ロータスクラブが運営するクルマとあなたを繋ぐ街「ロータスタウン」

みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

BookReview(51)『なぜクルマ好きは性能ではなく物語(ブランド)を買うのか』―カーボンニュートラル時代のクルマづくりにも過去の物語が色濃く反映する。

2024年5月14日更新

BookReview_51_1

日本自動車ジャーナリスト協会の会員である著者は、大の欧州車好き。

本書を通して、こんなことを主張してくる。

― ブランドとは物語である。多くのクルマ好きはメーカー特有の歴史や物語に魅了され、そのメーカーのクルマを手に入れたがる。特に欧州の自動車メーカーは、どこもロマンを感じさせるストーリーがいっぱいだ。熱狂的なクルマ愛からの創業、レース活動を通して勝ち得た名声、代々受け継がれるクルマづくりの哲学と文化……。いったん興味を持ったら、その沼から抜け出せなくなる。対して日本の自動車メーカーはどうか。残念ながら、ホンダ以外はどのメーカーにも見るべきストーリーが少ない。現在、トヨタは自動車業界のブランドランキングで1位を誇るが、それは信頼と安心の大衆車を大量に製造・販売していることからくるビジネス的な評価。クルマ好きをうならせるエモーショナルな物語があっての評価とはいえない。これでは駄目だろう。トヨタをはじめとする日本の各メーカーは、真のブランド構築のために、欧州のメーカーに倣って独自の魅力的な物語を紡いでいくべきだ。

物語という視点では欧州車メーカーに一日の長がある。日本車メーカーはもっと頑張らないといけないようだ。

BEV化に最適なブランドは?

この本には、欧州、日本、アメリカの32社の物語が紹介されている。

物語は過去にさかのぼるため、エンジン車をめぐるストーリーが主となっている。しかも著者自身がエンジンの咆哮をこよなく愛することから、それらの記述にはかなりの熱がこもる。エンスーの領域に入るクルマ好きにはたまらない1冊となっている。

例えばポルシェの章にはこんな一節がある。

〈1949年、フェリーが中心となってポルシェの名を初めて冠したスポーツカーである356を開発し、ポルシェは自動車メーカーとしても歩み始める。356はビートルをベースに高性能化したスポーツカーだった。それゆえ必然的に水平対向4気筒エンジンを、リアにオーバーハングさせて積んだ2+2のクーペという形式となった。この時点でポルシェというスポーツカーの基本形は決定したといえる。―略― 356を引き継ぐ911も同じ形式を継承することになる。性能アップのために6気筒化されたが、この重くて大きい6気筒エンジンが災いとなって当初911はやっかいな操縦性に悩まされることになる。しかし、これによってポルシェの個性はさらに強まる形となり、乗りこなしにくい操縦性にもかかわらず熱狂的なファンを増やすことになる〉

とはいえ、今は100年に一度の変革期。エンジン車の話だけでは単なる懐古趣味の本に終わってしまう。そこで著者は各物語の末尾で今後のカーボンニュートラル時代のクルマづくりにもしっかり言及している。

それらの記述に特徴的なのは、新しいクルマづくりも、これまでのブランド≒物語の影響を強く受けるとしているところだ。またもやポルシェの章からの抜粋となるが、以下がその例である。
〈現在のポルシェは、BEV化がもっとも進んでいるブランドのひとつ ―略― ただし、ポルシェはCO2と水素からつくる合成燃料の開発にも力を入れている ―略― 現在でもポルシェといえば911であり、911の存在こそがポルシェブランドの圧倒的な強さの源泉である。―略― ポルシェは最後まで、内燃機関を搭載した911を諦めないであろう〉

