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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2018年7月5日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
Vさん(70歳)は、長きにわたって無事故・無違反をつづけてきたゴールド免許保持者。地域のゲートボール大会のチャンピオンタイトル保持者でもあることから、仲間内では尊敬と憧れの念をこめて「金さん」という渾名で呼ばれている。
そんなVさんだったが、ある日、残念なことに、ついに交通上の大失敗をやらかしてしまった。
ゲートボールの練習の時間に遅れそうになり、いつものルートをクルマで急いでいたのだが、狭い住宅地の道路の信号機のない交差点に進入したときに、左から走ってきた自転車と出合い頭の接触事故を起こしてしまったのだ。
急いでいたとはいえ、それなりに慎重に運転していた。自転車の存在に気づいて急ブレーキもかけた。だが、自転車の男性がスマホを見ながらペダルを漕いでいたため、止まることも回避することもなくVさんのクルマのフロントバンパーを擦ることになったのだった。自転車は男性もよろけてゆっくりと転倒。大したことない事故ではあったが、ガシャーンという派手な音が鳴り響いた。
自転車の30代とおぼしき男性は、すぐに立ち上がり、手から落ちたスマホを急いで拾って顔をしかめた。ついで自転車の状態をしげしげと眺めて眉をひそめた。そして、やおらVさんのほうに顔を向けて、こういった。
「スマホのガラスが割れちゃったよ。自転車もカゴとかもひん曲がっちゃったよ。おじいちゃんさぁ~、道路上では歩行者と自転車を優先しなきゃいけないってこと、知らないの?どうすんの、これ」
Vさん、相手の不注意な運転を糾弾したいとは思ったものの、交通社会ではどんな状況であっても歩行者と自転車が100%優位だという記憶があって、口からでたのは謝罪の言葉だった。
「まことに申し訳ない。すみません。すぐに警察を呼んで対処します」
それを聞いた男性は、2秒ほど考えてからこういった。
「いやいや、警察を呼ぶほどの事故じゃないよ。現場検証、時間がかかって面倒だから、そういうのやめようよ。それよりさ、簡単に示談で済まそうよ。スマホと自転車の修理代10万円ってとこで、どう?」
果たして10万円もかかるかどうか怪しいところではあった。だが、相手への申し訳なさに加え、Vさん自身も警察を呼ぶ面倒とゴールド免許が取り消されることを避けたい気持ちがあった。それに、まだゲートボールの練習にもいきたいという思いも強くあった。
結局、Vさんは、男性の提案を飲むことにした。近くのコンビニのATMでお金をおろして男性に手渡し、その場で書いた簡単な示談書を交わして別れた。やれやれ。Vさん、なんとなくもやもやした気分は残ったものの、これで正解だったんだと自分を無理矢理に納得させてその日を終えた。
ところが翌日の夕刻、自分の行為がまったくもって正解でないことが明らかとなった。Vさんのケータイに、あの自転車の男性から電話があり、さらなる金銭要求をしてきたのだ。
「あのさ、転倒したときにさ、どうも腕を打撲してたみたいなんだよ。で、病院で診てもらったら全治1ヵ月だってさ。それで治療費と慰謝料なんだけどね……」
どうやら相当にタチが悪いヤツにひっかかってしまった模様。あわわわ。
どんな軽い事故でも警察に連絡を
Vさん、まことに軽率でした。
今回、二つの大きな間違いを起こしてしまっています。
一つはいうまでもなく、警察に連絡を入れなかったことです。
どんな軽微な事故であっても警察を呼んで、客観的な立場から事故の内容をしっかり検分してもらうというのは不可欠です。それは、保険の過失割合をはっきりさせるためだけでなく、事故後に起こるかもしれない理不尽ないざこざを防ぐためでもあります。たとえば、今回の自転車の男性のような悪質なたかり防止などは、その典型といえます。
Vさん、事後であっても遅くはありません。すぐに警察および保険会社に連絡を入れて、事故のこと、示談金のこと、そしてその後の金銭要求についての報告をすべきでしょう。ゴールド免許でなくなるかもしれないし、たっぷり油を絞られるかもしれませんが、致し方ありません。今後、ずるずると自転車の男性のいいなりになるよりはマシと考えるべきでしょう。
交通弱者も過失が問われることがある
もう一つのVさんの間違いは、「交通社会では、どんな状況であっても歩行者と自転車が100%優位」と捉えていたことです。
たしかに交通社会においては、昔から基本的に歩行者や自転車の交通弱者を優先すべきとされてきました。かつては、どんな状況下の事故でも、ほぼ全面的にクルマ側に非があるとされたときさえあったほどです。
しかし、時を経るにつれ、それも徐々に変わってきました。交通弱者優先という基本的な考え方は変わらないものの、状況によっては、それなりに交通弱者側にも過失責任が問われるようになってきているのです。
とくに自転車が交通違反を犯した状態での事故ではその傾向が顕著です。これには、2015年の道路交通法の改正以降、自転車の交通ルールが細かく規定され、以前より厳しく取り締まられるようになったことも少なからず影響を及ぼしています。
■2015年の道路交通法改正で明文化された自転車のおもな交通ルール
①道路の左側を通行
罰則:3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金
②歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行
罰則:2万円以下の罰金または科料
③飲酒運転禁止
罰則:5年以下の懲役または100万円以下の罰金(酒酔いの場合)
④2人乗り運転禁止
罰則:2万円以下の罰金または科料
⑤並進走行禁止
罰則:2万円以下の罰金または科料
⑥夜間はライトを点灯
罰則:5万円以下の罰金
⑦信号無視禁止
罰則:3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金
⑧一時停止
罰則:3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金
⑨しゃ断踏切立ち入り
罰則:3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金
⑩ブレーキ不良(備えていない)自転車運転
罰則:5万円以下の罰金
⑪傘差し運転
罰則:5万円以下の罰金
⑫携帯電話使用運転
罰則:5万円以下の罰金
⑬イヤホーン等使用運転
罰則:5万円以下の罰金
※参考:『自転車の正しい乗り方』警視庁
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