「街と車」　～　「NAVI」表紙写真ストーリー　 Vol.3

写真・初沢克利

「取材の条件として駐車場の確保をお願いしたいのですが」
有名な邦楽家のインタビューだった。
知り合いの写真家に連絡すると表参道に駐車場をおさえられると言うので、写真家の妻のアトリエを取材場所に選ぶことにした。
ヘアメイクアーティストのアトリエだった。
大きな鏡があり雰囲気もいい。私も髪を切ってもらっていたので取材場所として悪くないと思った。
「意外な場所で取材するんですね」
アトリエで邦楽家は驚いていた。私は表参道の駐車場を抑えられて本当によかったと思った。都会で車生活をしていると駐車という問題が生じる。これは東京もパリも同じで、東京は空き地利用のコインパーキングが多くあるので助かっている。
写真を見てもらいたい。モンパルナスの駐車事情がよくわかる。パリは歴史的建造物が多く東京のように空き地になることが少ない。東京でよく見られる空き地を利用したコインパーキングは珍しいと思う。自然と道路に車を駐車することになる。車間は15センチくらいだろうか。初沢氏によるとバンパーが接触するのは当たり前で、ときには車を押して駐車することもあったという。
写真を撮った90年代は無料で駐車することができたが、現在はチケットを購入しなければならない。パリで車生活することは年々大変になってきているのだ。
1972年に登場しヨーロッパでベストセラーになった「ルノー5」が写っている。フランス語で「5」を「サンク」と発音するので「サンク」と呼ばれた。前輪駆動小型乗用車は多くの市民の足になった。その革新的なデザインはその後の小型乗用車のスタンダード・デザインになっている。フロントを見ると1984年にモデルチェンジした「シュペールサンク」だということがわかる。1990年までに400万台が生産され当時のパリのスタンダードな車種のひとつになっていた。
「ルノー5」は10年近くモデルチェンジされなかった。街のなかに溶け込んだような車だった。
モンパルナスは芸術家に愛された街である。初沢氏はこの街に住んでいた。（文・渡辺久浩）