なお、著者はクルマをBEV化するのに最も適したブランドはロールス・ロイスだとしている。その理由がとてもわかりやすく、かつ非常に面白い。
〈2030年までに100%BEV化する予定というが、ロールス・ロイスの特性を考えれば、これほどBEVに向いたブランドもないといえる。なにしろ、無音・無振動に近い静粛性と滑らかさが特徴で、BEV的な乗り味を追求してきたブランドなのである。またロールス・ロイスの車体は大きく高価なので、大量のバッテリーを搭載することは難しくない。ほとんどのオーナーは大きなガレージのある豪邸に住んでいるはずで、充電設備を設置するのもまったく問題ないだろう。プライベートジェットも持っているとすれば、クルマで長距離移動する機会はそもそも少ないかもしれない。このように考えると、BEVの時代になってもロールス・ロイスの価値や存在感は盤石だろう〉

では、われらの日本車メーカーは、今後、どんなクルマを生み出していくのか。この本を読む限り、どこも迷走している模様。やはり急ぐべきは魅力ある物語≒ブランド構築なのかもしれない。

BookReview_51_2

『なぜクルマ好きは性能ではなく物語(ブランド)を買うのか ~自動車メーカー32ブランドの戦略』
・2024年3月13日発行
・著者:山崎明
・発行:三栄書房
・価格:1,760円(税込)

  • ロータスカードWeb入会
  • ロータスカードWeb入会
  • 店舗検索
  • 店舗検索
  • 楽ノリレンタカー
  • 楽ノリレンタカー

あわせて読みたい

  • 『i-MiEV(アイ・ミーブ)』10周年記念ストーリー(前編)- 次の100年へ向けクルマ社会の扉を開けたEVのパイオニア!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    『i-MiEV(アイ・ミーブ)』10周年…

    ロータスクラブが提携する、三菱自動車のEV『i-MiEV(アイ・ミーブ)』が、2019年6月5日に発表から10周年を迎えた。これを記念して、今回、アイ・ミーブ開…

    2019.09.10更新

  • EVキーマンに聞く/カーライフ・ジャーナリスト まるも亜希子 ① 「生きているうちにEV時代がくるなんて夢にも思っていませんでした」

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    EVキーマンに聞く/カーライフ・ジャーナ…

    女性そして母の視点で豊かなカーライフの在り方を提言し続けている自動車ジャーナリストのまるも亜希子さんに、EV(電気自動車)とPHV・PHEV(プラグインハイブリ…

    2019.06.25更新

  • BookReview⑫『2022年の次世代自動車産業』‐オリンピックイヤーは日本の自動車メーカーの岐路となる!?

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    BookReview⑫『2022年の次世…

    独米中がCASE実現に邁進中まずは、この本に書かれていることの受け売りから――。2016年のパリモーターショーで、ドイツの自動車メーカー・ダイムラーがCAS…

    2018.10.09更新

  • 2022全日本EVグランプリシリーズ第1戦レポート②―EVレース史に残る大激戦。1位と2位のタイム差は0.00秒!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    2022全日本EVグランプリシリーズ第1…

    筑波サーキット(コース2000)27周55㎞で競う、2022全日本EVグランプリシリーズ(AllJAPANEV-GPSERIES)第1戦。決勝は、想像以…

    2022.05.12更新

  • 「東京モーターショー2019」レポート(3) スズキはいつかきっとリーズナブルな電動車を国内で発売する!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    「東京モーターショー2019」レポート(…

    ロータスクラブと提携しているスズキは2020年に100周年を迎える。それを意識してか、今回の東京モーターショーのブースは、前回のよりも華やいだ演出がなされていた…

    2019.11.07更新

  • ALL JAPAN EV-GP SERIES 2023 第3戦レポート(2)―初の兄弟ワンツーフィニッシュ。アニー@ニキ選手の優勝でスエヒロ3連勝!

    みらいのくるまの「ただいまのところ」情報

    ALL JAPAN EV-GP SERI…

    ALLJAPANEV-GPSERIES2023の第3戦「全日本袖ケ浦EV55㎞レース大会」の決勝は、若干蒸し暑い薄曇りの天候のなかではじまった。逆転を…

    2023.07.06更新

< 前のページへ戻る