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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2021年2月18日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
「今日の夕焼け、すんごくキレイよ!」
ある休日の夕刻、自転車でスーパーに買い物にいっていた妻が帰ってくるなりそうい言った。1年前に購入したばかりのマンションの8階の部屋で缶ビールを飲みながらテレビを観ていたYさん(34歳・会社員)は、その言葉につられて窓の外に目を向けた。すると、空一面に広がる鰯雲が真っ赤に色づき、なかなかの大パノラマが展開されていた。
「ああ、たしかにキレイだあ」
Yさん、缶ビールをもってベランダに出た。やや強めの風が吹き渡るのを心地よく感じつつ、しばしその光景にうっとり。その間、「西日がさす部屋だけど、割安だったし、こんな美しい光景が見られるんだから買ってよかったよな」と自己肯定的な感慨を深めたりしていた。
そしてYさん、おもむろにズボンのポケットからスマホを取り出す。いい写真が撮れたら、SNSに投稿して「オレたち、すんごくいい部屋に住んでいるんだよ」とのアピールをしようと思ったのだった。
撮影のために、手に持っていた缶ビールは幅が広い手すりの上に置いた。少し落下の危うさは感じたものの、まだ中身がたくさん残っていたので風で飛ばされることはないだろうとの判断がそこにはあった。
しかし、その判断は完全な誤りだった。風でこそ飛ばされはしなかったが、何度か向きを変えて撮影していたYさんの肘がコツンと当たってしまい、缶ビールはそのまま中空へと飛び出していったのだ。ワッ!
しかも、しかも、驚き慌てたYさんは手を滑らせ、持っていたスマホまで落としてしまうこととなった。アッ!
もう、Wの悲劇だった。
マンションのベランダ側の地上には幅2メートルほどの植え込みがあった。缶ビールもスマホもそこに落ちれば、まあ、不幸中の幸い。だが、植え込みの1メートル先には駐車場があり、もし、そこにあるクルマや人にでも当たれば大変なことになってしまう……。
地上までの約2秒の間、Yさんは8階のベランダから缶ビールとスマホが落下していくさまを「どうか植え込みに落ちてくれ!」と必死に祈りながら見守った。
すると、中身がけっこう残っていた缶ビールはビールをまき散らしながらもなんとか植え込みに落下してくれた。ホッ。
一方のスマホは……。最初のうちはヒラヒラと舞いながらも植え込みへの軌道をたどっていたが、折からの強めの風にあおられ、最後は駐車場に停めてあったクルマのリアを直撃してしまうことに。ガシャーン。
8階からはクルマにどんな被害があったかははっきりとはわからなかった。だが、スマホが花びらが散るようにバラバラになったのが見えたので、かなりの衝撃があったのは間違いなかった。ああああ。
急いで下に降りてチェックしてみたら、スマホが激突したであろうトランクリッドの一部がべっこり凹んでいた。その損害の賠償責任は、Yさんにあることは明々白々だった。
クルマの持ち主に報告と詫びを入れて、修理代の弁償を約束したYさん。ひどく気落ちしていたわけだが、ふと「クルマをキズつけた事故なので、もしかしたら自動車保険から保険金が出るかも知れない」と思い、ずっと愛車の自動車保険で世話になっている保険代理店に一応問い合わせてみた。
Yさん「あのお、自動車保険の対物保険って、相手のクルマに損害を与えたときのための保険ですよね? 今回のようにスマホを落下させたことによる事故のときにも使えたんでしたっけ?」
代理店「うーん、契約しているクルマを運転しているときの事故じゃないので、それはムリですね。残念ですけど」
Yさん「……やっぱり、そうかあ。まいったな」
代理店「あのう、いまさら言ってもなんなんですけど、Yさん、だから個人賠償責任補償特約を付けておくべきだったんですよ」
Yさん「えっ、個人賠償責任補償特約? なんだっけ、それ」
代理店「自動車保険に付けられる特約で、日常生活の中でケアレスミスで他人をケガさせたり、他人のモノを壊したりして賠償責任が発生したときに保険金が出る保険のことです。Yさんには、この前の保険の更新のときに、『2000円ほどをオンするだけでいろいろと補償されるようになるので、ぜひご加入を』とオススメしたんですけど、『マンション買ったばかりだから少しでも節約したい』とおっしゃって、お付けにならなかったんですよ」
Yさん「ああ、そういえば、そんな話してくれてたっけ……」
完全に後の祭りだった。結局、Yさん、損害を与えた相手への賠償を自分の懐からすべて支払うこととなった。もちろんスマホも大枚をはたいて買い替えた。もう節約どころの話じゃなくなっていた。
それからというもの、西日のさすマンションのベランダに立つと、たとえ美しい光景が広がってもシクシクと胸の奥が痛むようになった。いつしかYさんは「マンションのローンをある程度まで払い終わったら、朝日が当たる部屋に引っ越そうか」と考えるまでになっていた。
「個人賠償責任補償特約」は
クルマとは関係のない特約
まずは、自動車保険の特約の概略と、その中における「個人賠償責任補償特約」の位置付けについて。
特約にはいろいろな種類があるのですが、括っていえば「基本的な保険(対人・対物賠償責任保険、人身傷害保険、車両保険)だけではカバーできない補償やサービスが受けられるプラスαの保険」となります。
そして、それら特約は、基本的な保険に自動セットされるものと、別途料金を支払って任意に契約するものに分かれています。
自動セットでよく知られるものとしては、「無保険車事故傷害特約」や「他車運転危険補償特約」などがあります。
※無保険車事故傷害特約:交通事故の被害に遭ったときに相手方が自動車保険に加入していないなどの理由で十分な補償が受けられない場合に、自分の自動車保険から補償を受けることができる
※他車運転危険補償特約:他人のクルマを運転して事故を起こし、賠償責任が発生した際に自分の自動車保険の保険金で対人賠償・対物賠償などを行うことができる
一方、別途料金を支払って任意に契約する特約としては、「弁護士費用特約」や「レンタカー費用等補償特約」などがあります。
※弁護士費用特約:交通事故の被害に遭った際、相手方に損害賠償請求をするために必要な弁護士への相談・委任の費用が補償される
※レンタカー費用等補償特約:事故や故障で愛車が使用できなくなったとき、修理期間中にレンタカーを借りる費用を補償してくれる
※「無保険車事故傷害特約」「他車運転危険補償特約」「弁護士費用特約」「レンタカー費用等補償特約」の説明はあくまでも概要です。詳細は保険会社や商品によって異なります。
いずれも自動車保険に付ける特約なので、当然のことながらクルマの事故や故障に関するプラスαの補償やサービスを行うものが多いのですが、中にはクルマとはまったく関係のない特約もいくつか存在しています。
その代表的なものの一つが、今回の事例で出てきた「個人賠償責任補償特約」です。
これは別途料金を支払って契約する特約なのですが、料金が安い割に日常生活において起こしたうっかり事故の賠償責任に幅広く対応する内容となっているため、最近、保険代理店が積極的にオススメすることが多い特約となっています。
Yさんは、この「個人賠償責任補償特約」に未加入だったがゆえに、散財の憂き目に遭ったのです。
個人賠償責任補償特約は、たった月200円ほどで日常の事故の賠償を幅広くカバー!(前編)
個人賠償責任補償特約は、たった月200円ほどで日常の事故の賠償を幅広くカバー!(後編)
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