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2024年4月11日更新
フォーミュラEの東京E-Prixが3月30日、東京ビッグサイト周辺の特設コースで開催された。日本における初の本格的な公道レースということで、世間の耳目を大いに集めた。
そして翌31日、同じコースでALL JAPAN EV-GP SERIESに参戦する電動車がZEV PARADEと銘打ったデモランを実施。フォーミュラEよりも古い歴史を持つ日本オリジナルのEVレースの存在と魅力を多くの人々に知らしめた。
いずれもCO2排出がなく爆音もない街中でのモーター走行。カーボンニュートラル時代に相応しいレース、そしてランということで、日本のモータースポーツ史に意義ある歴史を刻んだ。
グランツーリスモの世界
3月31日に行われたデモランでは、日産リーフe+、テスラ モデルSプラッド、ジャガーI-PACE、トヨタMIRAI、テスラ モデル3パフォーマンス、ホンダ Honda eの計6台が出走。早朝にテスト走行を行った後、正午から約15分間の設定の中で、ビルや高架線に囲まれた全長2.582キロの特設コースを2周回した。
デモンストレーションの規定に基づいての走行であったため、スピードは80㎞/hに規制されていた。だが、コンクリートウォールとフェンスに囲まれた狭い公道を、タイヤを軋ませながらノンストップで駆け抜けていく様は超スリリング。ゲーム『グランツーリスモ』の市街地レースの世界をほうふつとさせ、観る者の心を激しく震わせた。
タイトゆえに面白い
実際に走ったドライバーたちもまた、この初めての体験に触発され、さまざまな思いを抱いていた。
ALL JAPAN EV-GP SERIESで4年連続年間総合チャンピオンとなった経歴を持つ地頭所光選手(Team TAISAN)は、爆速の1000馬力のテスラ モデルSプラッドで公道コースを走った感触をこんなふうに述べている。
「想像以上にタイトかつバンピー。広くフラットなサーキットを走るのとはまったく違う難しさがあった。ただ、それだけに本気で攻めたら絶対に楽しくなるという予感もし、それを思うとかなりワクワクできた。今後も引き続き日本の市街地でフォーミュラEが開催されると聞いている。そのコースを使ってわれわれもレースができたらなによりだと思う。ドライバーとして新しいチャレンジがしたいし、市販EVによるレース独自の魅力を日本、そして世界の人たちに発信してゆきたい」
昨シーズンのALL JAPAN EV-GP SERIESの年間総合チャンピオンである余郷敦選手(Team TAISAN)はテスラ モデル3で出走。かつてル・マン24を走ったときの体験を振り返りつつ、このコースの魅力を語ってくれた。
「ル・マン24のコースにある公道には若干のセーフティゾーンが設けられているが、ここにはまったくない。エンジン車の感覚でいえばかなり難しくて怖いコースといえる。しかし、一瞬にして加速する電気自動車なら、反応よく危機回避ができるし、追い越しも可能。そのことを考えれば、逆に面白いレースができるコースともいえる。ぜひ将来、ALL JAPAN EV-GP SERIESのひとつにこうした公道レースを加えてもらいたい。それによって市街地サーキットを得意とする日本人ドライバーが育っていくだろうし、日本のレース文化も豊かさを増していくと思う」
トヨタMIRAIで公道コースを走ったのは、元ダカールラリードライバーの寺田昌弘選手(AKIRA RACING)。当初はチームの代表兼ドライバーの飯田章氏がドライブする予定だったが、外せない別の用事が入ったため、急きょ、寺田選手にハンドルを託す格好となった。オフロードのプロは、この市街地サーキットをどう見たのであろうか?
「ちょっと狭い印象はあったものの、とても走りやすかった。その理由として、フォーミュラマシンが走ることを考えて90度以上回り込むコーナーがひとつもなかったことが挙げられる。それから、飯田章がMIRAIの足周りをうまくセットしていたことも少なからず影響したと思う。とにかくリズム感よく走れて非常に楽しかった。部外者の自分が言うのもなんだが、今後、ALL JAPAN EV-GP SERIESにこうしたコースでのレースが加われば、SERIESの面白みがもっと増すように思う。ファンにとってもいいことだらけ。遠くのサーキットに行かずともレース観戦ができるし、身近な市販車が見慣れた街中をすごく速く走るところを目にすれば、きっといつも以上に興奮できる。ぜひ実現を期待したい」
寺田選手によれば、今回のフォーミュラEの東京E-Prixのコース設計に飯田章氏も重要な役割を担ったという。本人不在のため詳細はわからずじまいだったが、そうであれば、普段からALL JAPAN EV-GP SERIESに参戦している経験が大いに活かされたのではないだろうか。そう考えると、実に感慨深い。
市販EVの公道レースの夢
実は飯田章氏以外にも、ALL JAPAN EV-GP SERIES関係者の中に東京E-Prixの公道レース実現の影の立役者がいる。
それはTeam TAISANの代表であり、モータースポーツ界の大御所である千葉泰常氏だ。
氏は25年前から舘内端氏(日本EVクラブ代表)とともに東京都に対して環境にいいEVレースを公道で開催できるよう陳情し続けてきた。今回は間接的な影響ではあるものの、その地道な活動が実を結んだ格好となった。
このことに関して氏は「長年の努力がかなって感無量」との感慨を口にした。しかし「これで夢の追求が終わったわけではない」とし、こう話を続けた。
「次の夢は、われわれが参戦するALL JAPAN EV-GP SERIESでの公道レースの実現。EVの市街地でのレースは、とにかくメリットがいっぱいだ。環境にいい。騒音が出ない。街がにぎわう。モータスポーツが身近になる。クルマ文化が豊かになる……。目指さない理由が見当たらない」
これを受け、主催者であるJEVRA(日本電気自動車レース協会)の富沢久哉事務局長もこんなふうに抱負を語った。
「公道レース開催はJEVRAにとっても長年の夢。Team TAISANの千葉代表はじめとするSERIES参戦の皆さん並びにファンの皆さんからの多くの賛同と協力を仰ぎながら、ぜひとも実現を目指したい」
状況と態勢は整いつつある。市販EVによる公道レースの実現は、そう遠い日のことではなさそうだ。
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