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BookReview⑰『2020年版 間違いだらけのクルマ選び』 – 史上初めてEVが[今期のベスト3台]に選ばれた!

2020年1月23日更新



テスラ・モデル3は本物

2019年は、新しいEVの発表や発売が相次いだ。特に欧米のメーカーからのEVラッシュがすごかった。

著者・島下泰久氏は自動車ジャーナリストであるからして、当然ながらそのほとんどに乗ったり触ったりしている。ときには開発段階のものにまで乗り込み、その走りの如何を吟味している。

この本では、それらの中から日産リーフe+、マツダMX-30、ホンダe、フォルクスワーゲンID.3、プジョーe-208、ポルシェ・タイカン、テスラ・モデル3、メルセデス・ベンツEQCといったEVを取り上げており、それぞれに批評を加えている。

評価はどれもおおむね良好。たとえばプジョーe-208を「デザイン良く、走り楽しく、技術も興味深い」と褒め、ポルシェ・タイカンを「速くてコントローラブル。ホレボレする」と賞賛している。

テスラ・モデル3に至っては「ライバル達の心胆寒からしむ本物のクルマ」と表現するほどの激賞ぶりで、なんと1年間に登場した国内外すべてのタイプのクルマから選ぶ[今期のベスト3台]の一つにも挙げている。

2位はテスラ・モデル3だ。(中略)フットワークにしてもドライバビリティにしても新たな次元を切り開き、上質とも言えるほどの感触を身につけていたのだ。そんな走りに斬新なインテリアや操作系の先進性あるいは面白さ、大容量のバッテリーによる航続距離等々まで考え合わせると、511万円からという価格は凄まじくリーズナブルと言える。個人的には、今ならBMW3シリーズやメルセデス・ベンツCクラスを買うより、断然モデル3を選ぶ。是非一緒に暮らしてみたい1台である。(『2020年版 間違いだらけのクルマ選び』より)

この[今期のベスト3台]は『間違いだらけのクルマ選び』の2017年版から始まった比較的新しい企画ではあるのだが、EVがその中の一台として選ばれたのは今回が初のこと。そういう意味では画期的。読む者としては、つい「本格的なEV時代の到来か!」との思いを抱きそうになる。

だが、早計は禁物だ。著者は、この本においてそうした感慨にちょっとした冷や水のようなものを浴びせかけてくる。

EVもCO₂をたくさん出す!?

この本の前半部分のエッセイで著者は、次々に新しいEVが発売・発表されているにしても、それがめでたき本格的普及を意味するものではないということを行間の隙間に匂わせる。

その理由として、昔から言い続けられている充電インフラの不十分さを挙げている。

現在、日本の公共充電器の設置数は、普通充電器・急速充電器を合わせて約2万台でガソリンスタンドに匹敵するほどにはなってきた。しかし、頻繁に利用される場所での設置数はまだまだ足りておらず、例えば週末のサービスエリアなどでは急速充電器の前に長い順番待ちの列ができている事実があったりする。それはEVドライバーをイライラさせるし、明らかにEVによるスムーズな移動を阻んでいる。EV普及率1%前後の今でさえそうなのだから、もし2%、3%と増えていったときには、それはもっとひどいことになるだろうと著者は危惧を露わにしているのだ。

また、EVの普及には自宅やオフィスでの充電習慣の定着が必須なわけだが、いったいどれだけの家庭、会社が充電設備を設置しているのかという問題を著者はついてくる。それが当たり前のこととして進まない限り、多くの人が普通にEVを愛車とする状況は生まれにくいだろうと著者は言うのだ。

インフラのことだけではない。EV普及を促進するための言説として使われている「EVは環境性能に優れている」にもギモンを投げかける。

EVは走行中にCO₂を出さないことから地球温暖化を食い止める神器と目されているが、それは必ずしも正しくない認識だと著者ははっきりと言葉にしないまでも指摘する。なぜなら、クルマの製造から廃棄までのライフサイクルを通したCO₂排出量を考えれば、EVが環境にいいクルマだとは言い切れない側面が出てくるからだ。
リチウムイオンバッテリーは生産工程でのCO₂排出量が多く、大容量化すればそれだけで不利で、たとえば95kWhの場合、ライフサイクルでのCO₂排出量は、16万㎞(10万マイル)走行した場合でも、同クラスのディーゼル車より多い。(『2020年版 間違いだらけのクルマ選び』より)

このライフサイクルでのCO₂排出量云々については、バッテリー容量の大小だけでなく、バッテリーを製造する国の発電が化石燃料、原子力、再生可能エネルギーのどれに頼っているかによっても違ってくるので、一概には言えないところがある。ただ、現状、石炭を含む化石燃料に大きく依存している日本においては著者の記述はおおむね正しいようで、そこからはむやみに「EV=環境にいい」という神話を信じて購入に走ってはならないとの説教が浮かび上がってくる。

こうしたインフラの不足面の指摘といい、環境性能に関する誤解の指摘といい、もしかして、自動車ジャーナリストである著者はEVの本格普及をあまり快いことと思っていないのだろうか?

いや、決してそうではない。著者は単に拙速は良くないと言っているだけだ。
現実的には、ここからEVが一気に増えだすというより、適切なバランスを探っていくフェイズに本来なら入るはず。(『2020年版 間違いだらけのクルマ選び』より)

そう、新しいEVが続々と登場するにしても、それに見あった充電インフラを充実させていくことを忘れてはいけない。そして環境性能を謳うなら、EV製造の際の電力についてCO₂排出量を少なくしていくことが不可欠だ(同時に製造方法を省電力化していくべきだ)。そこに行き着くまでは、エンジン車、ハイブリッド車、PHEV、EV、FCV(燃料電池車)といったさまざまなパワートレインのクルマの適切なバランスを取りながら進んでいくのが妥当で、本格的なEV普及の時代はそれを経てから迎えるべきものだと著者はいうのである。
だから今回、テスラ・モデル3をベスト3の一つに選んだのは、純粋にクルマとしての魅力を認めたからではあるものの、もしかするとそのことを強調したいがためだったと見ることもできる。

ちなみに、著者はトヨタのFCVであるMIRAIの初代を愛車の一つにしている。水素ステーションが少なく極めて不便なカーライフを余儀なくされているようだが、それはそれとして、実は著者は次世代のクルマとしてもっとも期待できるのはEVではなく進化の伸びしろが大きいFCVの方だと言っている。モーターで快適に走り、CO₂を出さない環境にいい電動車に対する熱い想いはしっかりと持っているのである。

自動車ジャーナリストは、モータリゼーションの現実とはるか未来を同時に見渡してクルマを論評し、われわれユーザーに行くべき道筋を示してくれる存在であることを、この本を読むと改めてよく認識できる。激動のクルマの世界を冷静に捉えて最適なクルマ選びをしたいと考えるヒトには必読の書だ。(文:みらいのくるま取材班)



『2020年版 間違いだらけのクルマ選び』
・2019年12月25日発行
・著者:島下泰久
・発行:草思社
・価格:1,500円+税

 

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