と組んで自動運転ならびにコネクテッドカーの世界にも進出する動きを見せる……。このあたりは、まさに近年のトヨタならびに豊田章男社長の動きそのものなのである。
昔も今も地道な「○○」が大事!
ストーリーは、大まかにいうと「航続距離を飛躍的に伸ばすEVの開発」と「血筋や縁者が幅をきかせる大企業特有の権力争い」という二つのエピソードが密接に絡み合いながら進行していく。
「航続距離を飛躍的に伸ばすEVの開発」に関しては、現実のトヨタ同様に全固体電池の開発が必須のものとされていて、それがうまくできれば、話の上では〈単純走行で1000キロ、一般走行で600キロ〉のEVの開発が実現でき、周回遅れを一気に挽回できることになっている。
「血筋や縁者が幅をきかせる大企業特有の権力争い」については、トップである豊臣統一社長に取り入る〈友だち役員〉たちの誰が脱落し誰が勝ち残るかという話になっているのだが、現実がどうかはともかくとして、豊臣統一社長は〈お坊ちゃま〉であり〈客寄せパンダ〉に過ぎない威厳のない社長なので、よりトップに近い地位に就けた者は陰の権力者として権勢を誇れる可能性があることになっている。
これら二つは、しかし、どれもすんなりと事が運ばない。物語の中では最初からずっとそれらに関するドタバタとドロドロが繰り返されることになる。なんと豊臣統一社長の〈下ネタ〉まで登場してくる。
こうなると、「トヨトミ≒トヨタと豊臣統一社長≒豊田章男社長、大丈夫なのか?」と案じてしまうのだが、反面、よく内実を調べて書かれた業界ゴシップ小説といった趣があり、実は大変に興味深く読み進められたりもする。自動車業界に少しでも感心がある者なら、随所で「へえっ」となって好奇心が満たされている自分を発見できることだろう。
とはいえ、まるまるゴシップ小説然というわけではない。話の終盤に差し掛かると、主人公・豊臣統一が突如巨大自動車メーカーのトップに相応しい悟りを得て「○○」の大切さに気付き、それによってすべての道が明るく拓けるというカタルシスが起こる。この辺から作品はいきなり典型的な勧善懲悪の企業小説の体を成しはじめ、最後は読む者をシンプルにスカッとさせてくれるのである。
では、その「○○」とはなんなのか? そして、どんなカタルシスが起こるのか?
はっきり書くとネタバレになってしまうので、以下、ぼやかしながらヒントらしきことを書いておく。
作中、バッテリーの進化だけではEVの航続距離が飛躍的には伸びないことを知った豊臣統一社長は、モーターを省電力で回すための高い「○○力」をもった小さな会社の存在に注目する。同時に豊臣統一社長は、次世代車の時代の難しい経営には、いつも開発の現場にいて「○○屋」と呼ばれる実直な役員が案外に役立つかも知れないと気付く。その結果、2022年、遂にトヨトミは……(以下省略)。
ここまで書けば、カタルシスの詳細はともかくとして、「○○」に入る単語が何であるかはおおよその見当は付くだろう。それは、EVのための「電池」ではないし、自動運転車のための「AI」でもない。もちろん、出世のための「戦略」とか「忖度」とかでもない。自動車をつくる会社にとって一番重要であろう昔ながらの地道な単語が一つ入るのである。
とにかく、ゴシップが盛りだくさんではあるものの、最後は「現実の豊田章男社長とトヨタも近い将来にこうなってくれるといいな」と思えるような清々しい終わり方をする小説。スカッとするためにも、「○○」の答え合わせをするためにも、ぜひ一読をオススメしたい。(文:みらいのくるま取材班)
『トヨトミの逆襲 ~小説・巨大自動車企業』
・2019年12月2日発行
・著者:梶山三郎
・発行:小学館
・価格:1,700円+税
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